[9/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 交差する形で横たわる大鎌、二挺。それでも屋敷は平然と静まり返っており、部外者が侵入した様子は見られない。
帽子屋屋敷の門番二人は浅い息を繰り返し、血の止まらない切り傷を押さえながら必死に訴えた。
「~~、あいつ、馬鹿だから、」
「そうだよ、馬鹿だから」
「間違えたから帰るよ! って言ったその足で、正面から入ろうとしたんだ」
「それで門番らしくしっかりと働いた……結果がこれ、と」
屋敷のメイド達の隣でアリスもまた、ディーとダムの応急処置のフォローに回っていた。渦中の迷子騎士は、既に影も形もない。
ガーゼと包帯、絆創膏を、アリスは代わる代わる救急箱から取り出す。最初こそ強がって抵抗していた双子達も、少女に心配されることが嬉しくなってきたのか、こっちも痛いあっちも痛いと口々に騒ぎ始めた。傷口はどの箇所も浅く、剣の主が本気を出していないことはアリスの目にも明らかだ。
「……あの人って、騎士だから剣が強いの? 強いから騎士なの?」
「知らないよそんなの」
「興味ないない」
二人は唇を尖らせて、アリスに手当ての続きをせがむ。
ふとアリスの脳裏によぎったのは、獲物をいたぶる猫の挿し絵。
あの男はどうにも力を持て余している。そう考えずにはいられなかった。