初めてのココイヌ（仮）二人きりの秘密の場所、「アジト」と呼んだ廃墟。
たくさんの人が入れ替わり立ち代り訪れて、誰もが彼に尊敬の念を抱いた。
憧れた男が笑って立っていたその場所も今はヒビ割れて乾いた灰色のコンクリートがあるだけ。
雑然とした必要の無くなった物たちとホコリっぽい匂いに囲まれた小さな二人だけの世界。
傷だらけの体で転がりこんだ日も、追われて手を取り合って走って逃げ込んだ日も、下らない言い合いをして顔を見たくないと思った日もいつでも二人はこの場所に居た。
誰にも教えない、二人だけの秘密基地だった。
そこで交した他愛ない言葉たちも、過ごした時間も誰も知らない二人だけの。

「んっ…」

「イヌピー、口開けて」

触れ合う唇と上がる息。

マブって何？SNSで、めちゃくちゃイケメンがいるバイク屋がある！と流れてきて、ノリでお店の前まで来てしまった。
外からガラス張りの店内を覗いてみると、金髪に綺麗な目鼻立ちのイケメンが居た。SNSではイヌピーくんと呼ばれている。

店に入って、バイクを見ているふりをしながら、レジにいるイヌピーくんをチラチラ見ていると、
「イヌピー、遅くなってごめん」
扉が開いて入ってきたのは、黒髪に涼しげな目元の、これまた種類は違えどイケメン。柄物のシャツをおしゃれに着こなしている…誰？
「ココ！」
気難しい顔をしてレジに立っていたイヌピーくんの表情が一気に緩む。

ココという名前で思い出した。ネットの情報によると、たまに来てお店のお金関係の手伝いをしている、本業はヤリ手の経営者だ。