今日も、また負けどすん、と何かが背中に当たった衝撃で、手に持っていたグラスの中身が零れそうになる。
その正体を見る前に舌打ちをしてしまうほど、それからは嗅ぎ慣れたムスクの香りがしていた。
「ひめるさん」
普段では有り得ない舌足らずの声に、眉間の皺が寄る。只でさえ来たくも無い大衆居酒屋に呼び出されて仕方なく来ているHiMERUにとって、常日頃から関わりたくない相手に返事をしてやる義理もない。
所属ユニットのメンバーと関わりの深いユニットの面々は八人しかいないはずなのに、どうしてこうも騒がしいのか。溜息もつき飽きているが、その喧騒のおかげで返事をしなくても聞こえなかったふりも出来るだろう。
それに、--この酔っ払いからすれば、聞こえているかもいないかも判断がつかないはずだ。
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