ライカ バケツをひっくり返したような突然の大雨は、夕立かと思いきやそのまま雷雨となり、夜になっても依然として弱まる気配を見せなかった。
部屋の中まで響き渡る雨音に、一郎は窓の向こうを眺めてばかりいる。左馬刻の視線も同じ方を向いてはいたのだが、見ていたのは窓ではなく男の背中と黒髪だ。後ろ姿からでも伝わってくる緊張感に、なんとなく何を考えているのかはわかる。
「一郎」
とうとう我慢できなくなって小さく呼び掛ければ、視線の先の男の肩がぴくりと揺れた。おもむろに振り向いたかと思えば僅かに視線が彷徨い、ふ、と小さく吐息が零される。
「……そろそろ寝るか」
口元には薄い笑みが浮かんでいたが、吐き出された言葉はどこかぎこちない。見慣れない仕草に次第に込み上げてくる愛しさをそっと隠し、ひとまず小さく頷いてベッドに足を乗せれば、ギィ、と想像通りの安っぽい音が鳴った。
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