往生堂に鍾離先生を探して足を向ければ、留守にしていると言われた。その口ぶりだといつもの散歩だろうと、璃月の街を勘を頼りに歩いていると、何者かが近寄ってくる気配がする。
「浮かない顔だな。公子殿」
案の定の知った声に、振り返るとそこには相変わらずの泰然とした様子の鍾離先生の姿があった。
「まあね。この街でファデュイに向けられる視線の厳しさには参るよ」
「それだけか?」
珍しくつっついてくる鍾離先生に、俺は肩をすくめた。
「他に理由があるって、先生はどうして思うのかな?」
「リオに同じセリフを言ったら、素直に謝ってきたが、公子殿のほうは素直じゃないようだ」
「俺もしかして挑発されてる?」
鍾離先生の台詞で、彼が事情のいくらかを知っているらしいということを察して、俺は瞳に敵意と口元に笑みを浮かべても、鍾離先生は動揺一つ見せない。
「鍾離先生はどういうつもりで俺にそんなことを言ったのかな」
「公子殿がそんな風に言うほどのことはない。友人が困っていたら助言をするものだろう」
「へぇ。じゃあ鍾離先生は、その友人にどんな助言をしたんだい?」
「相談事を人に話すことは出来ない」
まじめな調子でそう返されて俺は溜息をついた。
「そうリオのことを知っているとひけらかしておいて、そのくせ情報の一つもくれないなんて、ちょっと意地悪なんじゃない?」
「彼にとって公平じゃないから話せない」
「公平?」
鍾離先生らしい返答に、俺は鍾離先生が言わんとしていることの察しがついた。
「彼は公子殿についての情報を何も持っていないのに、公子殿が一方的に彼の情報を知るのは不公平だ」
「先生にしてみたらそういうことになるよね」
さて、俺のことを知られずに聞き出すには、どうしたら良いだろう。いっそこれを機に戦って、なんて思考が脳裏をよぎるが、そう安直に行く話じゃないしそれで口を割るような人でもないだろう。
俺は腕を組むと、鍾離先生に問いかけた。
「じゃあ取引はどう?鍾離先生の望むものを差し出すよ。もちろんなんでもというわけにはいかないけどね。やっぱり鍾離先生の現状を考えると、モラがいいかな?」