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    maybe_MARRON

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    左馬一(にょた)
    じろさぶを妹にするか弟にするかいつも迷うのですが、ARBホストイベの女装が好きなのと姉1弟2より3姉妹の方がいろいろ……住みやすいかなと思って……

    COLORS 街を彩る赤と緑。ゴールド。シルバー。ブルー。
     非日常のはずのちかちかとした光がいつの間にか景色に馴染む頃、ようやくクリスマス本番はやってくる。左馬刻はそんな浮かれたイベントで盛り上がるタイプではないのだが、最愛の妹に今年は何を贈ろうかと考えることだけは毎年それなりに楽しんでいた。
     そして、今年はイヤリングをプレゼントすることにした。最近は女友達と遊ぶ時でさえ、まるでデートかのように粧し込むと知ったから。
     サンタクロースが兄であることなどとうに知っているはずの彼女に、それでもやっぱり枕元に小箱を置きたいなんてことを思う。今晩もきっとテレビを見たり友達と電話したり、夜遅くまで起きているのだろう。さてどうしようかと考えながらイルミネーションが瞬く夜道を歩いていると、すぐ横から「あ」と小さな声がした。不審に思いちらりと視線だけを向け、思わずぴたりと足を止める。
     いつものコンビニの前。そこにはサンタクロースが――正確には、サンタクロースのコスプレをして店頭でケーキを売っている一郎がいた。まさかこんな時間にこんなところで出会うとは。
     一郎はあからさまに「やべ」という顔をして、気まずそうに小さく頭を下げた。
    「お疲れ様です」
    「おう。……バイトか?」
    「っす」
     真っ当な世界で歩き始めた一郎だが、萬屋はまだ始めたばかりで軌道に乗っているとは言い難い。時々単発のバイトも入れているとは聞いており、今日もそうだろうというのはすぐにわかった。年の瀬はただでさえ何かと金が要る時期だ。それに加えて、妹たちにクリスマスプレゼントをあげたいと考えているのだろう。
     男女兼用であろう安っぽいサンタクロースの衣装は、おそらくそこらへんの量販店で売られているものだ。女子にしては長身な一郎だが、それでも衣装はダボダボで、色気も何もあったものではない。ある意味高校生らしいその姿を一瞥したところで特に感想など浮かばなかったが、ただ、寒そうだなとぼんやり思った。
    「……一郎、バイト終わったら連絡しろ。あそこのファミレスにいるからよ」
    「え? いや、でも私今日は……」
    「早く帰りてぇんだろ? 車で送ってやっから」
     腹が減ってるなら食っていけばいいし、一刻も早く帰りたいならそのまますぐに送ってやる。そう告げれば一郎は大きな瞳をさらに丸くして、それからふわりと笑みを浮かべた。礼を言いながら素直に頷く。たったそれだけのことではあるが、すんなりと甘えてくれるようになったことに左馬刻も満足していた。
     それだけではない。車の中には、明日渡そうと思っていたプレゼントが置いてある。
     合歓へのプレゼントを探しながら、今年はもう一つ頭に浮かぶ顔があったのだ。強気な二色の瞳はそういえばクリスマスカラーだな、なんてことを思いながら、制服の上に薄手のコート一枚で過ごす姿を思い出したから。ポケットに忍ばせた手はいつも冷えているし、おそらく無意識だろうがスンと鼻を鳴らすことも多い。
     今だってそうだ。何時間外に立っているのかは知らないが、寒さのせいで肌の白さが際立ち、代わりに鼻先は赤くなっている。黒髪からちらちら覗く耳もほんのりと染まっていた。会計の都合か手袋もしていない。今年は比較的暖冬で、雪が降っていないのがまだ救いだった。
    (……ったく、いつまでサンタでいるつもりなんだか……)
     同じ年齢の妹にプレゼントをあげている身としてはなんだか居た堪れず、けれど同じきょうだいの一番上としては、自分のことを後回しにしてでも下のために頑張りたい気持ちだってよくわかる。だからせめて今夜は、真面目なサンタの背中を押しながら、一人の子どもを甘やかしてやりたくなった。


      ◇


    「へぇ、じゃあそのマフラーって左馬刻にもらったんだ?」
    「うん」
     急に寒くなってきて、一郎は制服の上にマフラーを巻くようになっていた。ボリュームのあるオフホワイトのマフラー。暖かみのある雪景色のような色はどこか大人っぽくて、けれど一郎によく似合っている。ぐるぐる巻きになったマフラーの上にある小さな顔。艶のある黒髪と、そこから覗く真っ赤なピアスがよく映えていた。
     似合うねと言えば、もらったんだと一郎は微笑んだ。愛おしそうにマフラーを見つめる姿にもしかしてと思い尋ねると、案の定それは左馬刻からのクリスマスプレゼントだったらしい。
    「でも意外かも〜。サマトキサマって、ハイブランドのコートとかクリスマスコフレとか、そういうのあげるタイプだと思ってた」
    「私には似合わないと思ったんじゃないの?」
     そう言って、一郎はからりと笑う。彼女はおそらく捻くれているわけでも謙遜しているわけでもなく、心からそう思っているのだろう。だが乱数も寂雷も、そして当然左馬刻も、皆わざわざ口にしたりはしないが決してそうは思っていなかった。
     整った顔立ちにすらりと伸びた手足。少女から女性へと移ろう最中の不安定な儚さ。芯の強さが魅せる煌めき。キラキラ輝く色違いの大きな瞳と、それを囲む漆黒の睫毛。ラップができればいいからと本人は見た目にあまり気を遣っていないようだが、それでも周りは彼女を綺麗だと思っている。メイクをすればもっとと思う反面、なぜだかそのままでいてほしくもあった。
    「うーん……気負わず使ってくれそうなものを選んだか、それとも……」
    「それとも?」
    「……他のオトコに目をつけられないようにしたのかも?」
     あんまり色っぽくなったら困る! とかね。
     わざとらしくおどけてウィンクをしてみせれば、一郎はそんなまさかとまたケラケラ笑って返す。最初は乱数も冗談のつもりだったのだが、だんだんあながち間違っていないような気もしてきた。だとすれば、下手なマーキングよりもよっぽどタチが悪い。
    (あとで確かめてやろ〜っと)
     左馬刻はいったいどんな顔をするのだろうかと考えて、面白いような少しだけめんどくさいような、複雑な気持ちになった。


      ◇


    「うわ……」
    「うわってなんだよ」
    「いや、だってこれ……」
     プレゼントだと渡された紙袋。クリスマス仕様であろうシックでキラキラしたデザインの袋に書かれている文字を見て、一郎は思わず声を漏らした。それが某有名ブランドであることくらいはさすがにわかる。中身はおそらく化粧品だろう。高そう……という身も蓋もない感想とともに、高揚感にも似た不思議な心地がして息を呑んだ。
    (こんなものをプレゼントされるようになったんだ……)
     付き合って初めてのクリスマス。二十歳を越え大人と呼ばれる年齢になって、自分なりにではあるが、一応身なりにも気を遣うようになったつもりだ。恋人として左馬刻の隣に並ぶようになってからはなおさらで、初デートの前には乱数にメイクのアドバイスをもらったりもした。そんなささやかな変化を認めてもらえたような気がして、なんだかむずむずする。頬に宿る熱を自覚する。
     戸惑いながらもおそるおそる中を覗く。入っていた小箱を取り出し開けてみれば、出てきたのは口紅だった。鈍く輝くゴールドのケースをくるくる回してみると、発色の良さそうな深い紅が顔を出す。
    「……」
     まじまじとそれを見つめたまま、一郎は言葉を発することができなかった。可愛らしい桜色でもキラキラとラメが輝くようなものでもない。その色を纏った唇は、きっと昼夜関係なく艶っぽさを演出するだろう。
     ――大人の仲間入りをしたみたい。
     そんな想いとともに、ゆっくりと視線を恋人へ移した。
    「……ありがと。うれしい」
     左馬刻の色だ、と思ってしまったことは、なんとなく恥ずかしくて言えなかった。
     昔くれた白いマフラーももちろん嬉しかったけれど、左馬刻と一緒にいるとやっぱり赤が一番嬉しくて、自然と好きな色だと思えた。
     左馬刻は、よく一郎の瞳を好きだと言う。他の人に目の色について言及されても「まあ珍しいだろうしな」としか思わなかったのだが、左馬刻に言われる時だけは不思議と違った。素直に嬉しいと思った。一郎だって左馬刻の瞳が好きだから。
     射抜くような鋭い視線も、蕩けたような柔らかな眼差しも。一郎の透明感のある赤とは違う、どこまでも深い赤。自身の目の片方が赤色であるという偶然の共通点ですらも愛しくなってしまうくらいには、今は赤が好きで。
     初めて過ごす恋人とのクリスマスに、つい思考がふわふわする。だから、この色がいずれ左馬刻の唇に移ってしまう可能性には、この時はまだ気がつけなかったのだ。
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