熱伝導 あれからどのくらい経ったのだろう。
色んなことが重なってソールはマリオンと共にロッカーの中に閉じこめられていた。ドアには鍵がかけられていて、蹴破ろうにも金属製のそれはびくともしなかった。それでもマリオンが背中から何度か体当たりしていたら、勢い余ってバランスを崩してしまい、ロッカー自体が横倒しになってしまった。
咄嗟にソールがマリオンを抱き込んで庇ったため、ソールは彼女の下敷きになる形で折り重なってロッカーの中で倒れ込んでしまっていた。
ロッカーの壁面に打ち付けた背中や腰が痛むが、ソールにはそれ以上に気にかかることがあった。
「大丈夫? ソールくん、重くない?」
それはロッカーの狭さゆえに自分の上で身動きが取れなくなっているマリオンの存在だ。見た目以上に細く華奢な体躯なのに触れ合っている部分は柔らかく温かい。彼女が身動ぎする度に艶やかな黒髪からは甘い匂いが鼻先を掠めて、ソールの内側を甘く刺激してくる。狭い空間に押し込まれたやむを得ない状況とはいえ、憎からず想っている相手とこんなに密着した状態では否が応でも意識せずにはいられなかった。
「人が一人乗っかっているのですから重くないわけないでしょう」
そんな自分の動揺を悟られぬように、ソールは憎まれ口を叩いてしまう。
「悪かったわね、重くて」
当然ながら言われたマリオンは拗ねたように顔を背けてしまう。そんな彼女の様子に、ソールは深々と息を吐き出してから口を開いた。
「でも、私が下敷きで良かったです。もし私がマリオンさんを下敷きにしてしまったらと思うと……少し、肝が冷えます」
ぽつりとそう本音を口にしたら、マリオンは目を丸くしてこちらに顔を向けてきた。大きな瞳で間近に見つめられてソールは反射的に視線を逸らす。
「わたし、そんなにヤワじゃないわよ? ソールくん一人くらいの重さなら耐えられるわ」
なんでもないことのようにそう言い募るマリオンにソールは眉を顰める。
「私の気持ちの問題です。あなたも……女性ですから」
改めて自覚させるようにそう告げると、呆然とこちらを見つめ返してきたマリオンの頬が朱に染まった。
「潰してしまうんじゃないかと気が気ではないんです」