[28/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス「記憶喪失になった私のこと、毎回怒ってくれていい。酷いよって罵ってくれたっていい」
そう言って、アリスは少し笑った。そんなことわざわざ許可しなくとも、エースは笑顔で不機嫌を振りまくのだろう。最初の頃を振り返り、アリスは頭一つ分以上高い位置にある彼の顔を見上げる。
「出逢いを繰り返して、『はじめまして』の度に私と友達になったり深い仲になったり。それぞれとの関係性を作ってくれたら……あなたにとって色んな、『唯一の私』がたくさん増えると思うの。そういうのは、どう?」
以前のアリスと今のアリスだけでなく、未来の、ひいてはこれから世界に馴染んで他の軸にも増えるであろうアリスとも全部、出逢って。好みのアリスだったり、そうじゃないアリスだったりと知り合って、比べて、重ねて。それを繰り返して。
「それで……私もいつか、死ぬことが確定した存在になって、最後の一人の『アリス』になったら。その時に改めて、『アリス』とどんな距離感で付き合っていこうか決めてくれたら、いいんじゃないかしらって」
思うのだけれど、と。言葉の終わりを無闇に続けてしまうアリスに、自信の無さを垣間見る。名案には程遠い、妙案でしかない自覚があるのだろう。
吹き出したエースの瞳が、緩やかな弧を描く。
「君に逢うために生き続けろって、言われてるみたいだ」
彼のその、否定以外の言葉に安堵すると同時。アリスは己の耳がカッと熱を持つのを感じた。