KBML書きかけ協力者その1。ジムリーダーたちの行きつけのバー。シュートシティの外れに位置し、いわゆる穴場として知る人ぞ知る場所である。
グラスの触れ合う音、人の話し声の混ざり合った雑音。布が擦れる音。そして男の声。
これは炎タイプのジムリーダー、カブの声だ。
「……あぁ、えらく落ち込んでたねキバナくん。写真映えを気にする彼のことだ、カメラの回ってない時でさえあんな顔しないのにね。よっぽど落ち込んでたんだね」
そして若い女の声。これはみずタイプのジムリーダー、ルリナ。
「そうなんですよ……あいつ、控室に戻るなり急激に萎れちゃって。まぁ、バトルだけとっても、落ち込んでも仕方ないくらいの内容でしたけど」
「彼の切り札と言える2体とも凍らせてしまうなんてね。彼女の言うとおり本当に、凍らせてあとは好き放題、というやつだったね。さすがに同情するな」
「しかも凍ってからも手加減するどころか、的確に弱点を突いて完膚なきまでに打ちのめしてましたからね。………ほら見てくださいSNS、キバナのファンでさえ今日のメロンさんとの試合は見てて爽快だったなんて言う人がいますよ」
「はっはっは……サポーターとは実に厳しいよね」
がやがやという雑音、グラスの触れ合う音。沈黙。
「あの時の人たち、あれメロンさんのご家族ですよね?」
「あぁ、試合後に子どもを連れて花束を持ってきた人、あれがメロンさんの夫だよ。私も若い頃からの友人でね」
「なんかフツーの人でしたね。メロンさんの旦那様、ていうからもっと俳優みたいな方を想像してましたけど」
「僕らが若い頃はね、メロンはメンクイと言うやつではないんだな、なんて冗談を言い合ったものだよ」
「あはは、なにそれ」
軽い笑い声。グラスに氷が当たる涼しい音。
「カメラが回ってる前で、走って抱きついてキスだなんて……メロンさんたら大胆ですよね」
「明日の新聞や雑誌のトップは彼女のキスシーンになるのかな」
「ふふ、ホント嬉しそうでしたよね」
「今日はね、彼らの結婚記念日なんだよ」
「えっ……そうなんですか」
「あぁ、よく覚えてるよ。結婚後にメロンが背番号を今日の日付にしたいと騒いでいた時期があってね。結局、背番号を後から変えることはできないから、しぶしぶ諦めていたけどね」
「だから花束持って応援に来て、それで抱きついてキス、かぁ」
「そう、そして彼はそれを目の当たりにしたわけさ」
はぁ、というため息。ルリナの方だ。
「そりゃあ落ち込むわね……」
しばしの沈黙。
「トレーナーとして、そして男として、彼は今傷付いているんだよ」