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    maybe_MARRON

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    左馬一
    バレンタインポストでいただいた、チョコを渡せなかった17郎くんの話
    左馬刻さんは合歓ちゃんが女友達の他に簓たちにも作ろうとしていたのを見て合歓の手作りをあげるくらいなら俺が作るとチョコ作りをしていたのでした 明日チョコもらえます

    リカー・チョコレート・コレクション 冷たい風が頬を刺す。いつもの公園のいつものベンチに腰掛けて、空を見上げた。
     綺麗な青空だ。これが春なら花見日和だし、夏なら海にでも飛び込みたい。けれど今は冬で、どんなに空が綺麗でもただただ冷たい風が吹くばかり。
    「ずっと前から好きだったの」
     唐突に背後から声がして、一郎は思わず息を呑んだ。普段なら人の気配に気づかないなんてことはほとんどありえない話なのだが、ぼんやりしていたせいか、声がするまでまったく気づかなかった。そのせいか、バクバクと心臓が煩く音を立てる。向こうは気がついていないのだろうか、気がついているのならなんで告白なんてし始めたのだ、せめて人がいないところでやってくれ……などと思うがもう遅い。とにかく邪魔だけはしないようにと思うとこの場を離れようとして音を立ててしまうわけにもいかず、ほんの少しの罪悪感を抱きながらそっと息を潜めていた。聞き耳なんて立てるつもりはないのに、どうしたって声は聞こえてしまう。半分は相手のせいだから仕方ないだろう。
     そうやって、自らに言い訳をするほどのたっぷりの間が合った。それがもう、ほぼ答えだったのだろう。
    「……ごめん。知ってんだろ、俺、彼女いる」
     男は低い声で告げた。なぜだか一郎の背筋も冷える。
    「うん。知ってる。知ってるけど、渡したかった」
    「……本気なら、なおさらもらえねぇよ」
     男は再び、小さくごめんとだけ告げる。女はうんと小さく返す。どこの誰かも知らない、顔も関係も知らない偶然居合わせてしまっただけの赤の他人の恋の終わりに、なぜだか胸が痛んだ。
     二月十四日。バレンタインデー。その日にかこつけた告白は学校でも見かけたが、まさかこんなところでも遭遇してしまうとは。なんて、運の悪い。
     それからしばらくすると背中側から人の気配がなくなって、一郎はようやく息を吐き出した。空は変わらず眩しくて、それが余計にいたたまれない。風の冷たさがなおさらちくちくと突き刺してくる。吐き出した白い吐息が消えるのを見送ってから、視線を下げた。ちらりと隣を見る。
     一人で腰掛けたベンチ。一郎の隣には、渡せなかった紙袋がある。
     渡せなかったのは、会えなかったからだ。特に約束も何もしていないけれど、いつもの場所に行けば当然会えるとばかり思っていた。だから何の連絡もしていなかったのだ。いない理由もわからないし、なんとなく聞くこともできず、結局ふらふらと公園まで出てきてしまった。それだけの話。
     ちょっとした、日頃のお礼のつもりだったのだ。チョコの一つや二つでは返し切れないほどの恩を受けているから。デパートの催事場まで行く勇気は流石になくて、スーパーの特設売場にあったチョコレートにしたけれど。ブランドなんてよく知らないが、スーパーに置いてあるくらいなのだ、それなりに有名で無難だろう。手が出せないほど高くもなく、けれど普段買うものとは全然違う値段のそれ。ついでに弟たちにも土産を用意しようか迷って、なんとなくやめた。左馬刻がチョコを好きかは知らないが、嫌いとも聞いたことがない。洋酒入りのものを選んで手渡し用の紙袋をもらって、少しだけ緊張した買い物を終えたのが数日前。お礼だと言って渡せば、多少の揶揄いを含みながらも笑ってくれるだろうと、そんな様子を思い浮かべていた。
    「なぁに辛気くせえツラしてやがる」
    「空却……」
     ひょっこりと顔を出したのは、目立つ赤髪をした親友だった。黄金色の瞳が輝く。期待はずれって顔してやがる、とガムをくちゃくちゃさせながら言うその男に、何も返せなかった。そんな顔をしていたつもりはないけれど、漫画のように偶然現れる左馬刻、というのを一ミリも期待していなかったと言ったら嘘になる。
    「……これ、いるか?」
    「ンだこれ」
    「チョコ」
    「…………」
     空却は訝しげにこちらをじっと見る。そのまっすぐな瞳に耐えられず、僅か二秒で目を逸らしてしまった。なんとも言い難い沈黙が流れる。何を考えているのかはわからないが、ふうん、と小さな声が漏れるのにそれほど時間はかからなかった。
    「……ま、もらってやってもいいぜ」
     それだけ言うとどかっと隣に腰掛け、遠慮なく紙袋から箱を取り出す。リボンを解いて箱を開けて、色も形もそれぞれ違う六粒のチョコが現れた。
     空却はそこから適当に一つを選び、ひょいと口に運ぶ。噛んだ瞬間に顔を顰めたのは、洋酒の独特の苦味を感じたからだろう。
    「テメーの気持ちごと成仏させてやるよ」
     カラリと笑いながら、続けてもう一粒。これもかよ、と愚痴るのを聞きながら、一郎も笑った。形は違えど全部洋酒入りなのだ。お酒が好きなあの人に贈るつもりだったから。
     別に、今日渡せなくたってよかったはずだった。これはただのお礼だから。そう思っていたはずなのにどうしてもそんな気は起きなくなってしまって、多少なりとも下心が含まれていたことを自覚する。こんな形で自覚なんかしたくなかったから、チョコと一緒に成仏させてくれるならそれでよかった。本当にできるのかは知らないが、せめて今日の残り数時間をモヤモヤせずやり過ごせたらいいと思う。
    「……つか、別に食うのはいいけどよ……拙僧が食ったって、ぜってーアイツには言うなよ?」
     殺される、と物騒な言葉が聞こえた。
     別に殺されはしないだろ、たかがチョコで。
     いいや、アイツは何するかわかんねぇ。
     笑いながら、そんななんでもないようなやりとりをする。想いも相手も、やっぱり全部お見通しだったわけだ。それだけで、少し気分が晴れた。
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