【音声ログ(自動記録)-███/██/██-9:12】【音声ログ(自動記録)-███/██/██-9:12】
ふと見覚えのない音声記録に目を止める。この日のこの時間、部屋には自分しかいなかったはず。無論会話なんてしているはずも無い。疑念を晴らすべくログを開く。
-認証中……
-本人確認が完了しました
-ようこそ"エレレ大尉"
-記録を再生します
紙をめくる音や資料に書き込む音、多少の電子音が部屋に響いている。それも当然、この時自分は一人で作業をしていた。───はずだった。
突然、何者かの声が響く。
[ERROR]「お久しぶりです、先生」
🎓「あら、貴女は……」
[ERROR]「やっぱり、先生も私を覚えていないんですね───」
🎓「……」
[ERROR]「いいんです、私、誰にも覚えてもらえないタチですから。それでも、そうであるから、先生のお世話になってたときは本当に嬉しかったんです。先生はちゃんと私を認識してくれていた」
🎓「……それで、ご用件は?」
[ERROR]「大したことじゃありません。最近、風の噂で先生の"子供達"が増えたと聞きまして。どうです?育て甲斐はありそうですか?」
🎓「そうねぇ…みんな、将来有望って感じかしら?まあ、あの人の言いつけがあるから子供達の進路はそれぞれでしょうけどね…」
[ERROR]「あの人…ふふっ、あの大佐さん、本当に優しいんですね。特にあの姉弟に関しては」
🎓「あら、会ったことあるの?」
[ERROR]「ええ、ありますよ。尤も、彼も彼女たちも、私のことは覚えていないでしょうけどね」
🎓「そう…それは残念ね」
[ERROR]「大丈夫です、いつものことですから。あ、もうそろそろ行かなくては。それではエレレ先生、御達者で。ちゃんと皆を愛して、覚えていてあげてくださいね。私のような、孤独という存在を作らないように───」
少しの間、部屋の中を静寂が支配する。そして……。
🎓「あら…私、何ボーっとしてるのかしら。誰かと話してたような……。あ!いけない、もうこんな時間じゃない!子供達を待たせるわけにはいかないものね…!!」
駆け足と扉の開閉音。部屋の中は再び静寂に包まれた。
-記録の再生が完了しました
-記録を消去する場合は────
🎓「……そういえば、こんな会話していたような気がするわね」
しかし、どうにも相手の彼女の顔立ち、容姿を思い出せない。思い出そうとすると頭の中に靄がかかるような感覚に陥る。
当時部屋周辺にいたであろう人達にも聞いてみたが、誰も何も覚えていない様子だった。付近の監視カメラの映像を確認してみても、それらしき人物は確認できず、度々映像にノイズが走るだけであった。
──終
一人の人の存在は、自己と他人の認識あって初めて成立する。もし、他の人みんなに自分という存在を認識されていないのなら、それが本当の孤独、本当の独りぼっち……。あなた達の思っている孤独は、案外寂しいものではないのかもね。少なくとも"独りぼっちの集まり"があるのだから───