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    maybe_MARRON

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    左馬一
    酔っ払ってオトナのオモチャを買うサマイチというお題をいただきました
    頭の中にはもっとギャンギャンワイワイ楽しくお買い物をしている二人がいたのですが書ききれず無念です

    toy box 宅配ボックスに届いていた荷物を取り出した一郎は、左馬刻宛に届いていたその荷物の差出人の名前を見て首を傾げた。
     お届け先 碧棺左馬刻 様
     ご依頼主 山田一郎 様
    「……俺?」
     一郎と左馬刻は、今ヨコハマのマンションで一緒に住んでいる。一緒に使うものや日用品であれば、左馬刻宛にわざわざ送る必要はない。誕生日でも記念日でもなんでもないタイミングで、同じ住所の恋人宛になぜ荷物を送ったのだろうか。……というよりも、注文した記憶がない。一体中身はなんだろう。
     不思議に思いながらドアをくぐれば、昼に帰宅していた左馬刻がエプロン姿でおかえりと出迎えてくれた。いい匂いがする。今日はおそらくハンバーグだ。
    「飯できてるぜ」
    「おー、サンキュ。……なあ、これ届いてたんだけど」
    「ん?」
     左馬刻はダンボールに貼り付けてある伝票を見ると、ああ、と納得したように頷いた。
    「もう届いたのか。早ぇな」
    「え、中身わかんの?」
    「……やっぱ覚えてねぇのか……」
     呆れたようなおもしろがっているようなため息を吐きながら、左馬刻はとりあえず手を洗ってくるよう促した。洗面所へと向かうためにキッチンの脇を横切りながらちらりと覗けば、案の定皿には拳よりももっと大きめの、お互い満足できるサイズのハンバーグが盛り付けられていた。


     その日はたしかに、ものすごく酔っていた。左馬刻が組でもらってきた日本酒や焼酎を二人で飲んでいたところ、まあそれなりに気持ちよくなってしまったというよくある話である。どちらかといえば缶チューハイの方が好きなのだが、意外と飲みやすいことを知ってから、それらを飲む機会も増えた。酒の味を教えてくれたのは、当然左馬刻だ。
     外で飲むのであれば多少自制するものの、家でまでそうする必要はない。そんな油断があるせいでいつもよりペースも早く、途中途中でイチャつきながら過ごしていれば、あっという間に出来上がってしまった。
     左馬刻は決して弱くはない。特に家であれば、先に一郎がフラフラし始めるのでその辺りでペースが落ちる。
     しかしその日は違った。そもそもこの大量の酒を持ち出して「飲むぞ」と言い出したのは、左馬刻の機嫌がかなり悪かったからだった。仕事柄、何があったのか詳細に触れることはお互いほとんどないのだが、よほどのことがあったのだろうと察する。愚痴を吐くこともできないからヤケ酒に付き合えと、どうやらそういうことらしい。
     そう納得した一郎は、左馬刻とともに張り切って飲んだ。もちろんつまみだけでなく食事で腹を満たしながらにはしていたのだが、それでもやはり、それなりに酔ったのだ。その頃には左馬刻の機嫌も直り、むしろ上機嫌に一郎に好き勝手触れ、楽しんでいた。
    「あっ」
     スマートフォンで適当にネットの海を彷徨っていた一郎は、左馬刻がくっついてきたせいで指を滑らせた。思わず声を上げたのは、間違って触ってしまったのがいわゆるアダルト系の広告だったからである。ショッキングピンクの背景に、目元が黒塗りされた女性の裸体。フラッシュ画像のようで、女の姿は次々と切り替わる。
    「あ? ……ンだよ、興味あんのか?」
    「ちげーよ、間違って触っちまっただけ」
     すぐにブラウザバックするつもりが、左馬刻はひょいとスマートフォンを取り上げる。
    「あ、おい」
    「ふーん……テメェには女よりこっちじゃねぇの?」
     そうして左馬刻に見せつけられたのは、先程とは異なる画面――いわゆるオトナのオモチャ、アダルトグッズのページだった。
    「…………」
     衝撃だったのは、そこにあるグッズがどう使うものかまったくわからない形状をしていたことである。女性に使うものや男性が一人で抜く時に使う一般的なものであれば、一郎とて知識として知ってはいる。しかし、そのどれとも違うのだ。思わずぽかんと口を開け、「どう使うんだよ?」と尋ねてしまったのである。
     そして、左馬刻は一郎が持っていない知識を披露し始めた。この男も大概酔っている。
    「……左馬刻、こういうの興味ある?」
     思わずそう尋ねてしまうくらいには、左馬刻は男の身体を開発するためのグッズに詳しかった。その事実に単純に驚いたのだが、尋ねた内容についてはきっぱりと否定する。
    「自分の手で気持ちよくさせっからいいんだろうがよ」
    「あー、なるほど」
    「……やっぱ興味あんのか?」
    「まあ、少し?」
     素直にそう返せば、左馬刻は蕩けさせていた紅い瞳を少しだけ丸くする。
    「……普段のセックスに不満あんのかよ……」
    「や、そうじゃねぇ! それは違う!」
     どちらかといえば、一郎は左馬刻と初めて身体を重ねる時から想像してしまっていたのだ。少しだけ無理やりコトを進められたり、オモチャを使ったり、言葉責めされたり。しかしその想像、あるいは覚悟はまったく必要なくて、左馬刻はただひたすらに、一郎をぐずぐずになるまで甘やかすばかりなのだ。それが意外で、嬉しくて、けれどどうしても、想像上の左馬刻への興味が残ってしまっている。
    「……買ってみるかぁ?」
     不満も物足りなさもないことを必死に伝えれば、それで満足したのか左馬刻は楽しそうに画面をスクロールし始めた。その画面をちらりと覗き込む。
    「…………おー……」
     弱々しく頷けば、左馬刻は機嫌良く頭を撫でてくれた。
     
     
     食後、ダンボールを開けて現れたオモチャの数々に、一郎はようやくそれを注文するに至った経緯を思い出していた。どれがいい、と問われて再び説明を受けながら選べば次第に楽しくなっていって、こんなの入るかよとゲラゲラ笑いながらも気づけば結構真剣に吟味していた自分自身を思い出す。一緒に選ぶのは楽しかった。酔っていただけかもしれないが。
     顔が熱い。けれど青ざめているような気もする。盛大なため息を吐きながらベランダで一服していた左馬刻の元へと向かい、一緒に夜風に当たる。左馬刻はそんな一郎をちらりと横目で見ながら、ふう、と紫煙を吐き出し口元だけで笑った。
    「思い出したかよ」
    「ん」
    「……で? 使うか?」
    「…………」
     隣で目を細める男は、どっちでもいいぞとばかりに問いかける。オモチャには興味がないとはっきり言っていたのだ。当然の反応だろう。――けれど。
    「……まあ。せっかく買ったし、酔った勢いで、なら……」
     たぶん。
     おそらく。
     自惚れでなければ。
     こういうものに興味がある一郎には、興味がある。そんな目をしている気がする。
     そして一郎自身、オモチャを使って自分の身体をいいように弄る想像上の左馬刻が、以前よりもリアルに思い描けていた。興味がないはずがない。わかった、と口元を綻ばせたその表情だけで、ぞくりと背中が震えたのだから。
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