月夜の鬼ごっこ深い紫寄りの黒髪を携えたサングラスを付けた男が、スマホの画面を眺める。そこには青年が友人と楽しげに街を歩く様子が映し出され、男はその姿を眺め咥える煙草を指で挟み息を吐いた。空中に溶ける煙が天に登り、男は画面を眺めると暗くスマホの灯りだけが反射した部屋で、壁に手を寄せ一枚の写真を横に撫でる。
男が部屋の明かりをリモコンで付けやると、壁一面に広がる夥しい数の、青年のみが写る写真を眺め、唯一男の方を向く写真に顔を寄せ呟いた。
「………四季ィ」
男は静かに呟いた吐息混じりの言葉は部屋に溶け、執着し渇望する様に鋭く細められた瞳で、目が眩む様に見つめ一つ指先で宝物を撫でる様に写真を撫でた。
男はモダンで品の良い高級な家具で揃えられた部屋の一人掛けの椅子に座り、一つの写真を見つめる。その写真は青年がソフトクリームを食べる姿を見つめ、その必死に食べゆく姿に手を伸ばす。食えぬ表情で何処か愛しげに写真を撫でる男は、ふと聞こえて来た男に絵に顔を上げると青年が友人と話楽しむ姿が大画面に映る。その姿を見て、無表情にその様子を眺める。暫く見つめ男は、目線を逸らすと大きなモニターの周りに夥しい数が貼られている写真の数々が目に入る。
男は額に入れられた唯一青年が此方を見て満面に笑う姿を見て男は呟く。
「…………四季」
男は願う様に、手に入らない物に手を伸ばす様に、必死に欲しい物を手に入れ様と足掻く咎人の様に、両手を額に着き見つめる瞳は執着し愛をこう様な逃がさないと睨み付ける様な瞳で、指先でゆるりと写真を撫でた。
四季は街中を歩いていた。練馬で実習を済ませ無陀野が自由時間を全員に言い渡し、四季はモデルガンを買いに街に繰り出す。四季の行きつけのモデルガンの店に向かい、途中で着くと言う時に、突然後ろから肩を組まれ驚き横を見ると、突然肩を組む紫苑が顔を寄せ楽しげに耳元で話しかけて来る。
「四季〜なーにしてんの?」
「わっ!紫苑さん!今からモデルガンを見に行く所でさ〜見るだけでも楽しいじゃん?」
「おーいいじゃん。紫苑さんが銃買ってやろうか?」
「悪いから良いよ!」
「別に良いって買ってやるよ。大人の特権てやつだ」
「借金した金なんて嫌だぜ」
「言うなークソガキ」
紫苑に肩を組まれ店の中に入ろうとする四季の前で自動ドアが開き、出て来た人物に四季は驚き目を見開く。
「黒馬さん!」
「四季君こんにちは…今日も元気ですね」
黒馬が何時もの読めない笑みを浮かべ、四季の頭を撫でる行為を気に入らずに、紫苑は四季の腰を抱き寄せ睨み付ける。
「四季にあんまり触らないでくれる」
紫苑に静かに低い声で睨み付ける様に言われた黒馬は笑みを深め煽る様に呟く。
「おやおや何を怒っているのですか。四季君は誰の物でも無いでしょう」
「……誰のものでも無いけど、確かに俺の方が式と仲良いし〜………お前の物でもねぇだろう」
睨み合う二人に、黒馬が小脇に抱えていた袋を四季に差し出す。四季は驚き袋の中を覗くと、自身が欲しかった一つの最新型のモデルガンに飛び跳ね笑った。その姿に黒馬は機嫌を良くし、紫苑は一等機嫌を悪くし無表情になる。
「これ欲しかったやつ!!ありがとう!!黒馬さん!!!」
「いえいえ、其方の使えない男と違い…僕は有能なので」
「……俺の事言ってんの?」
「貴方以外居ないかと」
「…………」
紫苑は一つ暫く睨み付けると、四季の腰を抱き中に入るのを促す。四季はその様子に、紫苑に促される儘素直に入り行くのに黒馬は面白く無さそうに無表情で見遣った。
「しーき♡行こうか…紫苑さんが幾らでも好きなの買ってやるからなー」
「なんかパパ活みてぇだな」
「四季パパ活なんて言葉何処で覚えたの?やった事あるわけ?」
「なんか道を歩いてたら5万で遊ばない?とか息荒いおっさんに言われて、その時パパ活言ってたから調べたら出てきた」
「………そのおじさんの名前言ってよ〜四季ィ……」
「……何もしないってぇ…するならそこの桃だろう」
紫苑が笑みを浮かべ振り向くと同時に、四季が不安げな顔で見つめて来る。まるで酷い事はするなと言う様に見つめて来る四季に、黒馬は咳払いをし手を小さく広げると役者の様に語り出す。
「そこの男が言いましたが、別に酷い事はしません……少しお話するだけですから…ね?」
黒馬の答えに紫苑は目を細め呆れた様な視線を向けるが、自身も似た様な事をするだろう事を思い浮かべ何か言うことをやめた。四季は安心した様に振り向くと、紫苑の服の裾を引き中に入る事を促す。
「ねぇねぇ!紫苑さんはやく行こう!!」
「はいはいわかりましたよー。だから紫苑さんの腕引っ張ら無いで」
紫苑の腕を引き中に入る紫苑を見つめる黒馬の視線は鋭く機嫌が悪そうに四季を見つめる。一瞬紫苑が背後の黒馬を見る様に振り向くと、彼を見つめ愉しげに一つ笑うと、前を向き扉が閉まり行く。
黒馬は米神に血管を浮かばせ、中に入り既に入った紫苑が居た方向を睨み付け、細菌が身体から湧き上がるが、軈て形を作る前に消え背後を振り返り歩き出すのだ。
紫苑は四季と店内に入り、四季が楽しげに物色する様を見ていた。飾られているモデルガンの形は様々だが、紫苑に違いは理解出来なく然し四季が好きな為に楽しそうに選ぶ四季の姿を眺める。
二種類の前で悩む様に唸る四季を見て、これ以上は店に迷惑が掛かると思った紫苑は、四季の前の二個の銃の箱を手に取るとレジへと歩き出す。
「え、待って紫苑さん」
「ガキが大人に遠慮すんな。大人しく与えられてろ」
「でも………」
会計を済ませ二つの袋に入ったモデルガンを四季に手渡すと、恐る恐る受け取った四季が幸せそうに笑みをを浮かべ輝く目で見つめた後に、紫苑を伺う様に見遣る。
「お前の物だ。受け取れ」
「…………」
「受け取らないならゴミになるだけだ」
「ゴミはダメだろ!!最新型だぞ!!」
「……なら大人しく持っとけ…子供が大人に遠慮するな」
四季はその言葉に紫苑の片腕に片腕を絡めると、御礼を言い店の外へと歩き出す。店から出た紫苑と歩く四季の様子を、遠くから見ていた黒馬の耳に付けたインカムから届く声から聞こえて来る声に、インカムに添えていた指を強く潰し、壊れたインカムを道端に捨てるのだった。
四季はその後紫苑と食事をし自宅に案内された。四季から見れば高い良いマンションに住んでいた紫苑の部屋を散策し、一箇所だけ覗くなと言われていた部屋に興味本位から入り行く。暗闇が広がる部屋は机とイスだけが置かれ電気を探し付けると、部屋一面に貼られた写真が四季の前に広がり、その写真はどれも盗撮された四季であり、此方を向いた物は一枚も見当たらない。
「な、なんだよこれ……」
四季は後ろに下がり、紫苑がシャワーを浴びているのを思い出すと急いで荷物を持ちマンションを後にする。紫苑は物音が聞こえ、シャワーを浴び終わり出ると四季が居ない事に即座に全てを理解すると、壁を殴り呟いた。
「あのガキ……逃げやがったな」
紫苑はスマホの画面を開きGPSを開くと、四季の現在居る所が映し出されタオルで髪を強く吹きながら拳を握りしめ呟いた。
「逃がさねぇからな……四季」
紫苑は着替えるのに自室へと歩き出す。髪を乾かすのが先かと思いながらも、四季の行先が気になり逸る気持ちを抑え全てを済ませるのであった。
四季は暗い道を走り行く。急いで自身の家に帰ろうと走るが、前のめりになり躓きそうな足をどうにか抑え道を走るが、目の前の電灯の下に誰かが立っている事に気づいた。
「その様に急いでどうされたのですか?」
「………黒馬さん」
「不安そうな顔を浮かべさぞ怖い事が合ったのですね……もう大丈夫ですよ」
「……そうなんだよ嫌なことがあっ…て…さ……」
黒馬が手荷物鎖を四季は目にし後退る。黒馬は愉しそうに笑むだけであり、四季は青ざめた顔でその鎖を眺めていた。
「それ…どうするの……」
「……どうするのだと思います?」
「………何か捕まえるとか?」
あっヤバい四季は頭に浮かぶ言葉に、黒馬の笑みが更に深まり逃げ様と振り向くが、直後背後に来た黒馬が四季の口元に布を当て暴れる四季へ囁く。
「そんなに暴れると薬が効きすぎてしまいますよ」
四季は黒馬の言葉に、段々と眠くなる意識を保とうと必死に抗うが、軈て意識は闇に染まり黒馬の胸元へと力の抜けた四季がもたれ掛かり、黒馬が背後から抱きしめ笑みを浮かべる。
「お休みなさい…僕の可愛い茨姫……漸くこの手に落ちて来ましたね…」
黒馬は四季の身体を姫抱きにするとその場から消え夜の闇に消え去る。静寂だけが広がるその場は闇が広がり、消え入りそうな電灯が不規則に点滅していた。
四季は起きると暗い部屋に寝かされていた。起き上がり足を動かすとジャラと音が響き、其方を向くと四季の足に足枷が嵌められ鎖が伸びている。四季は驚き怯えた様にその足を見つめると、部屋を見渡し月明かりのみが入る部屋は薄暗い。ふとモニターがある方を見つめると、壁一面に写真が貼られ、良く見るとそれは全て四季の写真で合った。一枚ずつ額に入れられ飾られていたそれを見遣った四季は、恐怖に支配されながら然し抜け出そうと足枷を取ろうと動かし、炎鬼の力を使おうと覚悟を決めた瞬間黒馬が部屋に入り、四季は怯えた様に其方を見つめた。
「おや起きましたか。おはようございます……良く眠っていた様で」
「なんでこんな事して……」
「なんでとは、野暮な事を聞くものですね。貴方は分かっているでしょう……私と朽森紫苑の感情を……」
黒馬が四季の元に歩む前に、四季は足元に炎を灯し鎖を焼切る。炎に乗り窓を破り出ると、四季の遠くなる後ろ姿を見つめ、黒馬が楽しそうに呟いた。
「鬼ごっこですか…良いでしょう…鬼を捕まえるのは得意なんですよ…これでも元オークションの管理主ですから」
黒馬は窓を蹴り勢い良く外に風に乗り飛び去る。ビルを何個か跨ぎ、落下位置を予測し降りると、四季の居場所を確認し走り出した。
紫苑はその頃四季のGPSをビルの上から確認していた。黒馬は四季を一度逃がし、二度とその様な馬鹿な事を出来ない様に躾けるだろう事は目に見えていた為に、紫苑も余裕を持ち四季の通り掛かるだろう道で待ち伏せをしていた。紫苑も同じ様な理由で逃がしたからだ。
四季が紫苑も黒馬も愛し何方も選ばない様に決めている事は知っていた。だからこそ四季が選ぶまで待っていた紫苑だが、業を煮やし今回決行している。紫苑の失敗を狙い黒馬も決行した様だが、紫苑は態と逃がしたのだ。四季を確実に手に入れる為に罠に掛かる様に網を張り巡らせて。
そして今現在走り行く四季へ、紫苑は教科書を開き事前に地面に垂らした血を使い呟く。
「血蝕解放、臆病な龍の咆哮(りゅうめいほうこう)」
途端走る四季の頭に嫌な物が過ぎり止まる。前に血から登る何かが天に登り、それが龍だと気が付くと四季は慌てた様に後退り、紫苑がビルから降りて来たのを見て呟いた。
「なんでよ……しおんさん………」
「俺は待った。お前の覚悟が決まるまで……だけどお前は覚悟を決める所か、俺達の想いから目を逸らし逃げて日常を選んだよな……現状維持を選んだ時点で俺とアイツが動くのは決まってたんだよ」
「……やだよ…俺…選べないよ」
「………選べ…アイツか俺か今此処でな」
紫苑の言葉に四季は再び炎に乗りその場から飛び立つ、紫苑はそれを見つめ狂った様に額に手を当て笑いだす。
「ハ、ハハハ……良いぜ…鬼ごっこは昔から得意なんだ…隠れる奴を暴く事は愉しいからな…お前は何処まで逃げられるかな」
四季は必死に逃げていた。紫苑から血蝕解放を浴びて逃げれば、黒馬に待ち伏せされ細菌で攻撃され、黒馬から逃げれば、紫苑が四季の行先に待ち攻撃する。消耗する戦いに、軈て血が着き道に降りると、霞む目で辺りを見回す。奥まった道に入った様で、隣には道も無く前は壁で合った。
後ろから二つの足音が聞こえ、四季は急いで振り返る。霞む瞳で見つめた先には、紫苑と黒馬が歩んで来るのが見えて、四季は後退り軈て壁に手が付き、目の前に歩いて来た彼を見つめる。
「鬼ごっこは終わりか?」
「漸く降参ですか…理解してくれた様で助かりますね」
「……やだ…やぁ………」
「怖がって可愛いですね…大丈夫ですよ。貴方が暴れなければ何もしません」
「…………本当に…?」
「本当だよ〜紫苑さんが大事な事で約束破った事ある?」
「……ない」
「ならそのまま大人しくしてなー」
紫苑に気を取られていた四季は、黒馬が居ない事に気づかず、途端首に何かの針が刺さる事に気付き恐る恐る横を見た。
「……馬鹿ですねぇ。人を軽率に信じるなんて」
「…四季くんは単純だよな…ダメだよぉこんな悪い大人なんて信じたら…いつかパクッと食べられちゃうよ…まぁ食べるんだけど」
四季は段々と霞む視界の中で目の前に立つ紫苑と黒馬の愉しげな執着を宿した瞳を見つめ、笑う二人に抗おうと伸ばした手を取られ意識を手放した。紫苑が倒れゆく四季を咄嗟に腕で支え抱えると、黒馬が竦める様に小さく手を広げ提案をしてくる。
「一時休戦と行きませんか」
「良いけど。そして部屋は?」
「使ってないセーフハウスが近くにあります。一先ずそこに」
「……分かった。四季を運んだ後はどうするんだ?」
「貴方と折半で用意したマンションに彼を運びます。貯めてるでしょう?お金…」
「へぇ…良く知ってるね…まぁ貯めてるけど」
「私なら幾らギャンブルに落ちようとそうするので」
「まー良いよ。早く行こう」
「四季君は貴方が運んで下さいね」
「指図するんじゃねぇよゴミが」
「虫けら風情が口答えをするな」
睨み合う二人は軈て視線を逸らしその場から消え暗闇に消える。
二人に運ばれる四季は、暗い意識の中で微かに浮上した意識で自身はもう彼等から逃げられないのだと思うと、少し胸が火を灯す様に温かくなり、その胸に湧く歓喜に悦び再び意識を落とすのだった。
四季がその様な事を思った等二人は知らずに夜の街へ消え行った。
夜の闇に浮かぶ道化師達は、披露した芸に喜んだ少年を攫い閉じ込める。少年はそんな道化師達を愛し、殺人鬼だと知りながら永遠に共に暮らして行くのだった。
鬼に捕まった少年は二度と外には出られない