一万二千年後に逢いましょう目が覚めて、呼吸をするのも一瞬忘れた。流れこんできた情報量に、悲鳴を上げなかったのがおかしいくらいだった。汗が冷えて寒い。気持ち悪い。起き上がることもできずに寝台でのたうち回る。
こんな絶望的な未来視は、初めてだった。
「今度エルピスに行くことになったんだ」
未来の発端は、思ったよりも早くやってきた。エメトセルクとヒュトロダエウスは、赴いた先で未来の私と出会うのだろう。そこに私が介入する術はない。一緒に連れて行ってと言っても、結局は行けなくなるだろう。未来視で見たエルピスに、私はいなかったのだから。
「いいなあ、楽しそう」
「十四人委員会の任務で行くんだぞ。遠足じゃあるまいし」
ううん、すごく賑やかな旅になるよ、エメトセルク。アーモロートに帰ってきた時には忘れてしまっているけれど。ああ、伝えたい。けれど混乱を避けるためにも私は一切合切を沈黙していなければ。この身が砕かれるその時まで。
「キミも来るかい?アゼム」
「ううん、私は行けないの。ごめんね」
「……お前、何を視た」
仮面の上からでもエメトセルクの眉間の皺が寄っているのが分かる。二人についていきたいと言い出さなかったのを不審に思ったのだろう。さすが目ざとい。
「何も。何も視てないよ」
特殊なものを見ることの事情を、彼らは誰よりも理解してくれている。だからこう言えば、未来視に関して追及されることはない。少なくとも今まではなかった。けれどその時エメトセルクはただ一度だけ聞き返してきた。本当に?と。
ありがとう。そしてごめんね、エメトセルク。あなたがこれから歩む道を知りながら沈黙を選ぶ薄情な私で、本当にごめんなさい。
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まだそこかしこで煙が立ち昇る空を、二柱の神が駆ける。黒き神は友、白き神は師の魂をそれぞれ宿して。
終末の前に、ヴェーネス様とは一度だけお会いした。私の未来視のことは当然知っているから意図は伝わるだろうと、「よろしいのですか」とだけ問うた。師は薄く微笑んで、「ええ」と答えてくれた。本当に、強い人。
だから私は一切を沈黙し、アゼムの座を捨て、ヴェーネス派の誘いも蹴ってここに独り立っている。今頃どこかでエメトセルクも、この戦いを見上げているのだろうか。
空へ向けて腕を広げる。泣きたくなくて無理に笑みを作ったが、それでも涙は零れた。魂を砕かれることへの恐怖は確かにある。けれどそれよりも、あの真面目で不器用な人を残していくことのほうがたまらなく恐ろしいことのように思えた。ごめんなさい。本当にごめんなさい。
白い神が、遥か上空へと飛び上がる。いよいよ決着だろうという予感があった。
「大丈夫。また会えるよ」
その時、私は私ではなくなっているけれど。私だけではない。エメトセルクもヴェーネス様も、変わり果てているだろう。それでも、それはきっと、再会だろうから。
一万二千年後に逢いましょう