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「……触れるのもだめ、愛を伝えるのもだめ、仕事以外で隣に並ぶのも座るのもだめ」
「──はい」
「…ここまでだめとばかり言われると、むしろしたくなるのだけど」
子供か。まあ、あれもこれもだめと禁じれば、抑圧された欲望を満たそうとその行為をしたくなるのは人間の心理。
今までされてきたそれらを、行動に起こされそうにするたび「だめです」「やめてください」と拒否してきたのだが、遂に我慢の限界を迎えさせてしまったのか、仕事終わりにESビル内の無人の会議室に押し込まれたというわけで。
でも、このやり取りが自分ではなくて、殿下にだけ向いていれば良かった。そうしたら、何も口出ししなかったんです。
「…茨が嫌がることはしたくないけど、でも私も諦めたくはない」
本当に懲りない人だ。自分があれだけ拒絶して、こんなに心も体も近付くことを禁じたというのに。
そこまでされたら「脈無し、諦める他ない」と興味関心失せるものだといつだかくだらないテレビ番組を観ていて知ったのに。
むしろ逆効果であるから、この作戦は失敗だった。
「…それならせめて、茨のことを大切に思うことだけはさせて…、………」
伸ばされた手が、触れる寸前で引かれた。
触れられると少し身構えてしまった自分を見て、閣下は表情を顰めた。
そこで、自分が無意識に嫌悪を露わにしていたことに気付いた。
ああ、下僕風情がなんて失礼を。
そう思ってももう遅い。
閣下は哀しみに曇り、俯いてしまった。
「……大切にもさせてくれないの?」
…だからそれが嫌なんだよ。
大切にって、何を。
自分なんかにそんなことを思わないでほしい。
その関心を他に向けていいんですよ?
それに愛だの恋だの、人生において何の益があるんだろうか。生憎それらと無縁でやってきたから何も知らない、いや、知りたくない。
…頼むから、あなたのぬくもりをこれ以上『俺』に教えないでくれ。
───受け止め方が分からないなら、返し方だって分からないんだから。
溢れるばかりのものを与えられても、あなたに返せるものは、何もない。
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