[26/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス「忘れられることよりも、忘れることの方が私は許せないタイプだろうって、前に言ってたわよね」
会話が途切れることに不安を覚えて、アリスは懸命に言葉を探す。話が終わった瞬間に、この場所から追い出されてしまう気がして怖かった。
「あなたもそうなんでしょう? だからあなたは、以前の『アリス』を忘れないように、気をつけながら私に接してた」
以前の「アリス」はこうだったと、文句を言いつつも、今思えば彼は単なる事実を述べていただけに過ぎない。だから君もこうしてくれ、などとアリスに強要するようなことはしなかった。
以前の話を聞いて何を感じ、どう動くのかは、アリスに全て委ねられていた。
「私を含むこれからの『アリス』との関わり方について、迷っているの?」
エースはもう、笑い飛ばしたりはしなかった。彼女のそういう賢いところを、全てを把握していない中で的を射る妙な勘の良さを、好ましいと思っていたから。
天を仰いで、彼はアリスに向き直る。
「……例えば君に、以前の君を重ねたら。同じ顔は代用品になるんだって、認めることになるだろ?」
代わりのきく存在になりたい。特別な存在を持ちたくない。それでいて、「その人」は代わりのきく存在だと、思うことも出来ない。この全ての意志が同時に乱立してしまう、難儀な男は。
「そんなの、俺自身が許さない。許しちゃいけない」
笑っているのに、泣いているような声で絞り出した。