未完成ジグソーパズル「キミをアシエンとしてアゼムの座に召し上げたいと思ってるんだ!」
「……は?」
素っ頓狂な声が出た。だって、「何が目的だ」と武器を構えて問うた答えがこれだ。満面の笑みで。朗らかな声で。友達になろうと言わんばかりの態度で、世界に仇なす敵になれと言う。
「なるわけないでしょ」
「ふふ、まあ、キミはそう言うだろうね」
正体を隠して接触してきたときからずっとそうだ。この男は何を言われようとずっとにこにこと笑みを絶やさない。だが、今なら分かる。笑ってなんかいなかった。……最初から、ずっと。
「けれどキミの意思は関係ないんだよ。アシエンに召し上げるって、そういうことだ」
こちらに向けて伸ばされた手から闇が膨れ上がる。抵抗なんてする間もなく、暗い濁流に体も意識も呑まれた。
***
あれはまだ子供の時分。学友に目のことで心無い言葉を掛けられたことがあった。皆と違う自分は独りなのだと絶望にくれていた時、同じ目を持つハーデスが手を差し伸べてくれた。彼の双子の妹も、目のことなんて関係なく友達になってくれた。それが、どれだけ救いになったことか。だからワタシの命数は、二人と共にすると決めたのだ。
それなのに、それなのに。
不器用だけど優しい彼はゾディアークの内で眠りに。
自由に駆け回り輝いていた彼女は魂を細切れにされて。
───そうして後には、視るしか能のないワタシだけが残された。
「あの時は面白かったよね。ほら、ハーデスは何て言ってキミを怒ったんだっけ?」
応えはない。彼女の記憶を注がれた器は未だ頭を抱えのたうち回っている。膨大な情報に自我を潰されまいと無駄な抵抗をしているのだ。
「受け入れてしまえば苦しまなくて済むのに。尤も、抵抗して壊れたところでワタシには好都合だけど」
どちらに転んでもいい。どちらかと言えば前者だが、後者でも別に構わない。記憶は植え付けてあるのだから、調整すればいいだけだ。
「……っあぁ、や……!」
多分嫌だ、とかなんとか言っているんだろうけれど最早呂律も回っていないのでよく聞こえない。聞こえないので聞かなかったことにした。
「ワタシはさ、キミをいたずらに苦しめたいわけではないんだよ。決してね」
どんなに見た目が変わろうとも、その魂が愛する友のものであることに変わりはないのだから。
「だから早く記憶を受け入れて、キミのお兄さんを迎えに行こうよ。ハーデスだって、目が覚めた時にキミがいればきっと喜んでくれる」
仲のいい兄妹だった。彼らがこんなにも長く分かたれているなんて耐えられない。
だから早く戻さなくちゃ。世界を、彼女を、あるべき姿に。そのためなら言葉通り何だってしよう。
「早く目覚めて。懐かしく、愛おしいキミ」