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    hokui39

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    hokui39

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    エワ8&ゆまおさプチオンリー開催おめでとうございます!

    ふたりのしあわせ ふたりきりの部屋で、気の向くままにだらだらと続いていた会話が途切れた少しの沈黙に、ふっと空閑が笑い声を漏らした。小さな部屋の沈黙には、ほとんど吐息のようなかすかな音でもよく響いた。
    「……急にどうしたんだ?」
    「あっ……いや、あれ、ちょっと思い出して」
     これは失礼、と取り繕う言葉を並べながらも取り繕う気があるのかないのか、遊真の頬はやわらかく緩んだままだ。それを訝しげに見やる修は、いったい今日は何があっただろうかと今日の行動を思い返す。しかし、特筆すべきことはなかったように思う。今日は朝から今までほとんどずっと一緒に過ごしていたから、遊真の行動は把握しているのだ。それでは、今日よりも前のことだろうか。
     考え込む自分を他所に、くふくふと、あまりにやさしく、幸せそうな顔をするものだからなんだかすっきりしない。悪く言えば、面白くない。修は自分のことを、あまり他人に執着する人間ではないと思っていたが、遊真への特別な好意を自覚し、恋人として過ごし始めてから「そんなことなかった」と自覚するまで時間はそれほどかからなかった。
    「今日はずっと一緒にいたよなあ。最近、そんな思い出して笑うような面白いことなんてあったか?」
    「うーん、面白いというか、なんというか……」
    「なんだよ、気になるだろ」
    「おれにとってはうれしいこと」
     さっさと教えてくれない空閑に続きを促す。つっこんでも機嫌がよさそうなので、隠したいようには見えないのに、焦らされると余計に気になる。
    「オサムがさ、みんなの前で遊真って、呼んだだろ」
    「えっ」
    「ふたりっきりじゃないときに、しかもあんなみんないるとこで呼ばれるの初めてだから、おれとしては結構衝撃的でして……」
     (なんだそれ。いや、空閑が照れたように首の後ろを掻くのはかわいいんだけど)
    全く身に覚えがない行動を指摘されて、修の思考は停止した。ついでに混乱のあまりが違う方に逸れた。
    「あ、夕飯のときだよ。ソースとってくれたじゃん、そのとき」
    「夕飯……」
     たしかにコロッケにかけるソースを渡すのに声をかけた。かけたけれど、遊真と呼んだ記憶がない。そのときは何とも思わなかったが、一瞬変な空気になったような気がしなくもない。言われてみればそうかも、くらいの記憶だ。ああ、ヒュースが口いっぱいに咀嚼しながら半目でじとっと見ていた、かもしれない。そういえば、今思えば、と曖昧な記憶が頭の中を巡る。
    「やっぱりな、うっかりだった」
    苦笑する空閑の声に意識が引き戻された。その微笑みに揶揄うような意地悪さは一切見られない。やっぱり、なんだか幸せそうに笑うのだ。失態をからかうでもなく、ただ幸せそうに。
    両想いを確かめ合ってから、「遊真」と呼ぶようリクエストされた。しかし、修としては「空閑」と呼ぶのが好きだし、呼び方を急に変えたら周囲に違和感を与えるだろうし、そもそも呼び方を変える必要性を感じないと率直な意見を告げたのは、たしか2か月ほど前のことだ。
    遊真も恋人になって浮かれた勢いで言い出したところが大きく、絶対下の名前を呼ばせたいわけではなかったので、あっさりと引き下がった。しかし、やっぱり呼んでみてほしそうな顔で見つめられると、その顔に弱い修から妥協案を提示した。それから、ふたりきりのときに無理のない範囲で「遊真」と呼ぶようになった。
    それでも修があんまり忘れるので「なあ、空閑……」「遊真」「……遊真」「ん」というやりとりが染みついていたのだが、無意識に呼んでしまうとは――空閑の粘り勝ちだなあ、と素直に感心する。
    「ああ、すっかり、お前のいいように仕込まれたなあ」
    「おお?オサムが?……なにそれ、なんか気分いいね」
    「それほどか?」
    「うん。おれが仕込みましたーって言えるじゃん。……で、何のこと?」
     自分のこぼした一言に思いのほか遊真が喰いついたのがわかって、修も軽く笑う。
    「だってお前が、」
     遊真が瞳をきらきらと輝かせたのがわかってむずむずとこそばゆい心地になったこともあり、一旦口を閉じてから、いや、思ったことを隠したって仕方がないと開き直る。
    「遊真って呼ぶと、お前があんまり嬉しそうにするから」
    「うん」
    「それで、ぼくはく…遊真が笑うと嬉しい。その理由がぼくなら、なおさら嬉しい。それをこの2か月くらい何回も繰り返した。ぼくのうっかりはたぶん、そういうことなんだよ」
     だってそんなの、遊真が修に仕込んだ条件反射としか言えないだろう。
     一切の恥じらいなく明かした修は穏やかに破顔した。遊真は目を瞠って、これ以上ないほど嬉しそうにふわりと笑った。

     実は呼び方はなんでもいい、ということはもう少し黙っていよう。関係の変化に浮かれたわがままを、修はなんだかんだ受け入れて自分が変わることを厭わなかった。そう仕向けたのは自分ではあるけれど、受け入れるどころか、お前のせいで変わったんだと、そこまで含めて笑ってくれた。オサムがやっぱり好きだなあと、今はその幸せな気持ちを噛みしめたい。

     
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    hokui39

    TRAINING遊修が恋だと気付いたのは目が合ってからそらされたとき です。
    #shindanmaker
    https://shindanmaker.com/558753
     人と話すときは目を見て話すものだ。
     そう言う人がよくいるけれど、それが礼儀だかららしい。
    「包み隠さず話そう」という相手への意思表示なのか、真剣に聞いていることをアピールしているのか。あるいは、言葉から読み取ることができない情報を得るための合理的な術なのか。そのあたりは人によって主張がさまざまあるようだ。

     これを踏まえて言うならば、オサムは意外と、話していて目が合わないことがわりとある。作戦とか先のこととかを考えながら話しているとき、あとは、これは人間の習性だろうか、過去を見ているときもだ。(生返事のときもあるが、そういうときはおれの声すらまったく耳に入っていない)
     もちろん、あのまっすぐこちらを捉える翠の瞳と目を合わせて話すのは好きだ。でも、おれはオサムと話すときは、目が合わなくても、顔が見えなくたって平気だ。オサムの声にはそのままの感情がのっている、というのだろうか。決意も、不安も、後悔さえも。こと戦場においては弱点とも言えるだろうけど、言葉と気持ちが合っている感じがして、安心できるんだと思う。答え合わせをしたわけじゃないけど、きっとそうなんだ。
    1841

    hokui39

    DONE高校1年生の遊修が別クラスだったら
    ガトーショコラ 移動教室のために1階の廊下を通ったとき、冷え切った空間にチョコの甘い匂いが漂っていることに気付いた。そういえば、今日は空閑のクラスが調理実習の日なんだったと、ぼんやり思い出した。


     高校に上がって、空閑とは別のクラスになった。
    ふつうに考えればその可能性はあったのに、なぜ同じクラスになるような気がしていたんだろうか。4月にそれが現実となったとき、自分でも思った以上の衝撃を受けたのを覚えている。
     一方、空閑はあっさりしたもので、「なんだ、オサムとはちがうクラスか」とだけ言って教室に向かって歩き出した。そして、中学校のときにそうだったように、やっぱり僕なんかよりよほどクラスメイトと上手くやっているようだし、幸い空閑の学力についても周りが世話を焼いてくれているらしい。それは喜ばしいことのはずだ。それなのに、胸がもやもやするのを感じているから、きっと素直に喜べていないんだと思う。日常生活のこともボーダーのことも、僕が教える前に教えてくれる人はたくさんいるし、ついに学校でのことも一番に教えるのが自分じゃなくなってしまった。きっと、ぽっかりとそのスペースが空いてしまったような気持ちなんだと思う。たぶん。
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