Recent Search
    You can send more Emoji when you create an account.
    Sign Up, Sign In

    Arasawa

    @_Arasawa

    絵文字ありがとうございます。
    いつもにんまりさせてもらっています😊

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 👏 🕖 ☺ 🌋
    POIPOI 32

    Arasawa

    ☆quiet follow

    土足厳禁の学生時代。数え切れる程しかない二人の思い出の一つ。
    七海が風邪を引いたらしいから嫌々看病しに行ったら思っていたより辛そうで……?

    土足厳禁を読んでなくても読めると思います。

    この二人が少し遠い将来ゆっくり両想いになっていくことを思うとめちゃくちゃにんまりしてしまう😊

    ##土足厳禁

    嫌いな後輩が風邪を引いたらしい「七海が風邪引いたって」
    「ふーん」
    「看病に行ってやんなよ」
    「え、なんで?七海でしょ?なんとかなるでしょ」
    「いいから行ってやんなって。風邪の原因はストレスもあると思うから」
    「えー……」

    ストレスが原因なら嫌い合っている私が看病なんかしにいったら逆効果じゃないのかなとは思う。けれど数ヶ月前に灰原を亡くし憔悴しきったあの七海の姿が脳裏を過ってしまい、硝子に言われるがままゼリー飲料数個を手に七海の部屋を訪れた。七海ならこういう時のためにゼリー飲料くらい常備してそうだけど……。
    呼び鈴を鳴らしてしばらく待ったけれど物音はしない。寝てるのかな。もう一度鳴らして出なかったら帰ろう。固いボタンを再度押したけれどやっぱり物音はしない。……そもそも生きてるのかな。なんだか妙に心配になってきた。七海?と声を掛けるとドタ、と物音がした。いるんじゃん。足音の後ガチャ、と開いたドアを避けて中を覗き込む。マスクで覆われていない七海の目元は真っ赤で少し息が荒い。眉間の皺はいつも通りだ。

    「何の用……ですか……」
    「……どうしたの?」
    「こっちの……台詞、なんですが……」
    「思ったより辛そうだったから……。……鍵貸して」
    「は?」
    「別に合鍵作ったりしないから……あとで部屋入るけどそれは許してよ」

    眉間に皺を寄せた七海は案外素直に鍵を渡した。何の装飾も付いていない。昔見たときはおにぎりのストラップが付いていたような記憶があるのだけど……。……おにぎり……ああそういうことか。
    ぺた、とお互いの額に手を当ててみるとかなり熱くて溜息を吐いた。

    「……食べ物は何かあるの」
    「ゼリー飲料が……」
    「アレルギーと嫌いな食べ物は」
    「特に……」
    「わかった、寝てて」
    「何を……するつもり……ですか」
    「病人が気にするようなことじゃない。寝てろ」
    「……」
    「今日くらい大人しく私の言うこと聞いて。ほら、鍵は閉めとくから」
    「……はい」

    フラフラと部屋に戻っていくのを見届けて鍵を締めた。玉子粥でも作ろうかな。でも奴は私の手料理なんか食べるのだろうか。
    共有エリアがやけに寒かったからソファに放置されてた上着を着たら実は七海の忘れ物だったということがあるんだけど、私が着てるのを見た七海の青い顔は忘れられない。五条か夏油のだと思ったゴメンと謝りながら慌てて脱いだ私から上着を奪い取って足早に去っていった。そんなに嫌われていたのか、と流石にショックを受けたのを覚えている。けどその後すぐ白くて柔らかいブランケットを持ってきてくれたからまあ悪い奴では無いんだろう。

    ……拒絶されたら目の前で美味しそうに食べて帰ってやろう。食堂から食料を拝借して七海の部屋に戻って鍵を開けて、廊下にある小さなコンロで米を煮ながらネギを刻んだ。卵を溶かしいれて、七海の調味料を勝手に使って味付けをした。寮暮らしの男子高専生の台所に1L醤油があることに少しびっくりしたけど、それが半分以上減っていることにさらにびっくりした。七海って結構自炊するんだ。一口味見をしたけど、うん、まあ……こんなもんだろう。七海が食べれそうなら深い皿に盛って梅干しを乗せよう。でもホント七海って私の手料理なんか食べるのかな……。

    コンコンとノックして部屋に入ると籠もった空気の中でベッドに横たわる七海がいた。窓を開けてみると意外と風が強くて髪がバサバサになってしまった。……まあ部屋の空気は入れ替わったと思う。もう閉めよう。

    「お粥食べれそう?」
    「……貴女が、作ったのですか……?私の為に……?」
    「そうだけど……。……いらなかったら私食べるから」
    「食べます、すぐに」

    ガバッと勢いよく起き上がった七海はそのまま前にぐらりと倒れそうになるから慌てて正面にすべりこむようにして抱きかかえて支えた。うわあなんて熱い身体なんだ。今何度くらいあるんだろう。これ本当にただの風邪か?インフルエンザとかじゃないのかな。

    「ッやめ、やめてください……!」
    「七海が倒れそうになったから支えただけなのに随分な物言いだね……」
    「……ッすみません……」

    あれ、随分としおらしい。真っ赤な顔で少し眉を下げた七海は不機嫌全開な普段と様子が全く違う。風邪パワー恐るべし。

    「座れそう?」
    「ッ……はい……、も、大丈夫ですから…!」
    「焦らなくていいから、落ち着いて」
    「……ッそこで、喋らないでください……ッ」
    「は?」
    「ぅ…ッ」

    確かに抱きかかえる私の口と七海の耳がかなり近いから煩くないようにまるで囁くような小さい声で喋ってるのになんで怒られなきゃならないんだ。頑なに目を合わせようとしない七海を壁に凭れさせて、倒れないことを確認してからお粥を用意しに行った。こんな状態で本当に食べて大丈夫なのかな。まあでも本人が食べると言うなら……。……お粥を作る前に体温を測ってもらうべきだったのかも……。

    あんなにフラフラしてるのにさっきよくドアを開けられたな……。もしかしてこの短時間でさらに悪化したのかな。本格的に大丈夫なのかな……。硝子はいわば外科医に近いからこういう内科の分野は守備範囲外だろう。今以上にひどくなる前に夜蛾先生にでも頼んで病院に連れて行ってもらった方が……。

    お粥を盛って戻ると七海が目元を抑えて俯いていた。何してるんだろう。

    「……食べれそう?」
    「食べます」

    受け取ろうと伸ばした手が微かに震えているので思わず溜息を吐いた。七海が座るベッドに腰掛けて、スプーンで掬って口元へ運ぶ。スプーンと私を交互に見るだけで口を開けようとしない。

    「口開けて」
    「ど、どうして……」
    「どうしてって……お粥食べないの?」
    「自分で……」
    「多分だけど今七海の握力3くらいだよ。なんか震えてるし」
    「私のこと嫌いではないのですか……」
    「病人相手に好きも嫌いも無いでしょ……」
    「……」
    「……。はぁ──……わかった。五条か硝子、どっちがいい?呼んでくる」
    「!いえ、貴女が良いです……」
    「……………」

    観念したようにぱくりと食べる七海を見て、妙な感動に襲われる。これは……そうだ、まるで全然懐かなかった野良猫の餌付けに成功したような気分だ。むぐむぐと咀嚼して、ごくりと飲み込む。そしてまた口を開けて、……。七海って結構睫毛長いんだ。スッと通った鼻筋、白い肌と透けるような金色の髪、少し伏せられた金色の瞳。深い彫り。正直羨ましい。

    「……男で良かったね」
    「え……?」
    「七海が女なら五条が逃さなかったと思うよ。五条こういう顔好きだし」
    「"こういう"…?」
    「素材が良い系の美人」
    「………………」
    「彫りの深さとか人中とか、化粧で誤魔化しきれないところも完璧な女が好きなんだよアイツ」
    「……貴女はどういう男が好きなんですか」
    「え?」

    なんでそんなこと七海に言わなきゃならないんだろう、と思わなくもないけれど七海と雑談なんて年単位で久しぶりだし内容はともかくこの機会を無下にするのは気が引ける。もしかしたら七海も同じ思いで興味がないのに聞いているのかもしれないし。

    「私のことを好きな男が好きかな」
    「!!それなら、私「だから七海がどんだけしおらしくなっても食指が動くことはないから安心して」…………」
    「さっき何か言いかけた?」
    「……。……一口の量……もう少し……増やしてください」
    「ん」
    「……私は、優しい人が好きです……」
    「へー」
    「……」
    「七海っぽい」
    「……」

    五条は『美乳』、夏油は『美脚』、硝子は『(自分の酒と煙草に)うるさくない男』って答えてたっけ。巨乳じゃなくて美乳を選ぶところに絶妙な慣れを感じて気持ち悪かったのを覚えている。まあきっと三人とも本気で答えちゃいないんだろうけど、それらに比べたら随分ピュアというか誠実というか。七海がしそうな答えだ。
    ……いや、わざわざ看病に来てやってるこの優しさを前にほぼ普段通りの嫌いオーラを出しながら接してる癖に何が『優しい人が好き』だ。なんか段々腹が立ってきた。

    「私のこの優しさを受けて普段通りな癖に優しい人が好きとか片腹痛いわ」
    「……ハァ────────」
    「好きになれとは言わんけどさ、私にももうちょっと愛想というか態度良くしてくれたって良いんじゃないの」
    「貴女って本当に馬鹿ですよね」
    「喧嘩売ってんの?急に流暢に喋りやがって」
    「少し……」
    「いいよ少しだけ買ってやる、お粥に七味を沢山混ぜとくから残り食べるとき覚悟しておけ」
    「!!まだあるのですか……!?」
    「二食分くらいあると思う。……嫌なら持って帰るけど」
    「いえ……とてもありがたいです」
    「……そう」

    やっぱり調子狂う。眉間に皺を寄せてない七海にお礼言われるなんて変な感じ。こんなこと今まであったっけ?思い出せない。
    七海が無言で食べ終わったので、コップを口元に運ぶと七海は私の手ごと掴んでコップを傾けてこくこくと水を飲んだ。熱い手。熱はどうなったのかな。食後だと体温は高いのかな……駄目だ知識がなさすぎる。寝転ばせて布団を被せて、少し窓を開けた。食器を洗ってもどると虚ろな目で天井を見つめる七海がいて少し怖い。

    「いるものある?」
    「何も……」
    「じゃあ私帰るけど……一応鍵持っていくから何かあったら電話して」
    「来てくれるのですか……?」
    「呼ばれたら来るしか無いでしょうよ」
    「……やっぱり貴女は……とてもやさしい……」

    言い終わる頃にはもう七海は眠っていた。





    結局その後呼び出されることは一度も無くて、二日後スッキリした様子の七海に声を掛けられた。いつもの仏頂面に深い眉間の皺を誂えて紙袋を渡された。私が好きなケーキ屋さんのロゴが大きく印刷されたそれにパッと顔色が明るくなったのが自分でもわかった。ちょっと恥ずかしい。

    「……。……色々ありがとうございました。助かりました」
    「あー、鍵返すね」
    「……」
    「……」
    「……何かあったら呼んでください」
    「えー……まあ、うん……」
    「……」
    「……」
    「……フ─────…。……失礼します」
    「ん」
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    😍💕💕💒☺💲⛎🎋ℹℹℹℹℹ‼♥🇱🇴🇻🇪⛲🇱🇻🇪🇴⛲👍👍☺☺👍👍☺☺💴🍼💙👏👏💖☺💘💕👏💕💕💘💖💖💖😭😭😭😭😭😭😭☺🙏💒
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    Arasawa

    DOODLE「口移ししないと出られない部屋」に五条と七海と夢主の3人が入っちゃった話。
    五夢かつ七夢です。なんでも許せる方向け。

    青と辛酸、イベント開催ありがとうございました!🥰
    口移ししないと出られない部屋さっきまで確かに高専の待機室でソファに座ってのんびりくつろいでいたはずなのに、まばたきをした瞬間なぜか真っ白な部屋に五条と七海と私の三人で集合していた。明らかにおかしい。袖のボタンを外してクルクルと捲り臨戦態勢を取った。五条は真っ黒な帯のような目隠しをつけていて、七海はいつものスーツ姿だから各々仕事中だったんだと思う。意味がわからなくて動揺する私を余所に、同期である五条と一歳下の七海は「あーはいはい、そういうことね」とか「何故五条さんまで……」とか各々状況を理解しているらしい。
    少し遅れてキョロキョロと部屋を見渡すと、でかでかと『口移ししないと出られない部屋』と書かれていた。確かに部屋の真ん中には見慣れたミネラルウォーターのペットボトルが数本置かれている。なにがどう「あーはいはいそういうこと」なのか教えてほしい。出来れば五条と七海で事を済ませてほしい。こちとら男性と唇をくっつけたことすらないのだ。口移しだとわかっていてもなるべくこんなことはしたくない。いつか現れる好きな人との本番のために。
    8000

    recommended works