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    hatonyan_nyan

    @hatonyan_nyan

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    hatonyan_nyan

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    ヴァレンティオンが苦手なブランシュちゃんの小話です

    花束からの逃避行例えば、ありったけの愛。髪を撫でて、愛しているのだと毎日言ってくれた。
    心躍る冒険の話。この世界はこんなにも美しいもので溢れているのだと彼が語ってくれなかったら、冒険者になろうなどとは思わなかっただろう。
    フルールという姓だって、あなたがくれたもの。名前を言う度にあなたのものだと感じられて、幸せな気分になれる。
    それから、それから。
    沢山もらった。沢山。ばかなあたしでは、数え切れないほどに。

    今年のヴァレンティオンはそういう催しなのだろう。街のあちらこちらで、花束を渡す恋人たちの姿を見かけるようになった。友達かもしれないが、まあそこはどうでもいい。
    はっきり言ってしまえばブランシュはヴァレンティオンが苦手だ。どんなにプレゼントをあげたくても、愛を表現したくても。それを届けたい人には永遠に届かないから。
    「冒険者さんは、誰かにプレゼントをあげたりするの?」
    いつだかかけられた、子供の純粋な問い。けれどそれがブランシュには、凶器にも等しかった。
    愛しているのだと言って花束を贈ったら、あの人はどんな反応をしただろう。喜んでくれただろうか。それとも「俺も愛している」と抱きしめてくれただろうか。答えは永遠に手に入らない。どんなにお金を払っても、どんなに強い敵を倒しても。
    あんなに色々もらったのに、自分は何も返せないのだという事実を否応なく突き付けられる。ブランシュにとってヴァレンティオンとは、そういう季節だった。

    ヴァレンティオンが終わるまで、しばらくトラル大陸で過ごそうか。あそこも最近冒険者が増えてきたから、人の少なさそうな……樹海の下のほうで釣りでもしようか。きらきらした魚が釣れるかもしれない。それともアレクサンドリア?幸せから逃げるとなると、存外選択肢は少ない。大まかな不幸は大抵平らげてしまったから。
    そんな風に逃避行の計画を思い描きながら、他人の腕に収まった幸せそうな花束を見て心底嫉妬した。
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    hatonyan_nyan

    SPOILER暁月メインクエ後のブランシュちゃん。アルフィノくん視点
    彼が最期に狩ったもの戦いの中にあって、頬が自然と緩むのを感じる。ああ、こんなのはいつぶりだろう。
    いつからだろう。どこからだろう。国が、世界が、星が、終末が。そんな戦いばっかりで。無意味だったなんてことは絶対にないし、自ら望んだ旅ではあったけど、それでも苦しい道のりであったことは間違いない。けれどその終着には。こんな楽しい戦いが待っていた。
    あなたは楽しいだろうか。あたしとの再戦、ただそれだけを望んで、こんな天の果てまで飛んできたこの人は。いえ、きっと楽しいはず。だってあたしがこんなに楽しいんだから。そうね、今なら確信を持って言える。
    ───このひとは、あたしのともだちだ。


    *****


    あの人がラグナロクに転移してきた瞬間のことは、今でも忘れられない。最初、その場にいたほとんどの者が、それを彼女だと認識できなかった。したくなかった、のほうがより正確かもしれない。私たちとは見え方が違うヤ・シュトラが恐る恐る名前を呼んで、そこから皆ようやく金縛りが解けたかのように駆け寄った。いつも綺麗な真白い髪は血に塗れて見る影もなく、見えるところも見えないところも傷を数えたらキリがない。けれどその惨状の中で一番恐ろしかったのは、彼女が満足そうに口許に笑みを湛えていたことだった。
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