[25/30] 30話後、次元を超えるエースとアリス 忘れたくない。今の彼女にとって、重みのある言葉だ。それを受け取ってまず、はははとエースは笑った。
「俺との間に、何か特別な出来事があった訳でもないのに?」
異なる滞在地。容易には会えない、特有の悪癖。重なった時間の中でただ、言葉を交わし、飲み食いを共にし、ゲームに興じて、贈ったり贈られたりをした、それだけだ。
確かにそうだと、アリスは探るように指先で顎を撫でる。それでも言葉に出来ない引っかかりを喉奥に感じて、ポケットから例の水色のリボンを取り出した。
「私も同じ。なんとなく、捨てられなかった」
アリスの色だからと、持っていた理由をそう告げたエースの顔が、幾度と無くちらついて。その度に、謎だらけの彼の言動が次々と浮かんで、落ち着かない気持ちにさせられる。
「私まだ、あなたが何を思って遠くを見ていたのかも、どんな想いを募らせているのかも、怖がって欲しいと言った理由も知らない」
サテンのリボンを蛇腹折りにして掌に包む。大きなきっかけも理由もない。なんとなく、そう、なんとなくだ。なんとなく、彼の言葉が、仕草がいつも、気掛かりだった。
「少なくともそれを知りたいと思っているし、もしも知ることが出来たのなら――忘れたく、ない」
単なる好奇心ではないことを、上手く伝えられているだろうか。懸念しながらアリスは強く言い切った。