[29/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス どちらからともなく、互いに喉を震わせて笑う。周囲の色彩も、つられて軽やかにゆらめく。
「さすがに全部の君を覚えていられる自信、ないぜ?」
「そんなの構わないわよ。忘れたかったら忘れて、覚えていたかったら思い出して」
「君が役持ちになって記憶を保持出来るようになったら、それまでの『アリス』達との思い出を一度情報共有しようか」
「……何を言われるのか、既にちょっとした恐怖が……」
自身の両肩を抱いて身震いしたアリスは、この穏やかな時間を少しでも引き延ばしたいと切望して、笑い声を転がした。終わって欲しくない。忘れたくない。それなのに無情にも、景色は明滅を始める。
「まずは私が他の皆みたいに、あらゆる国に同時に存在出来るようになるまで。……私も『覚えていられる』側になれる、その時まで」
アリスは歩み寄り、おずおずと拳を開いた。はらり、水色のリボンの両端が垂れる。
「しばらく、待っていてちょうだい」
エースの小指の根本に結び、アリスはひとつ、託した。捨てられなくて、降り積もって、忘れがたい感情ごと、今度は彼に判断を委ねる。
「先の長い話だなあ、ほんと」
ゆるやかに羽を休める蝶結びを見下ろし、エースはいつも通り、からからと笑った。