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    iamkakure_

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    ルルディがルルディじゃなかったらどうだったのかというifです。

    雨が雪に変わるまで年末の研究発表会を終えて、カフェのある大通りを歩いていた。
    この時期の雨は、ほとんど霙のようなものだ。
    年末と言えば、あのクソ親父から色々連絡が来るが、今年はほとんど無視している。
    あの女からも定期的に金が欲しいが故の媚へつらった内容のメールがくる。あの女の、この年の息子に「ちゃん」付けする神経を疑う。もっとも、おれはあいつを母親だと認めていないが。

    大通りを歩き曲がった先には、
    カフェと隣接した小さなギャラリーがある。
    まだ学部生だった頃に後輩と行ったきりで最近はなかなか寄ることができなかった。定期的に行きたくなる場所である。久しぶりに店に入ると、入口に、以前にはなかった椅子があった。その上には大きなテディベアが座っている。カフェの雰囲気はあらかた変わってはいないのだが、ところどころにアンティーク調の人形や小物が飾ってあった。

    「いらっしゃいませ、こちらのお席にどうぞ。」
    バイトだろうか。高校生くらいの栗毛色の髪色をした少年に案内をされるまま、窓際の席に座った。窓を覗くと、先ほどの雨が霙に変わっていた。俺はアールグレイティーを注文した。しばらくして、注文した紅茶がきたのだが、おそらく以前と使っていたものが違うのか、香りも味も控えめだった。客は、俺以外にはいなかった。

    「お兄さんは、いつごろからここで働いているのですか。」とくに話しかけるつもりもなかったのだが、店員がものすごく暇そうにしていたもので、思わず話しかけてしまった。
    「あ、ええと、半年ほど前からですね。」
    彼は、俺に話しかけられると思わなかったらしい。「そうなんですね、急に聞いてしまってすみません。久しぶりにここに来たので、つい。」知り合いでもないのに、不思議だ。少年を見ていると、なぜだか、懐かしいという感情に駆られた。亜蝶は紅茶を啜った。しばらくして、会計を終えてから、地下にあるギャラリーに向かった。今の時期は、クリスマスにまつわる創作作品を展示しているようで、サンタの絵や、雪だるまの絵、トナカイの絵などが並ぶ。どういう人間が描いているかは分からないが、細部まで作り込まれているものが大半であった。
    ギャラリーの入口付近を曲がって、
    奥のエリアに行くと、俺以外にもう一人鑑賞者がいた。黒のタートルネックに灰色のチェスターコートを羽織っている。

    二メートル近いように見える大男だった。
    髪の色が薄く、顔立ちも相まってハーフかと推測した。男は、俺がいることに気が付いて、一瞬こちらを見たが、その後はすぐ作品の方に視線を戻していた。手には、赤い紙袋を掲げていた。しばらく同じ空間にいて、眉一つ動かさないほどの無表情を貫いていたが、背中にどことなく哀愁が漂っていた。

    「今日、俺誕生日なんです。」一瞬、なんの音だか分からず周囲を見回してしまったが、目の前の男が口を動かしていたので、ああ、この男かと分かった。だが、そこから言葉の意味を読み取るのに少し間が空き、「お、おめでとうございます。」と、声を絞り出した。そこから少しだけ、沈黙があった後に、また男が口を開いたのだった。
    「それでついさっき、婚約者に、別れを告げられたんですが」内心、急に身の上話を始めるこの男は何なんだと、と恐怖を抱いたが、俺は続きの言葉を聞いた。
    「何も、感じることができなかった、んです。」
    男はそう言って、カップルが描かれている絵を見つめていた。人並みの経験しかなく、こんな特殊な状況をそうそう経験したことがないので、言葉に迷っていると、男はさらに続けた。
    「あなたが何を考えているのか分からない、とか、私のこと好きじゃないんでしょう、とか、色々言われた後に、あなたって人の感情がないのね、と言われて、そのままいなくなってしまった。」そう語る横顔が、悲しい、でも辛い、でもなく、(よくわからない)が透けて見える表情であることに亜蝶は気が付き、この男の人間性の一端を見てしまった気持ちになった。おそらく、喧嘩などの捨て台詞ではなく、実際にそう、、だという指摘の言葉なのだろう、と類推した。
    「…あなたのことをよく知らないので、なんといえば良いのかはわかりませんが」男がもう一度こちらを見ていた。
    「ご自身の気持ちに嘘をつくと、近くにいる人には案外すぐばれてしまうのだと思います。」
    目を伏せていた男とはっきり目が合った時に、少しばかり眉と瞳孔が動いたのが分かった。
    「そうだったんですかね。」
    その後しばらくは、特に会話もなく、ギャラリーを見終えて、出口に向かった。
    外はもう雪になっていた。男は袋から赤いマフラーを取り出したが、しばらく屋根の下で留まっている。俺は黒の傘を開こうとしていた。すると、男はくるりとこちらを向いて、マフラーを俺の胸のあたりに差し出した。
    「寒そうだと思ってたんだ。良かったら、使ってくれ。」何を言っている、この男は、と考える間もなく首にはマフラーが巻かれていた。
    「待ってください、これは受け取れません。そもそも借りたとして、何処にどうやって返せばいいんですか。」マフラーをほどこうとすると、男が手を添えてそれを制止した。
    「またここに来るので、その時に。」男は、呼び止めようとした時にはもう向こうの方に消えてしまった。屋根の下、ポツンと取り残された亜蝶は、放心のまま傘を開いて、雪の降る大通りを歩いて行った。
    今日は12月27日だった。
     
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    iamkakure_

    PASTギャグを下さい ルルディ……
    ルルディの夏休み~亜蝶、海に行かないか~「亜蝶、海に行かないか。」「いいですね!行きましょう!」「は?」
    ルイは、その表情を変えずに、黄色にパイナップル柄の入ったアロハシャツを身にまとっていた。腕にはピンク色の浮き輪を抱えている。鬨も様子がおかしい。ピンクにフラミンゴの柄の入ったアロハシャツを身にまとい、オマケにハートの形をしたサングラスを付けている。「せっかくの夏休みだ、ゆっくり楽しんできなさい。」そういやあの人もこんなことを言っていた気がする。おいやめろ、誰か嘘だと言ってくれ。烏麻亜蝶は、海が苦手であった。
    パラソルの下、烏麻亜蝶の日焼け対策は万全である。いわゆる女優帽にサングラス、首元は見えず、肩まであるアームカバーを身にまとい、優雅にミックスジュースを飲んでいた。あくまで、「2人を優雅に見守る烏麻亜蝶」であれ。亜蝶は雰囲気を出しながらも、あまり目立たないように息を潜めていた。「亜蝶…」長身の男の影が忍び寄る。パラソルの向こうから声がするが、狸寝入りでもしておこうか。「あれ、亜蝶さん、もしかして寝てます?」やっぱり嫌だ、鬨に誤解される。「俺は起きてるぞ、鬨。」あ、なんだ〜とサングラスをあげた鬨は、ルイの元へ走っていく。「亜蝶…」ルイは、水鉄砲を脇に抱え、仲間になりたそうにこちらを見ている。犬みたいな顔でこっちを見るな、お前いつもブッダみたいな顔をしてるくせに。身につけたものをとっぱらって、烏麻亜蝶は水鉄砲を装備した。「ルルディの皆さん、なんだかんだ楽しそうで何よりです」「そうだね、烏麻亜蝶が水鉄砲は意外だけど…若いっていいねえ〜あんな笑顔初めて見たよ。」密かに写真を収めていたスタッフ一同、今までのロケとは比べ物にならないぐらいの平和な空気に心底ほっとしていた。おいスタッフ、すべてこちらに聞こえているぞ、クソが。傍から見れば成人男性2人と未成年がキャッキャウフフと優雅に戯れている平和な画に見えるであろう。しかし、烏麻亜蝶の緊張感はMAXであった。(砂が足に付く!!なんだこの不快感は!!!)(クソっ俺はルイに絶妙にかけすぎないように調整してやってるのに、こいつからは1ミリも俺に気を遣おうという配慮が見られない…)(昔のダンスのレッスンよりも海水を避けるステップがきつい…!)
    1322

    iamkakure_

    PAST鬨くん……という気持ちで書いた
    パステルカラーの夢を見る。パステルカラーの夢を見る。ぐるぐる、ぐるぐる、ずっと回って、回り続けている。光る世界は万華鏡みたいで、すごく楽しい。くまさんも一緒。僕の周りには、ふわふわなお菓子と、かわいいものでいっぱい。夢色のパステルカラーに包まれて、どこまでもいけそうだった。

    朝から声のハリがなくて、不調かも?と思った時に、ふとそちらをみてしまったのが良くなかったのかもしれない。「鬨、こちらへ。」地を蠢くような迫力のある、クリアな声。恐る恐る近づいていくと、その刹那にバチン、という音がして、時間差で頬に痛みが走った。「ここの音が掠れているのはなぜだ。」細い腕が僕の髪をぐい、と掴む。「が、亜蝶さん、髪は、痛いです、亜蝶さん、っ」蛇よりも鋭い赤い目が黒い前髪の間からこちらを覗いていた。「鬨、残念だ、お前はその程度か?ルルディの世界観に中途半端なパフォーマンスが合わないことは加入当初から分かっているはずだが。」髪を握る力がさらに強くなる。「ふざけるな」亜蝶は、鬼気迫る剣幕で鬨の顔を正面から睨みつけた。あまりの気迫と、頭部に走る激しい痛みに、視界がぐらぐらと揺らいでいくのを感じた。鬨は、ごめんなさい、見捨てないでください、まだやれます、お願いします、と言葉を必死に並べた。最後の言葉を発したあたりで、視界は真っ暗になった。
    1918

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