火の粉視界に光が弾ける。
「──っ」
目を見開くと、暗闇の中にちりちりと赤い炎が揺れる。視界の端で火にくべた薪がばち、と爆ぜる音を立てて崩れていった。
霞む焦点を無理矢理合わせると、炎の向こうに座るヒュンケルが、「起きたのか」とこちらを見た。深紺の空には、まだ鈍い白色を溶かした月が浮かんでいる。日が変わった後に見張りを交代してからどれほど経っただろうか。
わずかに早くなった鼓動を、悟られぬよう深く息を吐いて鎮めた。
「夜明けまでしばらくあるぞ。寝ておいたほうがいい」
「……いや、十分、休んだ」
手に滲む汗を握り込んで、水を汲んでくる、と言い置いて焚火を離れる。
疎らに立ち並ぶ木々の中を歩くと、夜の冷気がマントの隙間から忍び込んでくる。足元の草が溜めた夜露がブーツの皮の表面を弾いて滑り落ちていった。
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