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    maybe_MARRON

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    左馬一
    酔っ払い第三弾
    ネタは診断メーカーからいただきました
    ひらブー用に急いで書き下ろしたのでいろいろと伝わらないかと思いますがご容赦ください……

    kiss me, darling さまとき、と普段より舌足らずな声で名前を呼ぶ。ソファに座ったまま両手を広げて「ん」とだけ言えば、キッチンに立っていた男は一瞬だけ目を丸くして、それから呆れたようなため息を吐いた。ぽす、ぽす、とスリッパがのんびり音を立てながら近づいてくる。目の前に立った男はこちらを見下ろしながら、わざとらしく再びため息を零した。
    「この酔っ払いが」
     広げていた両手で腰の辺りに抱きついてみる。大きな手のひらが乱暴に髪を撫でた。犬のような扱いも今は心地よくて、身を任せながら鳩尾の辺りにぐりぐり頭を擦りつける。へらへらしている自覚はあった。
     ソファの前のテーブルに散らかっている、二本の空き缶。多少のつまみと口直しのアイスも全部食べ終えて、そこに残っているのはただのゴミだ。
     決して荒れていたわけではない。むしろ逆だ。機嫌が良かったのでせっかくだからとアルコールを買い、ようやく手に入れたお気に入りのアニメの初回限定盤ブルーレイ最終巻を左馬刻の家の大きなテレビで見ていた。もともと良かった作画はさらに修正されており、特典のオーディオコメンタリーでは監督の口からこだわりポイントまで聞けて、感想は大満足の一言に尽きる。
     最後まで見終わったちょうどそのタイミングで、愛しの恋人が帰ってきたのだ。浮かれていたって仕方がないだろう。左馬刻もだいたいの事情をわかっているからこそ、何も言ってこなかったのだ。……それが、今日はちょっとだけおもしろくなかった。
     一緒に見ろとは言わない。ただ、もう少しだけ構ってほしい。そんな願望をそのまま態度で示せば、すべてを察したかのように男は紅い目を細めてこちらを見下ろす。
    「…………」 
     下からじっと、その瞳を見つめた。同じような熱を浮かべた視線が絡むが、一向に距離は縮まらない。じりじりと熱だけが高まって、なぁ、と思わず呟く。求めているものが伝わっていないはずがない。
    「お前は、どんなふうにされたい?」
    「……へ……?」
     しかし、返ってきたのは予想もしていなかった言葉だった。髪を撫でていた手がゆっくりと頬を滑り落ちる。少しだけかさついた指先はそのまま顎の下をくすぐって、思わずごくりと喉を鳴らした。
     どんなって、どんな。
     左馬刻の声だけは何度も頭の中をぐるぐると回るのに、答えはこれっぽっちも見つからない。中途半端に開いた唇は何も告げることができず、けれど一度絡んだ視線を外すこともできなくて。どくん、どくん、と自身の鼓動だけが耳に響く。
    「可愛いなァ、一郎」
     悪戯な指先が、今度は耳たぶを弄る。すっかり力の抜けた腕から抜け出した左馬刻は、そのまま隣に腰を下ろした。そうして、ゆるりと腕が回される。
     顔が近づく。吐息が触れる。額がこつんと重なって、まっすぐな視線に捕らえられたまま、離れることなどできやしない。
     一秒。二秒。三秒。
    「……?」
     いくら待っても、今日はなぜか、唇だけが重ならなかった。頬はすでに痛いくらいに熱を帯びていて、仕方なくこちらからキスをする。ゆっくり触れて、啄んで、舌先でつついてみても、いつまでたっても唇は開かない。
    「……待てのできねぇ悪い奴だなぁ」
     諦めて離れれば、開口一番に意地悪な男はくつくつと嗤った。
    「どうせ慣れねぇことやんならもっと思いきり甘えてみろや」
     いくらでも付き合ってやんよ、と。茶番を見透かした男は甘く囁いた。
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