好きな事には変わりない 一日のすべきことが終わりあとは寝るだけの時間帯、各々好きな事をして過ごしている。神在月はベッドに寝転がりながらSF小説を読んでいた。ふと、ベッドが沈んだ事に気付いて小説から目を離すと横に辻田が寝転んでいた。確かさっきまでスマホでアルマジロの動画を見ていたはずだ。
「もう眠くなった?」
問いかけるも辻田は黙ったままだが目は何かを訴えかける様にこちらを見ていた。ああこれは思い小説を枕元に置いて辻田の頭に手を伸ばして頭を撫でた。
「ん……」
そうしてあげれば目と瞑って小さく声を出して、しばらくすると自分から手に頭を擦り付けてくる。開いている方の手を腰に回して辻田を抱き寄せると辻田の方からも体を寄せてきた。
辻田は案外甘えたがりだ。甘えたい度合いというのはその時々で違ってただ撫でてもらいたい時もあれば、深い繋がりを求めてくる事もある。それを見極めて構わないと不機嫌になってしまう。それが我儘お姫様みたいで可愛いと思っていたりするのだが言ったら怒られるので言わないでいる。
「んん……」
辻田が首筋に顔を埋めてきてべろりと舐められた。
「ひゃ!」
それに身震いして声が出てしまう。辻田はそれを気にすることなく唇を寄せてキスをしてきた。どうやら今日はずいぶんと甘えたい様だ。辻田がキスをする時は首筋を重点的にする事が多い。やはり吸血鬼から見たら首は魅力的なのだろうか。後は手も多い気がする。神在月はというと頬にしてあげるのが好きであった。
そういえば……と、昔に見た知識を思い出す。キスをする場所にとって意味があると。それは海外の劇作家の作品に出てくる台詞だった。誰だったか何の作品か意味とは何だったか。考え出すとどんどん気になってくる。
「おい」
明らかに不機嫌な声で辻田が声をかけてきた。
「……あ、どうしたの?」
「何か余計な事を考えてるだろ」
「余計な事?」
「ぼんやり宙を眺めているし、手が止まっている」
辻田に言われて頭を撫でていた手が止まっていた事に気付いた。
「あーごめん。キスする場所によって意味があるんだよなって思い出したら、色々と気になりだしちゃって。なんだったかなー」
調べたくなって近くに置いてあったスマホに手を伸ばす。だがスマホを掴む前に辻田がスマホを払って遠くに飛ばした。
「あ」
「……何処にしようが何が変わるわけでもない。そんな事調べてる暇があったら俺に構え」
ドスの利いた声で言うが内容は可愛いもので微笑ましくて口元が緩みそうになってくる。
「それもそうか」
再び辻田の頭を撫でて頬にキスしてあげると辻田は満足げな顔をしてぎゅっと抱きついてきた。