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    fkm_105

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    fkm_105

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    レン彼たるしょの進捗
    デート途中まで~~~~
    12月までに終わらせるんだよ!!!!!!

    地獄の進捗 深海の瞬くタルタリヤの瞳が今日ばかりは濁った泥濘の色をしていた。しかし大学生らしく課題や成績に追い詰められているのではない。言ってしまえば不健全な話で、人生二度目の貞操の危機だった。正確にはお金をもらって男とデートをするのだが、なにせ相手の素性がわからない。いかにもなチンピラが来るとも、人のよさそうなビジネスマンがくるとも知れない賭けをしていた。なお一度目の貞操の危機は同じくバイトでデートすることになった年上の女性に服をひん剥かれた時だ。センスは悪くないけれど、こっちの方が似合うわよ、と女王様然とした振る舞いの彼女、シニョーラによって見事着せ替え人形にされたタルタリヤは、その日総額十三万円の服の数々をプレゼントされ、慄く他なかった。閑話休題。カーテンを引いたように暗がりが訪れ、電車はトンネルへと入る。のっぺりと塗りつぶされた車窓には、天使だなんだとちやほやされた幼少期の面影のすっかり吹き飛んだ、疲れ果てた青年の顔が映るばかりだった。タルタリヤは手持無沙汰にメッセージアプリを開いては閉じる。やがて、はあ、と大きく息を吐き出すと、メッセージアプリの開かれた画面に指を滑らせた。
    『定番デートコースを回りたいのだが』
     絵文字一つない素っ気ない文面をタルタリヤはガタゴトと揺れる電車の中で読み返す。ショウリ、三一歳男性。レンタル彼氏なんて独身の極みみたいな決して安くはないサービスを利用する辺り、金銭には困っていないのだろう。男二人でデートコース、なんて素っ頓狂なサービスを要望するところも如何にも金持ちの道楽らしく感じられた。
     ふと目に映った、ランドセルを背負う小学生。視界を彩るランドセルの色に兄弟姉妹の影を見る。そこそこいい子のつもりだったんだけどなあ、と独りごちて、取り返しのつかない世界へ足を踏み入れたことを痛感した。
     たとえば、その冬初めての雪。足跡一つない雪原に足を踏み入れたあの背徳感とそれを上回るほどの高揚感。純粋を固めたような記憶は故郷に置き去りに、レンタル彼氏という名の不純に侵食された日常には、罪悪感と焦燥感が犇めいている。
     ……どうしようもない息子でごめん。故郷の両親へどう謝るかばかりが頭を巡って、背中には駄目な人間の烙印が押されているような気さえする。目を閉じた。父さんはたぶん何を馬鹿なことをやっているんだ、って怒るに違いない。母さんは、直ぐに辞めなさいって言って泣くかもしれないな。それから、弟たちには何も言わないでおきたい。瞼を突き抜ける白昼の陽光に嫌気がさす。けれど、塗りつぶしたような暗がりよりはましだった。お先真っ暗な人生に色があるなら何色か、なんて現実逃避の、気休めの一つにもならない想像をしなくて済むから。たとえば、黒は黒でものっぺりと暗い黒だ。たとえば、紙を墨に浸したような黒だ。瞼越しの薄ぼんやりとした陽光が無機質なLEDの白になる。ごお、と耳鳴りがして、トンネルへ入った事を知った。目を開いた。きっと、真っ暗な人生は、ぱかりと口を開けて列車を飲み込むトンネルの、漆を塗り込めたような暗がりの色をしているのだ。
     ガタン、と大きく揺れる車内に逸れた意識が引き戻された。きつく、つり革を握りしめた指先が冷たい。液晶に映るショウリの文字をなぞり、まだ見ぬ仮初の恋人へ思いを馳せる。どうせ偽名に違いないのだろうけれど、ショウリさん、と口の中で男の名前を反芻した。呼びなれない名前を親し気に呼ぶむず痒さが胸の中でじんわりと広がる。メッセージの羅列、この男の装飾のひとつもない無愛想な文字列はどうしても慣れない。ゴテゴテと小手先で取り繕って、飾り立てたケーキみたいな文面を送る女性の相手をする方が得意だった。水族館デートはどうですか? とにっこり笑った絵文字までつけて返信した二日前のメッセージにも、良い提案だな。水族館に行ったことはないのだが興味はある、といかにも男の風体で無骨な文字が続いている。目の前のつり革には『現実』の二文字が、なに食わぬ顔をしてぶら下がっていた。
     お金が必要だ。
     借金があるだとか、奨学金を借りているだとか、そんな大層な理由ではなくて。弓道部の年間経費と弓具のためで、生活のためで。言い訳を並べ立てて肯定しなければ立っていられなかった。食堂の窓辺、散り際を見失った桜。リュックサックの中に押し込んだつい数週間前に作ったばかりの銀行通帳に刻まれた一三八円。お金を引き出そうといつも通りに設定した三〇〇〇円の額さえ『残高が不足しています』の文字に阻まれていた。
    「レンタル彼氏は?」
     学食で一番安いネギうどんをつつくタルタリヤに大学でできた気の良い友人が生姜焼き定食を頬張るついでに呟いた。
    「は?」
     お前、顔はいいじゃん。喋るのも得意だろ、とそう無責任に言った口でご飯をかき込んでいる。時給良さそうなバイトの中ならホストよりマシそうだしな、と尤もらしい顔で、とりあえず応募しとけ、と悪魔にも似た囁きを最後に、生姜焼きを口に放り込んで一言もしゃべらなくなった。
    思い出す度、まんまと悪魔の囁きに呑まれて馬鹿なやつだな、と自嘲する。やめておけって今なら言っていた。
    自動放送が聞き慣れた駅名を機械的な声で読み上げていた。いつもは降りる駅のプラットホームがあっという間に遥か後方の景色へ流れていく。
    字列を映し出す画面を意味もなく詰っていたタルタリヤが、はた、と気付いた時には聞き慣れない駅名を機械音声が繰り返していた。秋霞の青に金色の帯が光っている。タルタリヤの絶望を塗り固めたような瞳が車窓に反射した。無情にも開いた扉から、べたつく熱気交じりの潮風が入り込む。プラットホームの固いアスファルトを黒のドレスシューズで踏みしめた。
     ピ、と軽快な電子音を立てて改札を抜けると、鼻腔を抜ける潮の匂いが、ぐっと濃くなる。ICカードの何とも言えない愛嬌のある顔をしたペンギンが、今日ばかりは塗りつぶしてやりたい気持ちでいっぱいだ。こっちを向いたポーズでドヤ顔しないでほしい。
    大根の葉っぱをつつくアヒルのホーム画面をスワイプして、トントンとメッセージを打つ。着いたと無愛想な文字に続いて、着きましたと送ったメッセージにはものの数秒で既読が付いた。ベージュのパーカにキャラメル色のコート、あらかじめ撮っておいた写真付きで送信して、画面を見つめたまま壁に寄り掛かった。デート前の高揚感は悪くない。相手が男だということを除けばいつもと同じで、水族館だって好きな場所だ。ピコン、と通知を知らせたスマホに目を向けると、シャツ白、ズボン黒、上着茶の文字が並ぶ。
     は? 服の特徴かこれ。
     味気ないメッセージが映るだけで、うんともすんとも言わない画面を見つめて、もっと他に言うことあったよね と憤って、絶対にファッションなんて生まれてこの方気にしたことがないような堅物リーマンが来るに決まってる! なんて、これから来るだろう男の酷い妄想が脳裏を掠めた。
    「……タルタリヤか?」
     尻尾を踏みつけられた狐さながらにタルタリヤは飛び上がった。握りしめたはずのスマホが指の隙間から滑り落ちかけて、節くれ立った見知らぬ掌が硬質のそれを受け止める。タルタリヤの唇がはふり、と空気を食んだ。
    「タルタリヤ」
    「えっ、あ、はい」
     先程見た、太陽の煌めきによく似た琥珀色の髪留めが光る。黒檀の髪もまた、毛先に行くに従って琥珀色に染まっていた。たおやかな秋の匂いのする男だ。スタンドカラーのワイシャツから覗く首筋は確かに男で、ジャケットに覆われた肩幅はタルタリヤとそう変わらないというのに。
     秋の夕暮れ、冬の朝。窓辺に差し込む朝日の、ことり、と置かれたグラスに散乱する光。ふかふかのお日様の匂いのする布団、夏に飲み干したラムネ瓶の青。世の中にある綺麗なものをかき集めてできた人、そう言われたら信じてしまうような、そんな人だ。
    「ショウリ、さん?」
     笑ってしまうくらい硬い声が出た。レンタル彼氏として初めての恋人と出会った時よりも表情筋が強張っている。危なかったな、とスマホを返す角ばった指先の、爪が綺麗に整えられた一枚一枚まで凝視してしまう。誰だ、絶対にファッションなんて生まれてこの方気にしたことがないような堅物リーマンが来るに決まってる! なんて脳内で叫んだ奴は。
    「……待たせてごめん」
    「いや、待ち合わせというのは悪くない」
     余裕を湛えた笑みだ。憎たらしい程の大人の余裕というやつだった。
    「随分と他人の機嫌を気にするな」
    「機嫌をとるのは得意じゃないからね」
    「……初心だな」
    「普通の大学生だから」
     慣れていそう、だとか女性の扱いが上手い、とかそんなのはホストに言ってやってほしい。タルタリヤは本当に、それこそ天に誓ってもいいくらい他人の機嫌をとるのは苦手だし、口もうまいかと言われれば、きっと下手な方に分類されるだろうと答える。だからこそ、ちまちまと小遣い稼ぎ程度のお金しかこのバイトで稼げてはいないのだけれど。顔に出ていたのか、愉快そうにショウリがケラケラと笑った。
     良客だ。飛び上がったまま戻ってこない心臓を胸の奥底に押し込める。まるでお土産を買いすぎてぱんぱんになった旅行鞄みたいだった。

    「カクレクマノミだって」
     オレンジと黒、ふよふよと泳ぐそれが昔から可愛かった。寄り添うように二匹の小さなカクレクマノミがたゆたう。雄性先熟。未成熟なそれらに性別はなく、番ですらない。適切な水温に管理された水槽は、ピトリと触れた指先に冷ややかさの一つも感じさせなかった。
    「……ショウリさんって好きな魚とかいる?」
     ユラユラと魚に合わせて彷徨う視線はそのままに、タルタリヤがぽつりと言葉を溢す。水槽のガラスをなぞった指先が、名残惜しそうに離れる様をショウリはじっと見つめた。
    「む、鯨やイルカは好きだ。興味深い」
    「俺も鯨は好きだけど……それ、魚じゃないよね」
    「はは、そうか?」
     きゅ、とショウリの琥珀色が細められて、桜色の唇が弧を描いた。穏やかな海みたいだ。ウミネコが鳴いて、波が光る。母親の笑顔に似ている気がした。
     寄り添うようにタルタリヤとショウリは歩き出す。イシダイ、ウツボ、ミズクラゲ。ライトに照らされた水槽の中。薄暗い視界の中でそれらが青白く浮かび上がる空間は、如何にもデート向けの風体で。カップルばかりが目に付く館内。その中を背の高い男二人で歩く様は滑稽に滑稽を重ねて、いっそ馬鹿みたいだ。
     ガラス戸の向こうでは、夕陽がまるで溶けきった砂糖みたいな有様で、すっかり海の向こうへ沈みかけていた。ふとポップな字体で『ペンギンの餌やり体験!』と印字された看板が目に入って、タルタリヤは思わずショウリの袖口を引いた。
    「ペンギンの餌やり体験できるって」
    「……!」
     口に出して、しまった、と後悔した。相手は成人男性で、幼児じゃない。女性だって、人によっては嫌がるだろう。そんな簡単なこと、このバイトをして学んでいたつもりだった。
     なんでも喜ぶと思った? 可愛いものが好きなわけじゃないの。二番目の仮初の彼女がいっそ穏やかすぎる笑みで腕を引く。私はそれに興味がないの。暴れだした自己肯定と防衛本能がリフレインして、喉に何か詰まっている。そんなこと知るか、と言い返してやりたくて堪らなかった、苦々しい後悔が蔓延っている。看板の影、床の隅。黒々とした汚らしいシミが見える気がして、目を瞑った。それでも、その解が彼氏として失格だと分かっていた。〇点のテストを見つかった子どもみたいに、恐る恐る摘まんだ袖口から腕へと視線を彷徨わせる。盗み見るようにその表情を窺えば、パチリとかち合う視線。ピカピカの琥珀が喜色を湛えていた。
    「タルタリヤ」
     シルクみたいに柔らかで、空気を孕んだカーテンの緩れる様みたいに可憐に笑っていた。行こう、と腕を取られて、触れられた腕が温かくなる気がする。
     どっちが彼氏だ、格好悪い。
     ガラス戸の外へ手を引かれるようにして出た。鼻腔を擽る潮風は、罅の入ってすっかり欠けた心臓を絹のように滑らに、暖かに撫でるようで。心が痛かった。
    そんなこんなで感傷に浸っていたタルタリヤだったが、肝心のデートは早々に座礁した。餌用の生魚のバケツを前にしてショウリが今にも吐きそうな顔をしたのだ。
     魚介が嫌い。そう自覚している人間の内、どれだけの人間が自ら水族館へ足を運ぶか。もはや天文学的数字になりそうな、とにかく稀有なことと言っても差し支えないだろうことは想像に難いのだが、その稀有がいた。ショウリである。デート中に感傷に浸りまくる後ろ向き男、タルタリヤは取り繕おうとした笑みも全て吹き飛んで、理想の彼氏がどう、だなんてどうでも良くなるほどだった。端的に言えば、叫んだ。
    そんなの聞いてない!
     青天の霹靂、寝耳に水。馬鹿じゃないの、という言葉はさすがに飲み込んだけれど、全力で顔に出ていた。一方の陽気な受付のお姉さんは、笑顔で渡した生魚のバケツにそれはもう酷い顔をしたショウリをおろおろと見つめていたが、叫んだタルタリヤと「……ペンギンは好きだ」と数分前までぴょこん、と元気だった双葉もといアホ毛が、すっかり萎れたショウリのやりとりを見て、堪えきれなくなったのかそれはもう朗らかな顔で笑っていた。
    「……遠くない?」
    「……最善策だ」
     どれだけ嫌いなんだ。呆れながらも俺がやるよ、とバケツを受け取ったタルタリヤだったが、ペンギン好きを公言したはずのショウリが生魚どころかペンギンにさえ距離を置くように、端の方へ佇んでいる。
     むくり、と首をもたげたのは悪戯心だ。
    「ショウリさん♡」
     その綺麗なご尊顔の前に生魚を掲げてやれば、お手本のように歪む顔が可愛らしい。けらけらと笑いが零れて止まらない。ころりと変わった恨めしそうな顔は無視して、ぱくぱくと口を開くペンギンへ魚を与える。弟たちの面倒をみているような、そんな庇護欲が湧いて仕方がない。タルタリヤもまた、ペンギンが好ましかった。そうして己の横顔を撫でる、キラキラと煌めく琥珀の視線が心地良い。鬱屈を固めたタルタリヤの日常が、ほんの少しだけ綻びを見せた気がした。
     とはいえ、現実はそう上手くはいかないように出来ているらしい。わざわざ安くもないレンタル彼氏サービスを利用した酔狂な客であるショウリは、それは見事に人酔いならぬ魚酔いを起こしていた。ペンギンの餌やりで僅かに回復したものの、上部、左右と魚に囲まれるトンネル水槽の前では赤子同然だった。タルタリヤは再び萎れた頭の双葉を憐れに思いつつ、トボトボとリストラされたサラリーマンのような哀愁漂うショウリの指先に、自分の胼胝や傷の目立つ指を絡める。
    「一緒に行こっか」
    「……」
     ああ、だか、うん、だか、どちらともつかない小さな声がショウリの花唇のごとき唇から漏れ出て、タルタリヤは弟にするように、うん。とお兄ちゃんの顔をした。ほとんど反射だ。
     水槽の奥、ガラスを隔てて別世界を覗いている。子どもの頃にも見たこの暗がりは、星のように瞬く泡沫も、ギョロリとこちらを覗く魚たちも全てが新鮮で、好奇心と少しの恐怖をタルタリヤに与えた。夜みたいだ。ワクワクして、それでも少しだけ一人が怖くなる。
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    fkm_105

    DONE1月23日オンリーにて頒布予定だったレン彼タル鍾小説本の書き下ろしサンプルです
    姉活(兄活)をしているタル×レンタル彼氏(?)の先生の話です
    レン彼タル鍾小説本の本編はR18ですが書き下ろしは全年齢です
    書き下ろし「今夜19時万民堂で」 どうしたらいいと思う? フライドポテトをケチャップに潜らせながら、赤毛の男はため息をつく。本当にため息をつきたいのは俺なんだけど、なんて言ったところでこのモテ男、アヤックスにはさして効果はないことを空はよく知っていた。よくある放課後のファストフード店らしく、アヤックスを見た暇そうな女子高校生たちがキャア、と黄色い声をあげている。耳障りで仕方ない。ろくな男じゃないぞ、と冷めた目でそれを見て、空は奢られたハンバーガーに歯を立てた。
     中高一貫の男子校。それでも他校の女子にモテまくったアヤックスは、バレンタインになれば校門で出待ちなんてざらで。その分トラブルも多かったな、と中等部のごく平凡な一生徒の自分と高等部の有名人、アヤックスとのひょんな出会いを思い出す。あの時も傍迷惑なストーカーもとい、他校の女子に追われているところだったはずだ。そして今回も。チラリ、と窓の外を伺えば、アヤックスに捕まった十分前と同じ影が視界の端に映る。
    8150

    fkm_105

    DONE※死ネタ
    先生の首を絞めるタル
    ワンライ「嫉妬」 最初はもう、そりゃあ可愛い嫉妬だった。
     それこそ生まれたばかりの弟に母親をとられた兄、そのくらい純粋で、初めて触れたその感情は対処の仕様がなく。それはどうしようもなく、やるせなく、かと言って恨むでもなく、とはいえ受け入れられるわけもなく、ただこちらを見てほしい、その程度の可愛らしさで、タルタリヤの胸中にちょこん、と納まっていた。最も、タルタリヤの嫉妬というのは、母親でもなく、恋人でもなく、ただの仕事相手の男だったわけだが。
     往生堂の客卿、鍾離というのは馬鹿みたいにモテる男だった。語弊のある言い方だが、街を歩けば鍾離先生、鍾離さん、と呼び止められるのだから、あながち間違いでもないはずだ。
     タルタリヤと鍾離が出会った頃などは、周囲から頼りにされている先生、くらいのものだった。その程度で亀裂が入るような深い関係はそこに存在していなかった。だというのに、タルタリヤがその執着と信頼と愛情を、鍾離の素知らぬところで積み上げ始めた。積み上げられていくそれの前にいるのは、タルタリヤと、タルタリヤの頭の中に存在している鍾離の姿だけ。空しいものだ。それでも良かった。積み上げる手は止めることはできなかったし、止める気もなかったのだから。
    1009

    fkm_105

    PROGRESSレン彼たるしょの進捗
    デート途中まで~~~~
    12月までに終わらせるんだよ!!!!!!
    地獄の進捗 深海の瞬くタルタリヤの瞳が今日ばかりは濁った泥濘の色をしていた。しかし大学生らしく課題や成績に追い詰められているのではない。言ってしまえば不健全な話で、人生二度目の貞操の危機だった。正確にはお金をもらって男とデートをするのだが、なにせ相手の素性がわからない。いかにもなチンピラが来るとも、人のよさそうなビジネスマンがくるとも知れない賭けをしていた。なお一度目の貞操の危機は同じくバイトでデートすることになった年上の女性に服をひん剥かれた時だ。センスは悪くないけれど、こっちの方が似合うわよ、と女王様然とした振る舞いの彼女、シニョーラによって見事着せ替え人形にされたタルタリヤは、その日総額十三万円の服の数々をプレゼントされ、慄く他なかった。閑話休題。カーテンを引いたように暗がりが訪れ、電車はトンネルへと入る。のっぺりと塗りつぶされた車窓には、天使だなんだとちやほやされた幼少期の面影のすっかり吹き飛んだ、疲れ果てた青年の顔が映るばかりだった。タルタリヤは手持無沙汰にメッセージアプリを開いては閉じる。やがて、はあ、と大きく息を吐き出すと、メッセージアプリの開かれた画面に指を滑らせた。
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