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    sayuta38

    鍾魈短文格納庫

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    魔法少女パロの鍾魈

    #鍾魈
    Zhongxiao

    魔法少女パロの「降魔は我がすべき務め! 風に抱かれ永遠に眠るがいい!」
    「グワァァ」
     魔法のステッキを振りかざし、円を描き風を集め対象へと放つ。それはスライムのようなものに見事命中し、対象は光を放ちながらどろどろに溶けていき断末魔をあげていた。
    「う……うぅ……おれはただ……あの子と、仲良くしたかった……だけなんだ……」
     じゅわりと歪な影が空中へ霧散していく。
    「仲良くしたければ、いくらでも方法はあろう。こんな形でなくてもな」
     霧散した中心から、美しい核と一人の男が現れた。核を手で囲み、そっとステッキの中心へと誘導する。これでやっと八つ目だ。
     近くで倒れている少女は、スライムだった男に襲われ気絶していた。好いているが振り向いて貰えない気持ちに付け込まれ、妖魔となったのであろう。こんな場所で寝かせるのもと思い、硬いコンクリートから近くの公園の芝生の上へと運んでやった。
    「あとは当人同士がなんとかしろ。こんなことをしても好かれる訳がないことは覚えておくといい」
     台詞を吐き捨て、その場を後にする。決して自分が恋愛のなんたるかを知っている訳ではないが、相手の気持ちも考えず一方的に自分の気持ちを優先させるのは間違っていることくらいわかっていた。
    「魈、終わったのか」
    「帝君」
     公園のベンチの影から、にゅっと岩王帝君が顔を出した。もふもふ、という形容詞が似合うくらいにふかふかな茶色のぬいぐるみのようなそれは、名を岩王帝君という……らしい。魈へ魔法少女になって妖魔退治をして欲しいと頼んできたぬいぐるみである。
     元々はぬいぐるみなどではなくちゃんと人の形らしいのだが、魈を交通事故から助けた際に力を使い果たしたらしく、妖魔退治をして力を補給する必要があるとのことだった。
     そんな嘘のような話で男である魈がわざわざ魔法少女になる理由はないのだが、生死の境を彷徨うような交通事故にあったのは本当の話で、本来なら死んでもおかしくないところをこの岩王帝君によって助けられたのは、医者の驚き具合からすると嘘ではないようだった。
    「傷を見せてみろ」
    「あっ帝君」
     ふわふわと帝君は宙へ浮いて魈の傍へ寄った。誰の趣味なのか、やたらひらひらする戦闘服の周りをぐるぐると飛んで、傷の程度を見ている。それ自体はいいのだが、困ったことが一つだけある。
    「……っ」
     代わりに降魔をして貰っているからといって、帝君は必ずそれが終わった後に怪我の治療をするのだ。……しかも、舌を使って……。
    「魈、どうかしたのか?」
    「いえ……大丈夫です……」
     頬の傷を舐められるのは、子犬に舐められていると思えばまだいい。しかし、二の腕や太腿など、皮膚の薄い所を舐められた時には少し逃げ腰になってしまう。絶対次は傷一つなく降魔を終えてやろうと思うのだが、魈はただの凡人であり、魔法のステッキにより少しだけ身体能力があがっただけのただの男子に過ぎないので、そうも言ってられない。
    「いつもすまないな」
    「いえ、帝君に助けられた命ですので、大丈夫です。帰りましょうか」
    「うむ」
     家に帰ると一人だ。家族はいない。話し相手が欲しい訳ではないが、そんな中突然現れた帝君と共にいるのは随分と居心地が良かった。眠る時も帝君は布団に潜り込んでくるので、もふもふの毛が癒しとあたたかさをくれる。いつか降魔が終わり帝君が元の姿に戻った時には別れが来てしまうのかと思えば、少し残念でもある。

     降魔は時間を問わずに発生する。夜に妖魔が現れた場合は、通常よりもやっかいな敵が多い。
    「ハァ!」
     魈の属性は、帝君によると風元素のようなのだか、今日の妖魔もどうやら風使いのようで、相性は最悪だった。いくら風を飛ばしても跳ね返され、向こうの暴風のような圧力の風に押される。かと思えば、暴風の中からカマイタチのような疾風が飛んで来て、避け損なうと皮膚を切り裂かれてしまう。
    「くっ」
     今までの妖魔は感覚で屠って来たため、どうすれば良いかわからなかった。しかし、思考をする間もなく次の一手が襲いかかる。相手の方が素早さも高いのだ。
    (これでは……)
     負ける。そう確信してしまうと、何の攻撃をしてもいつもより力が出なくなってしまう。相手の攻撃を防ぐことで精一杯だった。
    「ぐあっ……」
    「魈!」
    「帝くん!?」
     ついに魈は宙へ打ち上げられ、背中から地面へ叩きつけられてしまった。息もできない程の激痛が全身を襲う。目を開けることすら必死の状況だが、目の前に飛び込んできたのはこの場に似つかわしくない、ふわふわの岩王帝君だった。
    「お逃げ……くださ……」
    「少し休め」
    「しかし……」
    「いいから三分だけ目を閉じていろ。いいな?」
    「……」
     帝君の言うことはよくわからなかったが、両目をぽてぽての手で押さえられてしまい、強制的に目を閉じることになってしまった。
    「……力を使うと、また魈に降魔を頼まなければいけなくなるから嫌だったのだが、そうも言ってられない状況だな」
    「……?」
     帝君が何か言っている。それに、あれだけごうごうと鳴り響いていた風の音が瞬時に止んだ気がする。
    「久々の妖魔退治だからな。加減を忘れていたらすまない」
     目を開けるなと言われたが、ぬいぐるみの帝君が妖魔退治などできるはずがないと思っていたので、気になってぼんやり目を開けてしまった。
     そこには、すらりとした長身の男性が立っており、フードを被っているので顔こそは見えないが、フードの隙間より長い髪が伸びている。
     帝君が何か唱えた瞬間に、隕石が空より降り注いで暴風もろとも妖魔へと命中した。塵も残さないその一撃は閃光のように眩しく、魈は強く目を瞑った。
     そうか、あれが岩王帝君の本来の姿なのだな。
     朧気な姿しか見えなかったが、頼もしい背に安堵感を覚え、魈は意識を落としていった。

     自身の身体が揺れている。誰かに運ばれているのだ。薄っすら目を開ければ、先程は見えなかったフードの中の顔を見ることができた。厳しい双眸の中にも、優しさを秘めているような、そんな石珀色の瞳をした男だった。
    「て……い、くん……」
    「すまない。無理をさせてしまったな。よく眠るといい」
    「はい……」
     身体の損傷も激しいのか、すぐにまた意識が奥底へと飛んでいく。身体の揺れ具合と、人に抱えられている体温のぬくもりが心地よかった。
     次に目を覚ました時には、昨日の降魔のことは嘘だったように身体の傷は癒えていた。丹精な顔立ちの岩王帝君はおらず、布団の中にはいつものもふもふの岩王帝君が隣で寝ていた。
    「少し……昨日よりもサイズが小さくなっているような気がする……」
     またもや自分を助ける為に力を岩王帝君は使ったのだろう。これではいつまで経っても降魔が終わらないではないか。
     もっと、もっと強くならなければ。
     そう思い、魈は自主鍛錬に励むことになるのだが、それはまた別の話である。
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