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    rani_noab

    @rani_noab
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    rani_noab

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    鍾iタルに落とされる攻主の話中編の冒頭ですが、大天才なので読んで欲しい。前編読めた人だけ。

    鍾離という男は、人を生かし育てるのが非常に上手い人間だ。
    持ち得た才能を見出し、的確に導いて大成させることにおいて、この世の誰にも彼には敵わないと佐神は思っている。社長の座にいるが、それはプロデュースするために必要な地盤を自分で整えるのが一番効率が良いと辿り着いてしまったからその座に居るだけであり、彼は今でもいわゆるプロデューサーが本業である。「先生」と呼び慕われているのがその証拠だった。
    佐神も声をかけられたときに、鍾離と一度映画の仕事をしている。その映画作品が絶賛され、鍾離は現在の地位に至ることになったのだが、その映画はすでに非公開にされており、当時見た人間が思い出の中の映画を絶賛するだけとなっている。鍾離が有名になってしまっただけに、伝説の映画扱いされているのが佐神には愉快だった。
    「もう6年前か」
    「あの映画の話か」
    佐神の説明のない言葉に、鍾離は的確に内容を理解したようだった。「モラクス」にはバーラウンジがある。それは外で気軽に飲みに行けないアイドルたちが気兼ねなく利用できるようとの計らいで作られたものだが、その実、佐神は鍾離が誰かと酒を飲みかわすのが好きな人間であることも知っていた。
    タルタリヤをマンションに送っていった後、佐神はビルに戻り、一人カウンターで待っていた鍾離に会いに来た。
    それぞれ好きな酒を頼み、理解あるバーテンダーが席を外したタイミングで佐神は口を開いていた。
    「もう出ないのか」
    それが映画の出演の誘いだと察し、佐神は首を横に振る。
    「面白かったが、俺がやりたいことじゃなかったからな」
    ワイングラスを揺らして言った佐神に、鍾離は息をつく。
    「残念だ。お前は良い役者になるのに」
    「そうか?見てくれが良いだけだ」
    「いや、「役者」だろうお前は。それは天賦だ」
    役者、の言葉に含みを感じて佐神はグラスをカウンターに置く。
    「演技で生きてるわけじゃないよ。鍾離先生?」
    「わざとらしく先生をつけるな」
    その眉をひそめた横顔を見て、佐神は苦笑する。
    「本当に嫌そうな顔をするな。みんな先生って呼ぶのに、俺はだめなのか?」
    「お前には名前だけで呼んで欲しい」
    淡々とした声音でそんなことを言われて、佐神は口をつぐんでワインを口にする。少しの沈黙の後、佐神はグラスを揺らす。
    「いつそんなに可愛い人になったんだ?」
    「心当たりがあるはずだが」
    佐神は行儀悪く頬杖をつくと、スツールに座って姿勢の綺麗な鍾離を眺めた。
    「なんだ?」
    振り向いた鍾離の金色の瞳が自分を見据えるのに、佐神は小さく笑みを浮かべた。
    「出逢った頃のお前がそれくらい可愛かったら、別れを切り出されたときに泣いて縋ってただろうな」
    「今からでも遅くない」
    「いいや、もう遅いよ。お前に執着されるだけの男だったことは嬉しいが、あの時は俺も若かったし、結構傷ついた。お前の契約の解消は一方的だったし、理由を伝えることは契約に入っていなかったから、お前は何も言わずに去っていっただろ」
    「傷ついたのか」
    取り上げて欲しいのはそこじゃなかったんだが、と佐神は口を開く。
    「先生は俺をなんだと思ってるんだ?」
    先生と呼び、台詞とは裏腹に佐神は小さく笑んだ。
    「お前と違って俺は人間だよ。お前みたいに感情を制御できない。でも感謝もしているよ。あの時の経験のおかげで、今成功している。今自由にやれているのは、お前のおかげだな」
    「あの経験がどう成功につながったのか、聞かせてもらいたい」
    「内緒」
    どきりとさせるような表情でいたずらげに笑って、佐神はワインを飲み干した。ふいに鍾離から手が伸びてきたのに驚いた佐神は、頬をなぞられる。
    「惜しいな──」
    黄金が溶けたような瞳が明かりの絞られたバーラウンジ内で光るようだ。その瞳に魅入られて、佐神は身動きが取れなくなる。指がやさしく輪郭を辿り、あごに添えられる。
    「俺が磨けば、もっと化けるだろう」
    「……」
    何か言おうとしてやめたらしい佐神に鍾離は笑みを浮かべる。
    「大丈夫だ。お前にしかしない」
    完全に意図的な仕草だったことを理解して佐神は溜息をついた。無自覚だったら手の甲をつねるくらいのことはしただろう。性質が悪くなったな、と思いながらも気になったことを問いかける。
    「タルタリヤには?」
    「喜ぶよりも対抗心を抱くようなので、タイミングに気を付けてる」
    「彼らしいな」
    つられるように笑った佐神から鍾離は手を引いた。すこしぼんやりとした心地で佐神は空になったワイングラスを見やると、遠くで待機していたらしいバーテンダーが戻ってきたが、気遣いにお礼を言いながら、それ以上は頼まなかった。
    「もう飲まないのか」
    「そう残念そうな顔をしても駄目だ。明日は外で撮影がある。知ってるだろ」
    「知っているが、酒を飲むコンディションのお前が一杯や二杯で酔わないのも知っている」
    佐神は一度黙り、少し考えてから結局首を横に振った。
    「気になることがあるからやめておく。次に飲むときは、お前の仕事の話が聞きたい」
    口説かれるのではなく、と言外に伝えた佐神を理解しているのか、鍾離の反応は薄い。
    「俺もお前が今まで何をしていたかを知りたい。噂は聞いていたが、どれも噂でしかない。この3年何をしていた?」
    「何と言われてもな。メールアドレスと電話番号を知っていただろ。ずっと掴んでるんだと思ってたよ」
    「知れたのは僥倖だった。ずっとお前を探していた」
    どの口が、とは佐神は口にしなかった。それについては理由をもう聞いている。あんなに人間のことがわかるのに、人の心の機微を掴めないところはなおりきってないらしい。それなのに確信的になった。経験も人を変えるのだろうと思った。
    「会いたいと言ったのは賭けだった。何を言えばお前が会いに来てくれるのか分からなかったからな」
    「俺も本当は、」
    来る気はなかったよ。と言いかけて佐神はやめる。もう来てしまったし、その心変わりの理由については深く話したくなかった。このラウンジに来たのも人目があるからだ。会話を聞かないように他の関係者は離れたところに居るが、気にされている視線の気配がしていた。もうスキンシップにしては親密に触ることを許してしまったので、気を引き締めないとならないと佐神は内心で溜息をつく。
    「お前と一緒に居たら出来ないことをしていたよ」
    「当てつけだな」
    ストレートな返しに佐神はしれっと頷く。
    「そうだよ。でも、悪くないどころか楽しい。お前と別れて正解だったと思い直すくらいには」
    分かりやすい拒絶の言葉をつげて、佐神は立ち上がる。
    「そろそろ帰るよ。楽しかった。また誘ってくれ」
    「ああ」
    感情の読めない表情で返事をした鍾離の顔を見、佐神はラウンジを出る。
    まったく堪えてなかったな、と鍾離の予想しています、と言わんばかりの雰囲気に、手ごわさを感じた。それなら、まず落とすべきは、と言っても鍾離に落とすのだが、落とすべきはタルタリヤの方だろう。彼はおそらく鍾離が好きだ。まったくそうとは気づいていないようだが、例えば鍾離と佐神だったら、鍾離をすぐに選ぶだろう想像がついた。
    どう突つくか、と考え始めてから思考を振り払う。
    明日の仕事に集中するべきだ。契約期間は長い。猶予はあるだろう。
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