他所見は許さない梅雨も終わり本格的な暑さに、晴れ渡る青空は雲一つ無く広がる。現在無陀野学期は各地に別れ実習に来ていた。複数無陀野が上げた地区に希望した生徒を振り分け、現在四季は希望した杉並へと来ていたのだ。
杉並の地下に入り、案内に導かれ皇后崎や矢颪に遊摺部と話しながら歩いていた四季は何処か何時もの調子では無く、体調悪いのを仲間も察するが四季はそれに気づくも心配させぬ様に笑っていた。空元気だと解る様子に、思い当たる彼等は四季がSubであり、常に会える訳では無いから遠距離の恋人のパートナーに会えず、プレイが出来ずに体調を崩して居ることを悟り何も出来ず見ている事しか出来ずに歯痒い思いをしている。四季の他は女子も含め全員Domであるが四季の恋人は上位のDomであり、四季自身上位のSubである事の他に、パートナーがいる者に手を出す者は居ずに、四季の恋人が四季を溺愛し、それはそれは重すぎる感情を抱いている事からプレイしたら殺すと四季の居ない所で集められ宣言された事で彼等は四季を見守っていたのだ。
体調が悪く元気の無い四季が明るく話す事に場が和みなが、歩みを進めると此方に向かう大我が声を掛けて来た。
「おぉ!お前ら来たのかぁ!!」
「おう!大我さん久しぶりっす!」
手を上げ話す四季に、大我も手を上げ話し始める。楽しげに学園の事や訓練の事、友人の事を話す四季は何処か体調が悪そうに大我にも見え声を掛ける。
「……四季ィ?体調わりぃ───」
「四季お前こっち来な〜」
突然後ろから聞こえた声に今迄気配が無かったその存在に周りは驚き声を上げる者もいる。何時も飄々とし内心を悟られぬ様に笑っている紫苑が、珍しく無表情で口角を下げ立っている事に四季は驚きに惚けるも、紫苑に腕を捕まれ歩き出す紫苑に、傾く身体に慌て様に歩みを勧める。紫苑が何時もの飄々とした笑みで、振り向き話しかける。
「此奴連れてくから〜緊急の案件が無ければ部屋から出ねぇから呼ぶなよ」
「そのつもりだァ!!」
「ありがとさん」
四季の手を引き歩いて行く紫苑に、大我は深い溜息を付くと残りの生徒に指揮を出し連れて行くのだった。
紫苑に手を引かれ歩む四季は、無言で歩く紫苑に困惑し慌てた様に話しかける。
「なぁ!どうしたんだよ!」
「聞いてんのか!」
「聞けって紫苑さん!!」
普段なら四季の話に相槌を打ち和やかに話す紫苑だが、四季の手を引き早足に何処かに向かう様子は何処か恐れを感じさせる。散々歩む中で突然部屋の前で止まり、そこは普段使われる事が略無い、四季が来た時に紫苑と寝泊まりし実習が終わると連れられ籠る隊長に与えられる部屋であった。紫苑扉に何か液体をかけ、四季の手を引き中に入る。部屋に入ると四季の顔の隣に手を当て見下げる紫苑に、所謂壁ドンで四季を見下ろす紫苑のサングラスの奥に見える瞳に、全てを見透かされている様で胸に小波が立った。
「お前体しんどいでしょ」
「は!?何言ってんの紫苑さん!」
「何時も寄り声に覇気がねぇ癖に何言ってんの。身体も力入ってないのに」
何時もの茶化す時に使う間延びした口調では無い紫苑に、四季は本気で心配する様子に胸の中に罪悪感と共に温かい物を抱くが、紫苑に見抜かれている事に力を抜いて俯いた。
紫苑が自身の髪をぐしゃりと掻きながら息を吐き呟く。その瞳は何処までも心配の色が広がり、唯四季にも気付かれない微かに獣の様に広がる欲望も抱いていた。
「プレイしてないからだろ」
「………」
紫苑が一つ目を瞑り傍に置いてある椅子迄行くと音を立て勢い良く座り、足を組み告げる。
「お座り(Knee)」
紫苑の鋭い眼光に放たれた言葉に、四季の身体は勢い良く滑り落ちる様に床へと座り、両足を曲げ女の子座りをして驚いた表情で紫苑を見つめる。重く気怠い身体が軽くなる感覚に、自然と頭が冴えて行く。
「……良い子。良くできました〜(GoodBoy)」
「…………ぁ…」
紫苑が組んだ足を解き、足を開き屈む様に膝に腕組み置くと笑みを浮かべる。その笑みはDomに相応しく強者の笑みへと見える事に四季は幸福が広がって往く頭で思った。
「此方来い(Come)」
四季はその言葉に身体が自然と従い、呆然とする頭で紫苑の元へと行く。紫苑が柔らかい笑みを浮かべ形の良い唇を上げ呟いた。
「良くできたね〜。偉い子だ四季」
「…………うん…」
四季の頭に広がって往く幸福感に満たされ、何も考える事が出来なくなり紫苑からのコマンドが欲しいとの言葉だけが占領する頭で、紫苑が撫でる度に目を細め自然と手の平へ擦り寄った。その姿に紫苑は内心歓喜し、可愛い恋人に今度何かを貢ぐ事を決意し柔らかな髪を堪能する様に撫でてゆく。四季が蕩け完全に紫苑の身体に凭れ掛かり足に頭を乗せ手を着いた所で、紫苑は次のコマンドを出す。
「上を向けこっち見な」
「……しおん…さん…?」
蕩けた頭で四季が紫苑を見ると、欲の籠った鋭い瞳を柔く緩ませ優しげな笑みを浮かべ語りかけていく。
「お前は馬鹿な所はあるけどね、折れる事無い芯を持って仲間の事を気にかけて導くお前は何時も凄げぇよ俺の自慢。廃業(クズ)には勿体無いぐらい慈愛を持って人に好かれその想いを返せる自慢の恋人だから〜……誇りな」
「………………ぁっ………」
完全にサブスペースに入った四季の頭を撫で脇に手を入れ四季を膝立ちにすると、唇を近づけ軈て重なる唇に四季も阻む事なく紫苑に教えられた通りに唇を開ける。舌を入れゆっくりと咥内を犯す紫苑は、背徳的なその行為に神の前で悪い事をする様な思考が脳裏に浮かび、鬼の時点で神に見放されている事を思うと、四季を神にも渡すものかと舌を更に激しく絡める。
瞳を瞑り上を向き必死に襟に胸に縋り付く四季を見詰め、その絶景とも言える愛しい恋人の姿に紫苑は四季の背に手を回し更に深い口付けをしていく。
四季の蕩けた顔を見詰め、湧き上がる仄暗い執着にこの自身の胸を脇立てる程に色々な感情を思わせ満たす恋人に、初めて人へ興味を抱き四季を落とそうと躍起になった。紫苑は四季に少しずつ好意を表して行き、四季の好きな物を貢ぎ、杉並の外に連れ出し時には他の区へと連れて行ったりもした。四季が段々と紫苑を意識する様になり、その感情の答えに気付いた所で紫苑から告白をし、四季は涙を浮かべ幸せそうに笑って返事をした答えに紫苑は思わず四季を抱きしめたのだ。真っ赤な様子の四季が只管愛しいかった。
それから四季が来る度デートを重ね、粗地下であるが、時には地上に隠れて出て並び立つビルの隙間から見える束の間の青空を楽しんだ。四季が居ないと紫苑は生きていけない、女遊びはしても、上位のDom故どんなにプレイをしても快楽を得られ無い行為にこんなものかとプレイが嫌いになり、必要以外は抑制剤を飲み大我にも咎められていた紫苑が、初めて上位のSubである四季と出会ったのは運命だと紫苑は感じたのだ。だからこそ四季は特別なのだ。
唇を離し蕩けた四季の頬を包み紫苑は恍惚と笑い告げる。
「俺にはお前だけだ四季。そしてお前にも金輪際俺だけだからな覚悟しろよ……四季」
紫苑の言葉が既に頭に入る様子が無い事を知り本音告げる紫苑は、何処までも素直になれない自身に意地が悪いなと思いつつ、四季の唇に触れるだけのキスを落とす。啓人な信者の様なその姿は何処までも彼のみを今後も愛すると誓う。暫くしゆっくりと離れると四季の頭をわしわしと撫で蕩けた四季を横抱きし、ベッドに下ろすと押し倒した。
四季には俺だけが居れば良い、俺にも四季だけだと思うと四季の服をシュルリシュルリと脱がし大人の時間を過ごす。
未だ夜は始まったばかりでこれからは大人の時間である。防音である部屋は外に声が漏れる事は無い。四季の視点の合わない蕩けた瞳を見て呟く。
「お前だけを愛してる」
END