触れる、見つめる────────
リビングのソファで読書に耽っていた。
次のページへとめくったはずの手が、同じページで止まる。正確には私の手にそっと、茨の指先が触れたから進むのを止めた。
隣に座ってお互いがお互いの時間を過ごしていたのだけど、いつの間にか茨にじっと見つめられていたらしい私は、顔をそちらに向ければ正面から目が合う。
「あ、えっと」
そこでハッとした茨が何か言い訳を探す。いつもならすぐ何でもかんでも饒舌に話せているのに。
今のは完全なる無意識だったようで、あの茨が取り繕うことも出来ていない。茨自身も何故そうしたのか分からないといった様子で私から目を逸らしてしまう。
手を離されたがすぐに掴み、逃がさないようにするりと指を絡めた。親指で指の付け根を撫でたり、やわく何度も握る。さっきの行動も相まっていっそう恥ずかしいのか、茨はこちらを見ようとしない。照れちゃって、かわいいね。見える頬や耳は赤らんでいる。つい口元が綻ぶ。
…そこで興が乗ってしまった。
少し手を引いて、甲に触れるだけの口付けを落とす。するとぴくりと肩を震わせる、その反応を盗み見た。かわいい。
まだこちらを見ないから、ちゅ、ちゅと音を立てて、私より薄くて白くて普段より熱を持ち始めた手に、口付け続けていく。
居た堪れず全身ふるふると震え出した茨が、「何なんですか、もう!」とやっと私を見てくれた。
羞恥で揺れる青い瞳が、いつもより美しい。耐えきれなくて赤く染めた頬が、とても美味しそう。…でも、力を込めて握っているわけじゃないから、嫌なら離せばいいのにそうしない。むしろ指を少し曲げて握り返そうとしていたくせに、ううん、きっとこれも無自覚なんだろうな。
「…かわいい。あんなにじっと見つめてくれてたのは嬉しいけど、声を掛けてほしかったな。…寂しくなっちゃったんだね」
「──はぁっ!?うぶっ」
抵抗される前に思い切り引き寄せ、茨を胸に沈め抱き締める。それ以上何も言わずにいると、観念して私に体重を預けてくる。握ったままの手を強く握り返された。
「気付いてほしかったわけじゃ、ありませんし」
後頭部しか見えない私のかわいくて愛しいこの子は。
あれ程な熱視線を送っておきながら、今更そんなことを言うものだから。それならばと。
「…嘘は駄目だよ、茨。顔を上げて」
先程の茨と同じくらいの熱量で、いや、私はそれ以上で。
時間を掛けて見上げられた少し潤む青色を、至近距離で捉えて離さなかった。
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