お題「マウント」 強かに打ち付けた肩が痛い。臓腑が圧迫されて、タルタリヤの唇がはふり、と慄く。中身なんて碌に作り込んでもいない、人形みたいな体だと侮っていたのを少しだけ後悔した。確かな生命の重さが腹の上に乗っている。いつこんな作り込んだんだ、と腹の底で思いながら、血潮の流れる凡人の質量を持ち始めた鍾離のその柔そうな首に手をかけたくなったが、タルタリヤの両腕はくたり、と力を失ったままだ。
「せんせい」
よんだだけでおこらないでよ。鷲掴みに絞められた首が苦しい。苦しくて、愉しい。酸素が足りなくなっている。指一本、それさえ動かすのは億劫だ。揺らぎ一つない石珀が、暗闇で剣呑に瞬く。たとえばこの部屋に張り巡らされた見えない糸があるとして。その全てがタルタリヤを殺そうと隙を伺っているような。確実に死ぬ。きっとどれだけその糸を掻い潜ろうとしたって、上手くはいかない。背筋が粟立つ。脳髄が幸福物質に浸っていた。神経を蝕み始めた快が頭を馬鹿にする。獣染みた呼吸音が口から零れている。
「……こうしどの」
不意に霧散した。ふつり、と糸が切れて、正気に戻った。悦に浸かりきった脳細胞が現実を見る。首に巻き付いていた温さがするり、と遠のいた。冷えた空気が肺を満たして、タルタリヤは咳き込んだ。えずきが止まらない。喉がせり上がってきた胃酸で焼かれる。タルタリヤを見る石珀に温度が戻る。作り物が人間に成る。
「……すまない」
「……他人の首絞めといてそれだけなの?」
寝ぼけて仮にも恋人に馬乗りになるなんて、やんちゃにもほどがあった。石珀が水に映る月の如く絶えず揺れて、そうして今度は深海が剣呑に煌めく番だ。
「手合わせしようよ」
離れた腕をぬるりと絡めとる。石珀に映る罪悪が嫌悪に塗り替えられて、歪んだ。