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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    sayuta38

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    しょしょワンドロ2回目

    #鍾魈
    Zhongxiao

    写真撮影 鍾離様はいつも、我を試す。
     我が断らないことを知っていながら、いつも「どうだろうか?」と我に判断を委ねてくる。
     今日もそうだ。民衆の間で流行っているという、風景の写真撮影イベントに行くべくカメラを持ってきたが、一緒にどうだ? と望舒旅館へ訪ねてこられた。わざわざそのようなことで道具まで持っていらしているところを断れるはずがない。風景にも写真にも興味はないが、それが鍾離様の誘いとあらば話は別だ。返事はいつも「我で良ければ。お供します」である。
     出掛ける際にヴェル・ゴレットに声を掛けているので、そろそろ彼女には鍾離様と頻繁に出掛けていることを勘付かれてしまっているかもしれない。

     今回の撮影イベントのお題が出るのはフォンテーヌからだが、撮影対象はフォンテーヌ内でなくても良いそうだ。今日は青い野生生物が指定されていた、と鍾離様が話をしていらした。
    「まずは碧ヤマガラを撮りに行きたいのだが、生息地に心当たりはあるか?」
    「確か、石門の近くに居たと思います」
    「そうか。ならば早速向かおう」
     望舒旅館の露台にて話がまとまった所で、早速目的地へ向かうべく階段を降りる。すると、後ろからパシャ。とシャッターを切る音がした。
    「鍾離様……?」
    「ああ、少し試し撮りをしただけだ。気にしなくていい」
    「……? はい」
     今、明らかに我にカメラを向けられていた気がしたが、気にするなと言われた以上、追求することはできなかった。
     石門の辺りを散策し、仲睦まじく地面をつつく碧ヤマガラを無事に発見した。近づき過ぎるとすぐに飛び去ってしまう為、やや遠くから慎重に足を運び、難なく碧ヤマガラの撮影に成功した。
     あとは璃月港に居たはずだと鍾離様が仰ったので、璃月を目指し南下した。
    「あ、」
    「どうした、魈?」
    「青い生物であれば、青トカゲも対象になるのかと思い……草むらにいるのが目に入ったので……」
    「そうだな。問題ない。よく教えてくれた。感謝する」
    「いえ……」
     青い野生生物ならカニやトカゲもいるのに、敢えてヤマガラを撮りに行きたいと鍾離様が仰ったのは、何か理由がある気がした。それなのに、青トカゲを見つけたという何でもないことで礼を言われてしまい、心臓がこそばゆくなった。
    「あいつは素早いな。レンズに収めるのに苦労しそうだ。魈、捕まえられらか……?」
    「は、はい」
     鍾離様がカメラを構えている間に青トカゲの近くまで瞬時に忍び寄った。危険を察知したトカゲが素早く動き出す一瞬を狙って、むんずと胴体を掴む。手足をジタバタさせた青トカゲをカメラへと向けると、小気味良くシャッターを切る音がした。
    「いい写真が撮れた。感謝する」
     まるで子供のように無邪気に笑う鍾離様を見て、ついトカゲを握る手に力が入ってしまった。慌てて手を離すと、トカゲは宙に舞い、華麗に地面に着地すると同時にどこかへ逃げていってしまった。
    「さて、日が暮れてしまう。璃月港へ急ごう」
    「はい!」
     鍾離様はどちらかと言えば、のんびりと景色を堪能されながらゆったりと歩いていらっしゃる印象だ。しかし、今回のイベントは一日で十体の生物を写真に納めなければならないらしく、荻花州を足早に駆け抜けて行かれた。仙術を使えば一瞬で着く璃月港も、凡人として楽しまなければ意味がないとのことで、共に我も走ることになってしまった。まるで子供の遊戯のようだ。童心に返ったようだなと鍾離様は仰っていたが、数千年前にこのような遊びをしていたか、もはや覚えてはいない。
     鍾離様の大きな背中を必死で追いかける。一日中降魔もせず璃月中を走り回っている事に、気持ちがそわそわして落ち着かない。
    「お前はヤマガラと話ができるか?」
    「……できなくはないと思いますが……何か伝えたいことがあるのでしょうか……?」
     璃月港に着き、玉京台に向かう途中の開けた場所に碧ヤマガラは居た。その場にしばらく留まるように伝えてみて欲しいと鍾離様が仰るので、実践に移すことにした。
    「……おい、お前たち……」
     そっと近寄り、怖がらせないように話しかける。
    「チチ」
     その場に居た三羽がこちらを向いた。とりあえず瞬時に飛び立つ雰囲気はない。もう少しだけ近寄ってしゃがみ込み、目線を合わせる。
    「その、鍾離様が写真に収めたいそうだ。しばらくここへ留まってもらえないだろうか」
     ヤマガラに頼み事をしてみることなど初めての行為だった。ヤマガラから見て我は何に見えているのだろう。
    「チ」
     話が通じたのかどうかはわからないが、ぴょんぴょん、と足の跳躍だけでヤマガラは我の方へ近づいてきた。どうやらしばらくここに留まってくれるようだ。一羽は少しだけ羽ばたいて我の頭の上へ降り立った。いつもなら振り払っても良いところだが、鍾離様が写真を撮るまでは我もこの場を動けない。更にツンツン、と髪を啄まれてしまっている。どちらかと言えば懐かれているような気がして、早くこの場から去りたくなってくる。
    「し、鍾離様、写真を……」
     辛坊たまらず鍾離様へと助けを求めるべく声を掛けた。しかし、鍾離様はカメラを構えたままにこやかな笑みを浮かべ、一向にシャッターを切ろうとはしていなかった。
    「っ、鍾離様!」
     もう一羽も肩へ乗ってきた。肩へかかる翡翠色の髪の毛を啄まれている。まるで毛づくろいをされるような行為に、もはや限界だった。
    「ああ、すまない。既にとても良い写真が撮れている。いつでもヤマガラを離してもらって構わないのだが、その……ヤマガラと戯れるお前が可愛くてな……つい眺めてしまった」
    「~~~鍾離様!」
     大きな声を出してしまったことで、碧ヤマガラ達は空へと飛び立ってしまった。すくっと立ち上がり、勇み足で鍾離様の元へと駆け寄る。
    「はは、楽しいな。魈」
     声を出して鍾離様は笑っていらっしゃる。ふふ、とか、はは。など、笑いが堪え切れないようで、しばらく手を口に充てて破顔されていた。
     楽しいか、楽しくないか。考えたことはなかったが、鍾離様が楽しいと感じたのなら、それは良いことだと思った。

    「さて、今日は充分撮れたように思う。帰ろうか」
    「まだ、十枚には至っていないと思いますが……」
     璃月港が段々と橙色に染まり来るのを感じていた頃、鍾離様から帰宅を告げられた。
     元々報酬には興味はなかったそうで、カメラで自分の撮りたいものを撮影するということが目的だったそうだ。碧ヤマガラの撮影に成功したことで満足いく結果になったと鍾離様は仰っていた。
    「明日も撮影イベントは続くそうだ。魈、明日も共に撮影に回りたいと思うのだが、どうだろうか?」
     まただ。
     我が断らないと知っているのに、いちいち伺いを立てる真意とは一体何なのか。それを知りたくなっしまい、我も少しだけ鍾離様を試したいという気持ちになった。ほんの出来心だった。申し訳ないと思いながらも、口を開く。
    「明日は……その、予定があり……ご一緒することが出来そうになく……」
     初めてだった。初めて鍾離様の誘いを断ったのだ。勿論降魔以外の予定などない。鍾離様は一体どのような反応をされるのだろうかと、少しの興味があっただけだった。
     鍾離様は断られると思っていなかったのだろう。先程の朗らかな笑みは消え、驚きに目を見張り……十秒程だろうか、岩のように固まって動かなくなってしまったのだ。
    「そうか……」
     ぽつりと空気に流されるように吐き出した言葉は、物凄く気落ちされているようだった。すぐに言葉にしてしまったことを後悔した。鍾離様を試すなど、なんて不敬な行為をしてしまったのだろう。我が断ると、このお方はこんなにも悲しそうな表情をされるのか。ぎゅっと胸が痛くなった。
    「では、また日を改める。すまない」
    「あっ、鍾離様」
     璃月港の中だと言うのに、瞬時に姿を消してしまわれた。どこへ行かれたのだろうかと気配をさぐる。璃月港の邸宅に戻られたようだ。すぐに追いかけなければならない、このままお独りにする訳にはいかないと、我も後を追った。
     邸宅の中は真っ暗だった。しかし、鍾離様の気配はある。
    「鍾離様……」
    「……」
     返事はなかったが、気配のする方へ足を進めるとぼんやりと光が見えた。どうやら先程鍾離様が持っていたカメラのようだった。
    「あの……先程のは、その……我の勘違いでして……やはり予定はなかったようなので……明日もお供させていただきたく……」
    「……」
    「鍾離様?」
     鍾離様はカメラの中心を真剣に覗いていた。気づかれていないならと、鍾離様が見ているものを、我も視線を凝らして注視してみた。
    「……なっ」
    「よく撮れているだろう?」
     鍾離様が見ていたのは、先程撮影していた青い野生生物の写真であった。そこには苦い顔をしながら青トカゲを鷲掴みにしている我の写真に、碧ヤマガラに話し掛けたり頭や肩に乗られている写真などが写っていた。
    「鍾離様……それは……」
    「ああ、今日は青い野生生物も勿論撮っていたが、折角カメラを手に入れたからにはとお前も撮っていた」
    「なるほど……」
     いつの間に撮られていたのだろうか。青い野生生物の枚数より、我の写真の方が多い気がする。顔から火が出そうだった。
    「で、明日はやはり空いていたのだったか? 明日も写真を撮りたいのだが、どうだろうか」
     先程までは、明日も写真撮影に協力する気でいたのだが、それはつまり、明日も半分は我も被写体になっているかもしれないということだ。それを知った後では、二つ返事では返答できそうにはない。
     しかし、主君に悲しい顔はさせたくないのは一番の望みであるが故に、最終的には頷いてしまう、我なのであった。
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