この気持ちは溶かせない(仮タイトル)「好きだよ、茅ヶ崎」
優しい声色で、柔らかな表情で、穏やかな雰囲気で紡がれるその言葉は、俺の人生にとって一番甘美なもので、一番の凶器だった。
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「茅ヶ崎、そろそろ起きないと遅刻するぞ」
パシンと頭を叩かれて、そろそろタイムリミットが近いことを知る。もっと惰眠を貪りたい気持ちはあるのだが、それで会社に遅刻しては元も子もない。
「……まだ眠い」
「早く起きないと、その鳥の巣みたいな頭で出勤することになるよ」
「鳥の巣って……失礼すぎでは?」
ボソボソと文句を言いながら起き上がれば、やれやれと言いたげな表情をして俺を見上げる千景さんの姿が目に入る。既に支度を終えているようで、きっちり着込んだスーツに整えられた髪は今の俺とは正反対だった。
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