その方の名は。(この方は……)
一人でこっそり修行をしようと、重雲は璃月港から離れた森の間を歩いていた。木々の間には人が歩ける道があるものの、所々折れた枝や、土や草木の至る所に血の痕がある。ここには先程まで妖魔がいたのだろう。あわよくば退治して、行秋への土産話にしたい。そう思っていたが、血痕を辿って行くと、妖魔ではなく人影があった。重雲はそっと近づき人影を確認する。その人は木にもたれ掛かるようにして座っていた。伏せられている顔は彫刻のように美しく整っていて、息をしていないかのように静止している。数回しか会ったことはないが重雲は目の前の人物を知っている。
──間違いない。降魔大聖だ。
胸の前に抱えられている槍には、僅かに血の痕がある。負傷しているのか定かではないが、魈自身にも所々血液がついている。
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