春の星を見る会 前編 薄暗く無機質な通路に固い足音が響く。コツ、コツと強くしっかりとした足音が扉の前でぴたりと止まった。続いてバタバタと不規則で慌ただしい気配がそれを追いかける。青いスクラブに白衣を引っかけた青年はひぃ、はぁと空気を絶え絶えに吐き出してから顔を上げた。彼の目には、病室のネームプレートに穏やかな眼差しを向ける、平素とは異なるコミジュル総帥の姿があった。
すぅ、と息を整えてから、青年は身なりを整えて姿勢を正した。慌てて起きたのか髪はぴょこぴょこと跳ねている。
「ソンヒ、今日はもう遅いのでできればご遠慮いただきたく……」
慌てて後を追いかけてきた青年は、コミジュル医療班の当直である。そして、この病室には特別な患者が隔離されていた。収容当初に比べればかなり落ち着きを取り戻したのだが、何かあったときに医療班の手には余るため拘束していた。そんな危険極まりない患者の病室の前で、彼の指揮系統の最も高い位置にいるソンヒが武装もせずに仁王立ちしているのだ。万が一何かあれば、自分の命も無い。
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