[24/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 催しが終わった以上、次にまた引っ越しが起こるまで当分大きなイベントは無いと住人は言っていた。それは即ち、いつまた引っ越しが発生してもおかしくない状態になったということだ。
出逢って、巡って、離れて、また巡って。それをずっと、果てなく繰り返すのがルール。
故にアリスは、何か予感めいたものを察知していた。
元の世界とも、この世界とも異なる、狭間の世界。夢魔と話す時に現れる、色彩豊かなゆらめきの空間。
いつの間にか佇んでいたこの場所は、帰路でも岐路でもあるような気がしてならなかった。身体の記憶というやつなのだろう。分岐点に立っているような、選択を迫られるような。強い圧迫感を覚えたアリスは、会いに行こうと思っていた人物――紅い外套の騎士が、誂えたかのようなタイミングで目の前に立っていることにより、自身の予感を後押しされる。
「もしかして私、また記憶喪失になってしまうの?」
この世界に残ることは、既に過去の自分が選んだ結果だ。今こうして狭間の景色を見ているのは、ひょっとして引っ越しの予兆なのではないかと落ち着かなくなる。
適切な回答を探して、エースは確かなことだけを口にした。
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
そうだ、彼はそういう人だと、アリスの眉が下がる。彼は嘘でも、「そんなのは勘違いだよ」と言ってくれない。
「私……あなたのこと、忘れたくないのに」
アリスは胸を、まだ確かに鼓動を打っている心の臓を、押さえて声を絞り出した。