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    カウズ

    @kauzu_z

    気ままに創作していきたい

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    カウズ

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    山羊の神先生と狼のナギ君の童話の様な世界観の神ナギの話。序章で出会いの物語。これから色々あって仲良くなってなんやかんやする予定です。

    #神ナギ
    amaterasuOomikami
    ##神ナギ

    山羊と狼の童話っぽい話 これは人間と獣と人獣が混ざり合って暮らしている世界のお話。
     ある所にナギリという狼の人獣がいました。このナギリ、大層悪い狼であちこちで人襲いその悪名を轟かせており、その名を聞けば震え上がるものもいるくらいでした。
     しかしとある地を訪れたのが運の尽き。狩人や退治人に捕まりサバトに連れていかれとても恐ろしい目に遭いました。それからも不運が立て続けに起こり今では碌に狩りもできない状況になってしまいした。
     けれどそれにめげずに今日も自分に今川焼をくれた心優しきアルマジロの丸を退治人から助け出す為に奮闘するのでした。


    「よし……行くか。丸、今助けてやるからな」
     退治人に囚われた丸を助け出す決意をしてねぐらとしている洞穴を出る。ここらを巡回している狩人や退治人に見つからぬように、薄暗い森の中を身を隠しながら慎重に進む。もし見つかれば俺を模したせんべいを出されてサバトに連れていかれる。サバトは……恐ろしいのだ……。
    「ん?」
     頬に冷たいものが当たった気がした。何だと思っていると、次々に冷たいものが体中に当たった。
    「……っち」
     それが雨だと気付いて舌打ちをする。激しくなる前に何処か雨宿りができる場所はあるだろうか。
    「君」
     その時何処からか声がした。辺りを見渡せば巨木の根元に空いた大きなうろに黒の一文字の模様がある黄金の丸が浮かんでいるのが見えた。得体のしれぬ物に警戒をしながら睨みつける。
    「此処ならあんまり雨に当たらないよ」
     その黄金の丸より少し下からぬっと手が伸びてそれがこちらに手招きする。どうやら誰かいるようだ。
    「……誰だ」
    「あ、驚かせっちゃった? ごめんよ。僕神在月シンジ。山羊の獣人だよ」
    「山羊?」
    「うん」
     神在月シンジと名乗ったそいつはうろから出てきた。眼鏡の掛けておりその奥には黄金の丸。どうやら黄金の丸はそいつの目だったようだ。頭に生えた曲線を帯びたの角や、横にピンと伸びる耳を見れば確かにそれは山羊のものだ。身長は俺と同じくらいだが全体的に細くてひょろく俺が叩いてやれば簡単に折れそうだ。
    「雨に降られたんでしょ? 一緒に雨宿りしない?」
     間抜けそうな顔を見れば本当に雨宿りに誘っているだけの様で他意はなさそうに見える。もっとも何か裏があっても返り討ちにできるだろうから問題はない。何なら食ってやることだって出来る。骨しかなさそうで不味そうではあるが。このまま雨に当たるのは嫌なので神在月の誘いに乗って俺もうろに入る事にした。うろに近づくと神在月はうろの奥の方に入っていく。
    「災難だったねー」
     へらへらと話すあたり俺が狼だとは気付いていないのだろう。此処で名乗れば俺が各地で恐れられている狼だと知るだろう。そすればこいつはどうなるだろうか。きっと逃げる事も出来ずにただ震え上がるに違いない。それを想像してヒヒっと笑う。
    「おい聞け。俺は……」
    「そういえばさっきの大きな声の狩人さんまだ近くにいるかな。雨に打たれてないといいけど。あ、ところで君の名前は?」
    「辻田だ」
    「辻田さんか。これも何かの縁だからよろしく」
    「ああ……」
     こいつが騒いで狩人が駆けつけてこられては困る。とっさに適当に名乗った。
    「多分通り雨だからすぐに上がると思うよ」
    「そうか」
    「でもタイミング悪いなあ。今日は町に出て物資を交換しに行こうと思ってたのに」
    「交換?」
    「うん、森にある木の実や薬草、花なんかを町に持って行って色んな物と交換してもらうんだ。パンとか、食器とか、薬とかね」
     神在月が指をさした方を見ると、木の実や草が入ったかごが置いてあった。
    「かごを背負って町に行くのも大変なのに、おまけに雨なんてね。辻田さんは何でこんな森に?」
    「別に何でもいいだろう」
    「うう……そうだけど、話のネタとしてね、黙ってるのも気まずいじゃないか」
    「そういうものか」
    「もんだよ。森に遊びに来たとか?」
    「今は住んでいる」
    「今はというと?」
    「元々放浪してた。訳あって今はこの森にいる」
     本当はこんな森出て行きたい所だが、丸を助け出すまではこの森を出るわけにはいかない。
    「そうなのかー。僕はこの森に住んでるんだ。山羊は普通山岳地帯に住んでいるんだけど、僕は岩登りとか苦手で……貧弱で体力もないし。だから森に住むことにしたんだ」
    「まあ……確かに貧弱そうだな」
    「見た目でもわかる僕の貧弱さ……。辻田さんは……がっしりとした体格だねえ」
    「普通にしてたら鍛えられるだろう」
     狩りをしていれば自然と鍛えられる。だから力も体力も自信がある。
    「いいなー。僕もムキムキの体とか憧れるなあ」
    「……お前がムキムキになっても合わない気がするな」
    「エーン! 夢くらい見させてー」
     神在月が話しかけてくるのでしばらくはどうでもいいような会話を続けていた。
    「あ、雨が止んだみたい」
     外を見ると雨が上がっていた。本当に通り雨だったようだ。
    「じゃあもう出る? 僕はこのまま町に行くね」
    「そうか」
    「じゃあね。ちょっとの間だったけど楽しかったよ」
     神在月はかごを背負う。けれどバランスが上手くとれないのかふらふらとする。
    「どうした?」
    「いや、今日はいっぱい野草とか木の実が採れておかげで重くてさ。実はここに来るときも結構苦戦してたんだよね。まあ大丈夫だよ」
     そういうも歩くたびに後ろに倒れそうになり見ていて危なっかしい。というかなんだかイライラしてくる。
    「貸せ」
     神在月からかごをひったくり背負う。
    「え?」
    「町に行くんだろう? 行くならっとっと行くぞ」
    「辻田さん……ありがとう!」
    「別に見ててなんだかイライラするからだ。お前の為じゃない」
    「それでも助かるよ!」
     神在月は嬉しそうにしている。なんでこんな面倒な事を……俺には丸を救い出すという目的があると言うのに。自分に悪態をつきながらも町へ向かう。町に向かっている時も相変わらず神在月は話を振って来たので適当に返した。

     森を抜けたところに小さな町がある事は知っていたが来るのは初めてだった。初めての地で人も多いので警戒をしておく。
    「町は初めて? そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
     警戒しているのに気付いたのか落ち着かせるように声をかけてきた。
    「緊張ではない警戒だ」
    「治安の悪い町じゃないし大丈夫だと思うよ」
    「お前は危機感がないな」
     よく考えれば森で初めて出会った奴を雨宿りに誘うくらいだから、危機感何て皆無なのだろう。
    「うーん。それは言われたことあるな……あ、あそこ。あのお店に用事があるんだ」
     神在月が店の中に入ったので俺もそれに続く。店と言っていたとおりに中にはなんだかたくさんの物が置いてあった。棚には革袋がたくさん置いてあって、その横には大小様々筆がある。それから様々な大きさの白い板や後は何に使うかわからない道具。そういったものが並んでいた。
    「すみませーん」
    「はーい」
     神在月が声をかけると奥から人が出てきた。どうやら店員の様だ。
    「ああ、神在月さんこんにちは」
    「こんにちは」
     親しげな様子から神在月と店員は顔見知りの様だ。
    「おや? 今日はお連れさんがいるの?」
    「ちょっと縁がありまして」
    「そうなんだ。今日は何を持ってきてくれたんです?」
    「えっと……あ、辻田さんかごを下ろしてくれる?」
    「ん」
     背負っていたかごを下ろして床に置いた。神在月はかごに手を突っ込んでそこから色々と取り出した。
    「えっとマリーゴール、ザクロ、ベニバナ、クサギ、ツツジを持ってきました」
     かごから取り出したものを店員に渡した。
    「いつもすまないねえ、今日は何が欲しいんだい?」
    「えっと、青と茶色と赤の絵具、あと正方形の三号のキャンバスを一つ頂ければ」
    「了解、今持ってくるね」
     店員は神在月が渡したものを机に置くと棚から革袋を取り、並んでる中では小さめの白い板を持ってきた。どうやら革袋には絵具が入っており、白い板はキャンバスというらしい。
    「はいどうぞ」
     店員はそれを神在月に渡した。
    「ありがとうございます!」
    「こっちもありがとうね、また頼むよ」
     神在月は店員に礼をするとまだ少しだけ木の実が入っているかごを背負おうとする。
    「あ、辻田さんかごを背負うからちょっと絵具とキャンバス持ってて」
    「……俺が背負えば早いだろう」
    「でももう軽いから……」
    「持ったり渡したりで面倒だろ」
    「いいの?」
    「別にそれくらいいい」
    「じゃあお願いします」
     かごを背負うと神在月と共に店を出て行く。
    「所でまだ木の実が残っているようだが」
    「残りはね別に交換するあてがあるんだ」
    「別に?」
    「うん。お店はすぐそこだよ」
     神在月の言う通り少し歩いて数軒横の店へ入った。店に入ると美味そうな匂いがした。多分食い物がある事はわかった。
    「こんにちは」
    「いらっしゃい神在月さん」
     この店の店員もどうやら神在月とは顔見知りの様だ。
    「ん、お隣の方は……見ない方だね? お友達?」
    「えっと、ちょっとした縁で町まで付き合ってもらいまして」
    「へーそうなのかい。あ、いつものだろ?」
    「はい、今日はキイチゴを持って来まして」
     俺はかごを下ろして中に入っているものを取り出して店員に渡した。
    「ありがとう。美味しそうなキイチゴだね」
    「ちょっと味見したけどとても美味しかったですよ」
    「それはいいねえ。今あれを持ってくるよ」
     店員は奥に引っこんでいった。
    「辻田さん渡してくれてありがとう」
    「お前の手がふさがってるから渡しただけだ」
    「ふふ、気遣いありがたいな」
    「ふん……」
     少しして店員が白い固形物の入った瓶を持ってきた。
    「はいどうぞ」
    「ありがとうございます! 美味しそう……」
     美味そうというのでどうやらそれは食い物であることはわかった。
    「このかごに入れるかい?」
    「お願いします」
     店員は瓶をかごに入れた。瓶が入っているので少しゆっくりとかごを背負った。
    「また頼むね」
    「こちらこそ」
     神在月は礼をして店を出て行ったのでそれに続く。
    「あの、自然にかご持ってもらってありがとう」
    「……そういえばそうだな。なんとなく背負ってしまった」
    「そっか、それでなんとなくついででよかったらなんだけど」
    「なんだ」
    「お世話になったし、お礼もかねてヨーグルトご馳走したいんだけどどうかな?」
    「ヨーグルト?」
    「さっき貰ったもの」
     先程かごに入れてもらったあの白い固形物はどうやらこれはヨーグルトというらしい。
    「これは美味いのか?」
    「僕はお気に入りでいつも食べてるよ。食べた事ないならなおさら食べてみてよ」
    「……まあいいだろう」
     ここの所邪魔が入って狩りが碌にできなく空腹だったので何か食えるならと了承する。
    「決まり! なら僕の家に行こうか。僕の家はさっき雨宿りしていたところの近くなんだ」
     ぱあっと神在月の顔が明るくなる。初対面の奴を家に招くとかやはりこいつには危機感がないようだ。
    「辻田さんの好きな食べ物ってある?」
    「別に……あ、今川焼は美味いと思う」
    「今川焼か、美味しいよね。僕はこしあん派なんだけど辻田さんは?」
    「俺は……一つの味しか知らん」
    「そうなの? 今川焼は味が色々あるから試しみるといいよ」
    「そのうちな」
     家へと行く道中もやはり色々と話しかけてきたので適当に返事をした。

    「ここが僕の家」
     町を出て森を進んでいくと古い小屋にたどり着いた。
    「散らかってるけど、さあどうぞ」
     神在月が小屋の扉を開いて招き入れた。
    「ん」
     特に遠慮する事もなく小屋に入っていく。中は多少埃っぽいがいたって普通の小屋だ。
    「かごは其処に置いて大丈夫だよ」
     言われてかごをその場に下した。
    「今用意するから座って」
     促されてテーブルに着く。神在月はかごからヨーグルトを取り出して台所へ行く。しばらくして器に入れられたヨーグルトとスプーンを持って戻ってきた。
    「どうぞ」
     目の前に置かれたヨーグルト。神在月は美味いと言うが初めて食べるものなので恐る恐るスプーンですくって口に運ぶ。
    「……酸っぱいし甘いな」
     初めての味ではあるが嫌な味ではない。
    「それは酸味強めのヨーグルトなんだ。最近僕のお気に入り」
    「そうか」
    「あ、ジャムを乗っけても美味しいよ」
     神在月は席を立ってすぐに赤いジャムを持って戻ってきた。
    「イチゴのジャムだよ。お好みでつけてみて」
     イチゴのジャムを掬ってヨーグルト上に乗せる。ヨーグルトジャムを一緒に食べる。ジャムの甘みとヨーグルト酸味で先程とはまた違った美味しさだ。
    「美味しい?」
    「悪くないな」
     一度食べ始めれば手が止まらなくてすぐに平らげてしまった。
    「もう食べちゃった? 気に入ってくれたみたいで良かった」
     神在月はなんだか嬉しそうだった。
    「何をにやにやしている?」
    「ん? 自分の好きなものを気に入ってくれるのって嬉しいじゃないか?」
    「そういうものか?」
    「そうだよ」
     神在月は自分の分のヨーグルト食べ進める。暇なので辺りを見渡すと、隣の部屋に続く扉が開いたままである事に気付いた。部屋の奥には先程交換したキャンバスが並んでいるように見えた。
    「あ、そっちはアトリエだよ」
    「アトリエ?」
    「うん、絵を描くための作業所」
    「絵を描く……」
     交換してもらった絵具に店に置いてあった筆。それを考えれば神在月は絵を描くであろうことは想像が出来たが俺にとっては縁遠い物なので今まで思いつかなかった。
    「見て見る?」
    「……ああ」
     神在月の目がなんだかキラキラしているので流されて頷いてしまった。
    「え? じゃあ、どうぞ!」
     テンション高めに隣の部屋に案内される。隣の部屋に行くと絵の描かれたキャンバスと、絵具に店で見た道具達、それに壁際には本棚があってみっしりと本が詰まっていた。
     キャンバスに描かれた絵はどれも生物の様だが見た事のない謎の生物ばかりだ。
    「何を描いている?」
    「幻想獣とか怪物とか伝説や物語に出てくる想像上の生き物をテーマに描いているんだ。あとは自分でもこんな獣がいたらなあってのも描いたりしてる」
     説明をされて改めてキャンバスに描かれた絵を眺める。
    「炎纏った鳥に……こっちは羽の生えた馬か?」
    「不死鳥とペガサスだね。物語に出てくる獣では結構定番だね」
    「これは目つきの鋭い……ネズミか?」
    「それは親友をモデルにして描いてみたんだ」
    「……そうか、見た事のない物で面白いな」
    「え! あ、ありがとう!」
     率直に出た感想に声をあげて反応した。
    「うるさい」
    「ごめんよお……でも描いた物褒められると嬉しいんだよ」
    「別に褒めたつもりはないが……」
     他に何かあるかと辺りを見渡す。筆や絵具が乗った板に、使いかけの絵具、水の入ったバケツ……とにかく色々ある。
    「ナイフがある」
     絵を描くにはあまり結びつかないがこれも絵の道具なのだろうか。
    「これはね、絵具を重ねて塗ったところを削って下の色を出させる時に使うの。あ、ちょうどやろうとしてたところだけど見る?」
    「……ああ」
     神在月は絵の前に座った。それは上半身はチーターだが下半身は魚の尾の獣の絵だ。
    「これは?」
    「シーチーター。海にいるチーターの頭に魚の尾を持つなんか強そうでいい感じの怪物だよ」
    「……その言い方からお前の考えた奴か」
    「よくわかったねえ、思いついた時はこれだと思ったわけで。海の中を泳ぐ恐ろしく速い怪物でその速さで狙った獲物は決して逃さず、その鋭い爪で相手を捕らえそのまま食いちぎってしまうと言う」
    「呪文のように語るな」
    「すまん。あ、それでね、此処の青の上に白を塗ったんだけど、この白の部分を削り取って下の青を浮き出させるんだよ」
    「そうなのか」
     神在月は慎重に白の絵具を削り取っていく。するとその下から青の絵具が見えてきた。
    「よし、上手くできた。これさあ、やりすぎて下の絵具や酷い時にはキャンバスも削っちゃったりするんだよね」
    「削るだけだろ?」
    「案外難しいんだよ、やってみる?」
    「お前の描いている絵だろ? いいのか?」
    「これは頼まれて描いてるやつじゃないから大丈夫」
    「頼まれてる?」
    「普段は好きで描いているけど、ありがたい事に僕の絵を気に入ってくれる人達がいてね。出来た絵を行商の仲介の人が持って行って、美術館に展示されたり個人のお家に飾られたりするんだ」
     絵を飾って楽しむなんてしたことはないので良くはわからない。そもそも物を飾るような家などないのだが。
    「この絵は思い付きで描き始めて、まあ練習の為に描いたものだから失敗しちゃってもいいから安心して」
    「まあ……そういうなら」
     神在月からナイフを受け取る。
    「この辺りの白い絵具を削ってくれる?」
     言われた箇所の白い絵具をナイフで削る。ナイフの入り具合を見て力加減を決めてゆっくりと削っていく。一振り目は力を入れ過ぎたのか下の絵具も少し削れてしまった。二振り目は先程より力を抜いて削っていく。今度は上手くいったようで下の青の絵具が綺麗に出てきた。
    「おお! 上手上手! 本当に初めて? 器用だねえ」
    「まあこれくらい造作もない」
     褒められればまあ悪い気分はしない。
    「僕は最初の頃はしょっちゅうキャンバス削ってたし、今でも慎重になりすぎて時間かかるんだよね。でもいい感じになるからよくやるんだ」
    「そうか」
    「じゃあさ、ここら辺の茶色の所削ってもらえるかな? 下には黒の絵具で塗ってあるから」
    「わかった」
     指さされた箇所の茶色の絵具を先程の要領で削っていく。そうすれば削った個所から黒い絵具が顔を出す。
    「そうそういい感じ」
     そうやって少しずつ絵具を削っていく。
    「ありがとう。辻田さんのおかげで綺麗にできたよ」
    「これで完成か?」
    「いや、まだこれから塗り重ねていくから完成はまだだよ」
    「そうなのか」
     俺から見ればこれでも十分なのだがそれでもまだ完成ではないようだ。
    「あとは次に描くのをそろそろ決めないといけないとなー」
    「次に描くの?」
    「うん、描いてくれって頼まれたのがあるんだ。可愛らしい動物をお願いされているんだけど、僕はこういう獰猛なのとか力強さがあるのとか、そういうのが得意なんだけど可愛らしいって言うとこう迷っちゃってなかなか描きだせなくてさ」
     神在月は大きくため息を吐く。
    「結構締め切りも迫っているのに……俺はゴミクズウジ虫なんだあ!」
    「奇声をあげるなやかましい!」
     突然叫び出した神在月を殴りつける。
    「ブオハ! ああごめんちょっと狂って……それにしても何かいいアイディアはないかなあ? ねー辻田さん。こう、何か可愛い物って思いつかない?」
    「何かと言われてもなあ……」
     可愛い物……そう考えれば思いつくのは丸だ。
    「丸……」
    「まる?」
    「丸は丸だ、アルマジロだ。丸くて可愛い」
    「あー成程アルマジロね。確かに丸い物は可愛いよね」
     神在月は立ち上がって本棚から本を一冊取り出した。
    「えっとアルマジロアルマジロ……あ、あった」
     本を開いたまま真っ白なキャンバスの前に座ると、本を見ながら黒い塊でキャンバスに絵を描き始めた。
    「なんだそれは?」
    「これは木炭だよ。下絵を描く時はこれを使うの」
     木炭で黒い線を何本も引いていくと段々と絵が出来上がっていく。
    「こんな感じかな?」
     神在月が木炭を置く。そこには丸さを強調し愛くるしいポーズをしたアルマジロが出来上がっていた。
    「まあ、本物とは雲泥の差だがこれはこれでいいな」
    「へへ、ならこのままアルマジロをテーマに描いてみるよ。ありがとう」
    「ふん……」
     そっぽを向くと窓の外が見えた。もう日も暮れ始めている、随分と長居をしてしまったようだ。
    「もう帰る」
    「え? 暗いけどいいの?」
    「夜目は利くし、俺のねぐらもこの近くだ」
    「そうなんだ。ご近所さんだったんだね。それならまた何かあったら遊びに来てよ!」
    「……気が向いたらな」
     俺は玄関に向かい小屋から出る。
    「また来てよー」
     神在月も外に出てきてお見送りにと手を大きく振っていた。それには特に反応せずとっととねぐらへと向かった。

    「はあ……なんだか疲れたな」
     小屋からねぐらにしている洞穴へと戻ってきた。今日は予定が色々狂ったが次こそは丸を助け出す。俺の目的はそれだけだ。とりあえず今日の所は眠ることにしたので、藁を積んだ寝床に横になる。目を閉じれば世界は暗くなる。いつもはすぐに眠りに落ちるのに、あそこで食べたヨーグルトの味とナイフで絵具を削った感覚を思い出してしまう。ヨーグルトは美味かったし、絵具を削るのもなんだ面白かった。それにあの絵は完成したらどうなるか、アルマジロの絵も色が付いたらどんなものになるのか、それも気になってしかたがない。
     もし……本当に気が向けばまた行ってやってもいいだろうか。そう思いながら体を丸めて眠りについた。
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