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    関東礼

    @live_in_ps

    ジュナカル、ジュオカル、ジュナジュオカル三人婚
    成人済

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    関東礼

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    12月18日発行予定のジュオカルカル新刊冒頭です

    神様、はじめての夏休み 故障していない電話がそこにあるのは、砂漠でオアシスを見つけるより幸運だった。モリアーティが背中を向け、スパイラルコードをいじりながらそわそわと僅かに歩を進める。青で統一されたカウンターで、胸当て付きのエプロンを着たカルナが沸騰した湯でグラスを濯ぐ。アルジュナオルタの咽頭をウイスキーが過ぎる。心臓の代わりに氷を抱いたきついアルコールは、汚すように刹那彼の粘膜を焼き、真っ逆さまに腹へと溜まる。酔いは回らない。彼は味覚が夢みたいに淡い。天井近くの棚に据え付けられたテレビでは、モルディブのリゾートの映像が流れている。白い砂浜、光と影を列挙する青い海、島を横断する二百メートルのプール、三角屋根の連なるホテル、浜辺に一粒置かれた透明な、泡を模したベッドルーム。楽園のイメージはなみなみと高い気温の中を溢れんばかりに高まって、アルジュナの思う故郷の雨季を隠した。胸に注がれた土砂降りの雨はカルナがグラスをくぐらせる冷水と重なり、白い指の印象を濡らす。ボウルへ積まれた葡萄を一粒口に含めば、舌が熱烈に果汁を歓迎した。貧しい言い方をすると、アルジュナはまだ赤ん坊で、カルナは彼の食べかけのおもちゃであり親だ。恋人でもある。年末恒例となった閻魔亭での休暇をキャンセルし、常夏の南の島へ赴く。その誘いをした。
    「キミはサンタの霊基とふたり分働いているから、二基分のリソースを割かれて休むべきだ」
    とモリアーティは言い、マスターに予定変更の電話をかけた。もしもし。返事を待つ間、オルタに芽生えていたほのかな期待は決然とした意思になる。ユーモアのセンスが兆したのかもしれない。南の島へ行きたいだなんて。レモン汁でグラスの曇りを拭ったカルナがカウンターの内側を移動してアルジュナの目の前へ辿り着き、
    「正気であの島へ行くのか?」
     小声でようやく言った。温かな指がほのぼのと血の色を獲得する。
    「ええ。閻魔亭は素敵な場所ですが、毎年漠然と行くのでは女将も却ってもてなしの仕方を迷うでしょう。ラスベガスは良かったなとふと思い出したんです。モルディブはたったいまの思いつきですが。けれど、お前に会いに寄ったバーでたまたまリゾートのコマーシャルが流れていたのも運命です。幸いあそこが西暦何年でも私達は行けるのですし」
     通話の切れる音がした。マスターからの返事がまだこないうちに、カルナとの無言の会話へどこまでも命が入力されていく。目と目を合わせたとき、あるいは黙ってナイーブな箇所、指の間や膝の裏へ触れたとき、アルジュナの魂はこんこんと湧き出る泉となり敏感な水面を彼の心へと流そうとする。彼と気持ちを通じ合わせてより、愛情は傾度の依存症に罹患して油断も隙もなくふたりきりの世界に浸ろうとするようになった。彼がサンタの霊基を獲得し、カルデアのシステムにより槍と剣と同時に存在してさえ、アルジュナは彼と彼の姿を透かし合わせふたりの、三人の宿痾へと身を投げ込もうとする。見つめられたカルナがアルジュナ以外へは気付かれない程度に眉を下げ、視線を下に向ける。ウイスキーの酒気は熱く腹腔を上って涙腺を刺激し、遙か空を目指すようにカルナを呼ぶ響きと変わった。
    「待て」
     彼が言う。
    「こういうとき、マスターの判断ははやい。モリアーティもいる。落ち着けアルジュナ」
    「はい」
     笑みが漏れ出る。ボトルの並びを抜け出た照明がガラス面に浮かぶ光を含んで彼にとびきりの陰影をつける。茶褐色のエプロン生地が黒っぽく染まり、カルナの焦燥を捧げ持つ。蓄音機は止まったままだ。モリアーティがたっぷり息を吸ってアルジュナに向き合い手をつく。
    「おめでとう。ヴァカンスは勝ち得たよ」
     ウインクした。カルナにロッカーへ向かうよう促す。
    「いまから行きなよ、だって。これから年始にかけて魔力リソースをどうやりくりするか試算したら善は急げだそうだ。二時間後にモルディブのリゾートに送るから荷物を準備すると良いってさ。サンタのカルナくんはちょうどでていたところみたいで直行するそうだ。現地でナンパしろということだネ」
    「感謝します」
    「キミにそんなこと言われるだなんて畏れ多いな。まぁ、いいさ。恋人達なんて私達は、の一人称を共有する一対の天使のようなものだ。アルジュナオルタ君が望んだのならカルナ君だって満更でもないだろうからね。楽しんでくるが吉だよ」
     バーを出た廊下にはやくも新年の飾りがつけられている。マスターや日本出身のサーヴァントが毎年用意するのを他国のスタッフが調べて真似をし始めたのだ。自国で旧暦の正月を祝っていたサーヴァントもマスターに合わせて飾りだけは一月一日に合わせる。門松、桃の花、真っ赤な提灯、舞いに用いる獅子や龍の被り物がプレイルームにはみ出して、幼い姿のサーヴァントの目を引いている。カルナが自室へ戻りサンタ霊基用のものとふたり分の衣類を用意し、アルジュナの部屋を訪ねた。一度目のノックに浮き上がって鍵を外し、二度目のノックを待てず扉を引いた。
    「用意はできたのか? あと十五分だ」
    「服装に迷ってしまって。以前お前に見せた水着は嫌です。現地で買いましょうか」
    「滞在するリゾートは別の島だが、サンタのオレと待ち合わせているのは首都の中だ。ショッピングモールがあるそうだから心配しなくていい。第一オレが荷物に入れたのはラスベガスのときの水着だしな」
    「お前はいつも新鮮で、なんでも似合うからいいんです。それに、ふたりの水着は私が用意します。リゾートは貸し切りなんですよ。どんな格好をしていても許される。どんなにあべこべでいやらしくてもね。私は良い男だと思われたいんですよ。恋人をふたりにして両方を独り占めできる休暇です。ハングリーに行きたいじゃないですか」
     鞄に詰めた荷物はほんのベースだけの雰囲気だ。扉に隠れカルナとの会話を楽しもうか少し迷い、十五分を掻き抱くことにする。彼を完全に引き込んでチェーンをかけ、片手でパネルを操作した。ぱ、ぱ、と二度点滅し、オレンジ色の照明が灯る。背後の部屋の明かりも同時に室内へと伸びていき、彼の色彩が発光した。真っ白なカルナはアルジュナの腕に抱かれながら彼の存在を凌駕する風に明瞭になる。顔を近づけると薄い唇が小さく開いて、重要な図面のように舌が視界に飛び込む。それを読もうとした。食べたくない、と脱力する赤い肉はアルジュナの呼気に残るアルコールを感じ取っていたが、飲みたくない、とは話していなかった。口づけは重なったが最後眠っていた情動を起震し、何度も何度も繰り返し味わった唾液へと欲をデビューさせる。息を止めるとカルナ一人の呼吸がアルジュナの歯を撫でていき、重要な遺伝子を目覚めさせる。エンジンをかけるのだ。彼の隅々を味覚と触覚と聴覚とすべての感覚で細分化しながら、躊躇いがちに迎え入れる態度をとった舌をなぞる。キスに関する最も古い文献はサンスクリット語で書かれている。吸い取ろうとする。わめくように舌と舌を絡ませる。声がしゃがれるまで粘膜を舐め尽くして、触れ合う唇の感触に侵略と受容の感覚を想起する。かかったエンジンは血流へアルジュナの意思を見出してそっとカルナの手首を握り、腰に回した腕に力を漲らせる。前のめりになりぐりぐりと股間を押しつけ、ぶつかり合う腹の硬さにしなやかさを見る。菫畑や白詰草の畑といったしっとりしたかわいい目的地がカルナの臍の奥にあって、彼もそのアルジュナの居場所を認知している。そこを知っていれば大丈夫。アルジュナがどこへ辿り着きたいか理解している限り無事でいられるという安心が彼には根付いてしまっている。異父弟であり宿敵でもあるアルジュナを深く咥え込んでしとどに濡れそぼる自由。気まぐれでなく我が身を差し出して得たイニシアチブがはしたない甘えへと変わっている。長い尾が二人の腰をいっしょくたに抱えて揺さぶり、赤子を寝かしつけるごとく緩やかな快感を手足に纏わせる。
    「世界一長いキスは五十八時間三十五分らしいですよ」「らしいな。二日間以上飲まず食わずでキスしたそうだ」
    「私達はそれを達成した夫婦より簡単にもっと長時間続けられる用意がある。休暇は一週間です。試してみますか? 三人でのキスの仕方を研究してもいい」
     カルナがアルジュナの首へ腕を回した。胸が密着する。くっついた腹の間で彼のペニスが窮屈そうにしている。
    「完璧主義者のお前がそれでいいのか?」
     アルジュナが目を丸くして彼の顔を見つめる。
    「お前はいつまでたってもオレは性的な欲求が薄いだとか性の喜びに無知だと思っているようだがな、眠りに落ちる前、お前に抱かれた感触を思い出して身を火照らせる夜もあるよ。あれはいかにも受難という感じがする。ある意味でお前との宿痾よりも救いようのない業だ。サンタのオレもこのオレも好ましいと思っている愛撫は違う。満足させてくれないか? 優等生のアルジュナよ」
     時間が迫っていた。彼が彼の尾の付け根に触れ、それで冷たい手をしているとわかった。床で服を畳みつつ準備をしていたらしい。驚きのあまり震えた尾をカルナがすり抜け扉の外に立つ。
    「遅れるぞ」
     浮いている筈が足が縺れた。追いかけて隣を行く。
    「私は完璧主義者ではない」
     混乱による集中は夢遊病に似る。
    「より恥知らずで、成果主義だ。私がいない間、お前が絶えず嫉妬してしまうほどの愛と快楽でめちゃくちゃにしてやるので、待っていなさい」
    「楽しみにしている」
     桃の花の花弁が二人の間を流れ、彼の振り向く顔に煽られてアルジュナの眉へ飛ぶ。
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