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    AOI_xxx999xxx

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    ワンドロSS乱文その2。
    字書きになることを諦めた日。

    文字列の懐古「お前のその字はなんとかならんのか。」
    部室のいつもの定位置に座る彼が僕の手元を覗き込んで溢した。
    「すみません、読みづらいですよね。」
    SOS団が校内屈指の特殊集団だとしても大きな行事や事件が常に追いかけてくることはなく、凪のように過ぎ行く日々がここ二、三日続いていた。今は特に新しいボードゲームも手元になかったのでオセロでも提案したかったところ、クラスの委員で頼まれた仕事の締切が早急であったため、この時間を利用して済ませようとしていたところだった。
    「なんで謝るんだよ。別に読めないほど汚いわけじゃないから問題はないんだがな。」
    「僕もこの悪筆には自覚的なので、何度も矯正しようと試みてはいるのですが、なかなか難しいですね。」
    「まあ、その感覚も分からなくはないがな。でもそれって機関とやらに指されたりしないのか?一応お前のそのキャラも見てくれも、ハルヒが望んだものなんだろう?そのお前を構成する成分表を見りゃ、『達筆』も含まれてそうな気がするんだが。」
    「涼宮さんもそこまで僕に求めているわけではないようですねぇ。僕としては助かるのですが。」
    「そりゃあお前を優等生属性だけでここに引き入れてくるようなヤツだからアイツの中の最低限を満たしていればあとはどうでもいいのか。変に自分で納得しちまったぜ。」
    「その“最低限”が、難しいんですけどね。」
    クスリと笑みを溢すと、彼はついていた頬杖を外して背筋を逸らし伸ばした。
    「確かにな…………」

    「……………………」

    向かい合った二人の間、部室の中心を捉えるように開け放たれた窓から風が舞い込む。風は花の香りを纏い一気に室内を駆け巡る。
    「涼宮さん達、どこへ行ったんでしょうね。」
    この部室で絶対的な存在である団長様は、メイドさんと文学少女の手を引き外へ出て行ってしまった。何が目的なのかはよく分からない上に教えても貰えなかったため、僕と彼のみが、特に取り組むものもなくただただ時間を消費していた。
    「さぁな」
    「ここ数年彼女についての情報収集や考察を重ねていますが、未だに予想外のことをもたらしてくれるので、敵いません。」
    「予想したくもない上に、これからまたトンデモ案件を持ってくることと、今の平穏がその予兆であることだけははっきりと分かるがな。慣れたくもないぜ。」
    吐き捨てるようにそう言う彼の、やれやれ、といった表情は、僕の目に楽しげなソナタを伝える。それを言ったら間違いなく彼は否定するだろうけど、僕もそこそこ長いこと時間を共にした気がするので、目元に齟齬が発生したわけではないはずだ。そんな彼の面倒なところも分かる様になってきたのがその証拠であるように。
    「おや?僕なんかとの退屈な時間を『平穏』と受け取ってくれるのですか?光栄ですね。」
    あからさまな顰めっ面を向けられることだって予測済みだ。

    「そうだよ、誠に不本意だが俺が愛着を持ち出したのはアイツらだけじゃなくお前、副団長様に対してもだからな。」
    「……!」

    ……やっぱり彼のこともまだまだ分からない。軽石のような冗談を川に打った横にいた彼に手頃なサイズの鉄球を打たれてお返しされた気分だった。『予想外』を与えてくれるのは、何も涼宮さんだけではなかったことを思い出す。
    「…………なんだその顔は」
    「えっ」
    自分がどんな表情を浮かべているのかさっぱり分からなかったので手で覆い隠し、先ほど想像していた通りの顰めっ面が滲み始めた彼の視界から逃れた。
    「気持ち悪いぞ」
    動揺させといてひどい言い草だ。
    ……鉄球を投げたのはあなたなのに。次は何を使って水切りをしろというのだろう。自分の持ち得る処世術の引き出しを隅から隅まで引っ張り出して探しても分からないような課題だった。床に散らばる書類から一枚を選び取って出た言葉は
    「参りました……」
    単純な降参の言葉だった。

    ずっと敵わない。
    涼宮さんに、
    あなたに。
    そんな日が、窓から差し込み始めた夕焼けの色を受けて輝くのだから、悪くないと思えるんです。

    一人の少女が力を手にした日、どこにでもいるような存在でしかない僕にも力が与えられた。自傷した心を置いてけぼりにして変わっていく“僕の”世界で、呪うことをやめて受け入れることを決心した時に『古泉一樹』が誕生した。悪筆を矯正しようとしたなんて嘘だ。機関の人に指摘されたことだってある。それでも僕は争うかのように、文字を守った。変わった世界で、自分の文字が好きになった。力を手にする前の僕の存在を主張してくれたから。古いアルバムが捨てられないような気分になる。
    あの日を境界線とした“前の世界”と“後の世界”。どちらも抱擁したいと思う。その行動に『矛盾』というレッテルが貼られることはきっとない。

    小さく息を吐いて、
    ペンを置いて、
    今度こそはしっかりと、いつもの微笑を浮かべた。
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