秘密に酔う「旬はずっとオレと同じだもんね!」
「うん!どんなことも全部一緒だよ!」
それが俺達の口癖だった。そしてあの2重ダンジョンを経てからは、次第に交わされなくなった言葉だった。
珍しく弟の旬と休みの重なった日。テンションの上がった俺達は久しぶりに家で飲もうとチキンをデリバリーした。2人して甘辛ダレのチキンを頬張り同じタイミングでビールを飲む。すこし味の濃い甘辛チキンをほろ苦くもサッパリとしたビールで喉奥に流すことのなんと至福なことか。
自然と旬に向き合い、互いににんまりと満足そうな笑みを浮かべ何度目かになる乾杯をした。
「うまいなぁ、旬」
「あぁ、うまいな。シュン」
元々酒に強くない俺は既に1本空けた辺りで丁度よくふわふわとしてくる。
確か旬も俺と同じくらい弱いはずなので揃ってふわふわとしている筈だが、なぜだか今日は旬の方が早めに酔ったようだった。
「…ふふ、兄さん」
「ん〜?にーさん、って、珍しいな?どーした弟よ」
ふふふと笑い返しながらなかなか聞かない呼び方に少し気を良くする。
「兄さんは、ずっとそのままでいてくれるよな?俺と同じでいてくれるって、言ってたもんな?」
ニコニコと俺を見つめてくる旬の目はどこか怖いくらい真剣な光を放っていたが、ふわふわになっている俺はそれに気が付かない。
「……おれはもう、同じじゃないよ」
いつまでも同じでいたかったけどな。
2重ダンジョンから帰って来た旬は再覚醒をしてS級になった。もう前の様に同じダンジョンで背中を合わせあう事もない。それを寂しいとは思いつつ、躍進を続ける弟に伝えるつもりはなかった。
ただ俺の言葉になにか引っ掛かったのか、一瞬旬が酷く悲しそうに顔を歪める。そして口を付けていた2本目のビールをぐいっと呷ると立ち上がった。
「ん、どうした」
「……なんでもない。ちょっと酔い冷まししてくるな」
「あぁ…うん」
そう言って席を外す旬をボンヤリと眺める。
(あいつ、随分としっかり歩くなぁ。俺なら2本も飲んだら千鳥足になるのに)
いつまでも同じ存在だと思っていた。同じ容姿、同じ体質。同じ運命を辿ると信じて疑っていなかったものがある日突然バラバラになってしまった虚無感をどうして無視できるだろう。
(……前までなら旬が何を考えているかなんてすぐ分かったけど、今は何を思っているのかさえ分からない。俺の事を、どう思っているのかさえ…)
俺はずっと淋しい。片割れが俺を置いていってしまった。他人からも比べられる様になり、違いを指摘され、別個の存在だと決め付けてくる。
置いていかないでほしい、気持ちだけでも側にいてほしい。他人から区別を付けられてもお前だけは。旬だけは俺を……。だって俺達はずっと同じだったじゃないか。そうだろう?
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という…尻切れトンボです。
以下初期プロット。
へべれけに酔ったフリをして甘えるS旬と、はじめの頃はそうと気付かずに騙されていたけど段々とS旬が酔っていないことを悟るE旬。そしてついには諸菱くんとS旬が2人で飲んでいるところに出くわしてしまい本当に酔っていないことを確信してしまう。
けれどもS旬が酔ったフリをして甘えてくると今までどおりに甘えさせてくれるE旬くん。
「お前が酔ったフリをしてまでも俺に甘えたいというのなら、俺はいくらでも甘えさせてあげる。俺の腕の中でこうして寝ている旬をみるのは俺だけの特権だからね」
という展開に持ち込みたかったですね…。