踊れ、野郎ども(補佐出陣同行の話)相模国第七本丸、通称ヴァルハラ。政府と軍部のテストケース本丸であるここは、通常の本丸と異なる部分が多々ある。戦術補佐の存在が最もな例だ。
高篠霧乃中尉。特務科第一中隊銃火力班長にして二つ名(ネームド)は魔弾の射手(デ・ア・フライシュッツ)。審神者である一宮鈴花中尉と十年来の親友であり腐れ縁。軍部側が問題提起した、審神者一人で本丸の運営及び戦闘指揮を担うのは如何なものかというものに、運営の審神者と戦闘の戦術補佐二つに分けてみたケースを想定し、抜擢された人物である。
彼女が戦術補佐として任命されたのは、審神者と旧知の仲というだけでなく、その魂の質もだった。魂の双子(ソウルメイト)という言葉があるが、まさに鈴花と霧乃は驚くほど魂の質が似通っていた。魂の質、波長が似ていた際、審神者以外の人間の指示を刀剣男士は聞くのか?そんな実験も兼ねていた。
さて、その結果はというとだ──
『こちら魔弾の射手(デ・ア・フライシュッツ)、脳内無線の感度をテストする。第二部隊長、陸奥守吉行』
『応ぜよ、こちら陸奥守吉行。感度問題なしじゃあ』
軍部が使用している脳内無線の術式は、補佐が出陣する場合のみ補佐と部隊長のみが使用可能となっている。今回は陸奥守が隊長だ。出陣先は明治、東京。明治維新がなされ、江戸が東京として近代西洋化の街並みに変貌していくこの時代に時間遡行軍出現の通達が本丸に入る。目的は明治政府要人暗殺、これを機に東京を混乱に落とし込み、成り立ち始めの明治政府を崩すのが目的だろう。少なくとも日本の近代化は大幅に遅れるのは間違いない。
『大将首がこの辺りにいるのは間違いない。こんのすけからの索敵で上がった位置の敵を片っ端から潰していけ。建築途中の建物が多いということは死角が多い。不意打ちには気をつけること。あたしは気になることがあるから独自で別行動する。無線はいつでも受け付ける』
『了解じゃあ』
ぶつっと無線が切れる。家屋群の屋根の上に立ち、霧乃は辺りを見回す。既に夜半、ガス灯の明かりがあるが、それでもまだまだ暗い。視覚強化の術式で陸奥守たちが居る方を見ると、早速敵と交戦している。今回は前田、南泉、厚、鯰尾、大倶利伽羅。夜戦メインの出陣故の刃選だ。こんのすけの索敵結果と照らし合わせ、まだあと数部隊が潜んでいるが、追々潰し終えるだろう。
「さてと、じゃあこっちはこっちでやることしないと」