あとしまつ編③ 指定された場所には覚えがあった。そこは横浜流氓御用達の診療所である。なるほど、医療リソースが増えることはお互いにとってありがたい。医療と看護への適性がある人間は慢性的に不足している。それに、コミジュルの医療スタッフが優秀であることは良く知っていた。
適当に空いているスペースに車を横付けして、建物内に入った。そこは一般住民———とはいっても地元の中国系の住民が殆どだ———も利用する診療所だ。子どもの頃から顔なじみのスタッフと目が合うとすぐにすっ飛んできた。
「久しぶり~元気してた?」
「天佑様、お待ちしておりました。すぐにご案内いたします」
天佑様かぁ……と言葉を噛みしめる。久しぶりの肩書の無い呼ばれ方が心地よい。こういった些細なことで、開放感を得られるのは不思議なことだった。
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