猛暑の父子の小話「あっっっついよぉぉぉーーー……」
「暑いな…………」
今日もデルムリン島は快晴。
気持ちの良い青空が頭上に広がっている……まではよかったんだけど。
何故か今日は異様に気温が高すぎて……。
「もうー……なんでこんなに暑いのさ……おかしいよ……」
「異常気象かもしれんな……」
比較的気温の高いデルムリン島に慣れたおれですら、悲鳴をあげるほどの気温。
いつも涼しい顔をしている父さんも、流石にこの暑さはキツイらしく、額にじんわりと汗をかいている。
「父さん……ヒャダルコ使える……?」
「あいにく氷雪呪文は苦手でな」
「父さんにも苦手な呪文あるんだ……」
おれが意外そうな顔をすると、父さんはぷいっと目を逸らす。
「……使えずとも困った事はない」
「今困ってるじゃないか……」
「ぐ……」
珍しく父さんが言葉に詰まるのが可笑しくて、おれはクスッと笑った。
「笑うな……」
「ごめん……!でも、おれもヒャド苦手だから一緒だね!」
やっぱり親子、だからかな。
ちょっとでも似てる所があると、うれしくなっちゃう。
楽しそうに笑ったおれに、父さんは少し呆れた目を向ける。
「そうだな……。おまえのヒャドは、飲み物を冷やすのには調度良いようだからな」
そう言って、テーブルの上に置いたコップへ目を向けた。
「あ……!もう!それバカにしてるだろ……!」
「仕返しだ」
「ーーーっ!」
むう、と頬を膨らませるおれとからかうような目つきの父さん。
目があって、一瞬の間を置いて、二人同時にぷっと吹き出す。
こんなに暑い日が続くのは困るけど、そのおかげで父さんとのお揃いがまた見つかった事にはちょっとだけ感謝した。
笑ったせいで喉が渇いたおれは、コップに入ったお茶を飲む。
おれのヒャドで出来た、握りこぶしほどの大きさだった氷は、もう大分溶けてあと少しでなくなりそうだった。
「ねえ、父さん。もう少ししたらさ、水浴びしに行こうよ」
夕方にはまだ早い時間。
もうちょっとして、オレンジ色の空になってきたら、きっと少しは涼しくなるだろう。
「……そうだな」
父さんが頷くのを合図に、おれは父さんにぎゅっと抱きつく。
「じゃあ……もうちょっと、汗かいても……かまわないよね?」
さっきかいた汗が、少しひいたばかりだけど。
上目遣いで父さんを見上げるおれに、父さんは返事の代わりにキスをした。
どんなに暑い日でも、こうやって汗でベトベトになるんなら、そう悪くはない、かな。
終