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    akaihonoga39391

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    展示予定だった「クランクアップは延長で」の進捗、もとい冒頭のみ載せておきます。
    今回は間に合いませんでしたが、年内を目標に頑張ります!
    干されて引退直前の俳優キース×アイドルディノ。
    二人がミュージカル映画のオーディションで出会い、恋に落ちていく話。

    クランクアップは延長で(作業進捗)「ディノ・アルバーニです!アイドルグループGoldenXXsectionに所属しています!演技は初めてですが、よろしくお願いします」

    雲ひとつない青空に声帯があるとしたら、きっとこんな感じなんだろう。
    その場にいた誰もがそう感じてしまうほどに、明るく真っ直ぐな声だった。特段張っているわけでもないのによく通る声で、書類ばかりに視線を落としていた審査員たちの顔が一斉にその男へ向けられた。
    ディノ・アルバーニと名乗った男は、そんな視線にも臆することなく満面の笑みを浮かべ、風が起きそうなほど俊敏に一礼した。
    ──目が離せない、とはこういうことを言うのだろう。
    オレは自分の番がそろそろくるということも頭から抜け落ちてしまうくらい、その男を凝視してしまった。離れていても惹きつけられてしまうくらい、この男には人を魅了する悪魔的な魅力がある。
    見た目からしたら、二十代前半だろうか。白く健康的な肌にはハリがあり、頬には程よく赤みがさしている。大きく煌めいた瞳は、声と同じく春先の青空をそのまま閉じ込めたような色をしていた。あどけなさと好戦的な鋭さを合わせ持つ瞳はどこか犬を彷彿とさせ、親しみが湧く。流れるような身のこなしは洗練されており、綺麗だった。アイドルというだけあって、自分がどのようにすればよく見えるのかよく研究しているのだろう。そして、そこに不自然さはなく好印象を人に与える。
    見た目、声、雰囲気、どれが欠けてもいけない。絶妙なバランスを保ち、ある種のアンバランスささえも感じるが、そこも目を離せない魅力の一つなのかもしれない。
    ──抗えきれない光にも似ているこの男は、一体どんな演技を見せるのだろうか。
    今回のオーディションは、ミュージカル映画の主役二人を決めるためのものだった。主役の二人はタイプの違う幼馴染で、オレが受けるのは無口で粗野だが情に厚い男。対するディノ・アルバーニが受けているのは、明るく陽気だがどこか影のある男だった。
    通常のオーディションであれば、それぞれの役を別会場で行ったり別日程にしたりするのだろう。しかし、今回は大きな会場を二つに区切り、その二役の審査を同時に行っているのだ。何でも監督が主役二人のバランスを見ながら行いたいとか何とか、たいそうな考えがあるらしい。だからこうして、別の役であるにも関わらず、ディノ・アルバーニという人間の存在を知ることが出来たのだ。
    「それじゃあ、早速この台本の3ページ目のシーンをやってみてくれる?」
    監督の男は、何かを期待するような瞳をディノに向けながら言った。
    「わかりました」
    ディノは一度目を閉じた。大きく息を吸い込むと同時に開かれた瞳には、強い意志と眩しいほどの光が湛えられている。その表情の変化で、彼がもう役に成り切っていることが伝わってきた。そして、ごく自然な様子で指示された箇所を演じ始める。
    お世辞にも、演技が上手いとは言えない。せいぜい素人に毛が生えた程度といったところだろう。しかし、驚くべきはそこからだった。
    「……ディノ、さっきのこのシーン。もう少し声を抑えめにして、別の感情を乗せられる?例えば、嫉妬とか憎しみとかそういう感情」
    「わかりました!やってみます」
    明るく応じたディノは長く息を吐き出すと、次の瞬間には先程と全く別の顔をまとっていた。そして、指示された通り異なるニュアンスで演技を始める。
    ──なるほど、これは面白い
    シンプルにそう思った。
    打てば響くという言葉があるが、こいつはまさにそれを体現するかのような人間だった。その後も監督は次々と指示を出したが、どの内容にもディノはしっかり応えた。演じるごとに、この場で成長をしているのが目に見える。まるで乾いた大地が水を吸い込むような勢いだ。
    こんなに多彩な表現が出来るのに、演技は初めてなのか。
    正直なところ、アイドルグループの所属と聞いた時点で、こいつが役に選ばれたとしたら映画の客寄せ的な部分を担うだけだろうと考えていた。しかし、一概にはそうとは言えないほどの実力をここで発揮したのだ。
    演じるということは、こいつの才能なのかもしれない。まだまだ完璧とは言えない部分も多いが、これは育て方次第でとんでもなく化けるだろう。

    ──絶対にこいつと演技がしたい。

    不意に、背中をナイフで撫でられた時のような感覚に襲われる。
    これは恐怖ではなく、役者としての魂の叫びにも似た興奮だった。オレの中で忘れかけていた演技に対する熱のようなものがチリっと燃え始める。
    今回のオーディションは完全に落ちるつもりで来ていたが、これは本気で役を勝ち取りにいきたい。あいつの隣で演じたら、どんな芝居を返してくれるのかが気になって仕方がないのだ。
    らしくもなく、熱くなってしまう。オレはこの場の緊張感に似合わない種類の昂りを覚えながら、俯くことでにやけそうになる顔を隠した。念の為にと台本を読み込んでいた役者としての矜持に感謝する。自分の番が来るまで、少しでも役に対する解釈を深めなければ。その一心で、オレは自分の中へ意識を集中させるのだった。
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