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    rani_noab

    @rani_noab
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    rani_noab

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    鍾iたる攻主夢。続き。
    追記し続けて8000字になった。佐神の事情がようやく出ます。みんなずぶずぶでかわいいね。

    モラクスとゼピュロスが企画するのは「夜明け前の海」というタイトルのドラマだ。
    駆け出しの探偵で主人公のタルタリヤと闇社会を牽引するガイアをトップに据えた構成になる。モラクス側は探偵側のキャストを、ゼピュロス側は闇社会側のキャストを担当する。
    タルタリヤの助手は七七という少女で、天才子役としてタルタリヤも名前を知っていた。また探偵の協力者の記者役で刻晴が出演する。
    モンド側はガイアの舎弟としてベネットが。バーバラという弱みを握られて協力するジンという構図も描かれており、キャスティングを聞いただけでも心躍るドラマの内容を想像させた。
    佐神と言えば、ガイアの右腕の男を演じることになっていた。
    役でとはいえ敵対するなんて楽しみだと両手を合わせて笑むタルタリヤは、佐神が急にドラマに参加することにした経緯をどうでもいいとも思っていた。ドラマの撮影は三か月に及ぶ。つまり純粋に二か月の延長。
    その間に佐神を落として事情も聞き出せばいい。期間が長ければずっと自分や鍾離にしばりつけることが出来る。それだけの魅力と強さが自分たちにあるとタルタリヤは思っている。もう自分たちを気にしているのは知っている。水面に放られた餌をつついているのなら、まだ焦ってはならない。
    タルタリヤは快楽主義の気がある割には、その快楽のために我慢強いところもあった。
    もう何度も目を通した台本を手に取る。行秋という脚本家の名前は知らなかったが、鍾離が選んだのなら面白いはずだった。その通り実に興奮する内容だった。
    この台本をこのキャストで演じる。佐神が来てから退屈をほとんど覚えなかったタルタリヤだが、こんなに興奮するのも久しぶりだ。
    「楽しそうだな。タルタリヤ」
    「ガイア」
    声をかけられて顔を上げる。眼帯が印象的なこの男はいつ見てもミステリアスな雰囲気を崩さない。並んだ自販機の前の休憩スペースにやってきたその男は、周囲を見回した。
    「台本を取りに来たから誰かしらいると思ってたぜ。唯嘉は一緒じゃないのか?」
    タルタリヤは首を横に振る。
    「さあね。一緒に台本受け取りに来たんだけど、ウェンティとどっかに行っちゃったよ。俺に動くなって言ってね」
    「それで待ってるわけか。お前のボディガード、と言ってたな」
    笑うガイアはそれから自販機の前に行く。カップ型の珈琲自販機が結構美味しいことをタルタリヤは知っている。
    「酒は……ないか」
    残念そうなガイアにタルタリヤは肩を竦める。酒好きとは聞いたことがあったが、今のタイミングでアルコールを探すとなると相当だ。
    「そりゃないよ。飲むならラウンジまで下りる?付き合ってもいいけど」
    「それは心惹かれるが、唯嘉に怒られそうだからやめとくぜ」
    「ラウンジは社員しか入れないし、唯嘉はそんなに不摂生にうるさくないから大丈夫じゃない?」
    するとガイアは笑った。
    「そうじゃない。俺がお前を勝手につれてったら怒るだろうって話だ」
    「へえ。君と唯嘉がどんな関係か気になるね」
    素直に切り込んでみると、ガイアは何かを二本買って落ちるのを待つと戻ってくる。どちらもカフェインレスコーヒーでブラックとカフェオレらしい。カフェオレを指さすとガイアはタルタリヤにそれを渡し、隣に座った。
    「どんな関係?そうだな。言うなら「共犯者」だ」
    「共犯者?」
    友人、仕事仲間、もし出てきてセフレだろうか、なんて思っていたタルタリヤは予想していなかった単語に聞き返す。
    「一緒に危ない橋を渡ったりもした。今のところ唯嘉の本性を深く知ってるのは俺だけだろうな」
    「それは挑発かい?」
    「ただの事実だ。それに俺たちの関係は恋人なんてものとはほど遠い。俺はお前たちを応援したいと思ってるんだぜ。本当だ」
    「すっごい胡散臭いよ」
    ははっと笑ってガイアは珈琲を口にする。
    「よく言われる。俺はこんなに清廉潔白な男なのにな」
    胸に手を当てて礼儀正しい仕草を見せたガイアはさらに胡散臭い。才能だろそれ、なんて思いながらタルタリヤもカフェオレをひとくち飲んだ。やっぱり結構おいしい。大抵のものに鍾離のチェックが入っているとは聞いているが、多分これもそうだろう。
    「俺は唯嘉を地につなぐ大事なものが出来るならその方が良いと思ってる。そしてそれは俺の役じゃない」
    「俺と鍾離先生と唯嘉の三角関係だけどそれでも良いって思うわけ?」
    「貞操とか倫理の話を俺にされてもな。そういうのはディルックに任せてる」
    共犯者というだけあって、ガイアもだいぶ癖のある男のようだ。
    ディルックとはガイアの義理の兄のことだとタルタリヤも知っていた。マルチに仕事をこなすガイアと違い、ディルックは演劇一筋で、ここしばらくは舞台俳優として活躍している。訳ありの義兄弟らしく、週刊誌やWEBの記事などでその仲をつっつかれているのを読んだことがあった。
    「応援してくれるっていうなら、唯嘉のこと教えてくれない?」
    「そいつはちょっと難しいぜ。唯嘉が話してないことを俺は話せない。まあ、だが、そもそも唯嘉はある程度以上の興味がある人間としか仕事をしない。あんたのボディガードをすると決めたときから、それなりの興味をお前に抱いてるはずだ。だからこのまま押し切っちまえよ」
    簡単に言ってくれる、とタルタリヤは嘆息した。
    「でもそれって鍾離先生に対する興味の派生じゃないかなあ」
    「さあな。聞いてみればいいだろ。なあ唯嘉?」
    少し声を張った呼びかけにタルタリヤが顔を上げると、廊下から佐神が姿を現した。その表情からは何も読み取れない。どこから聞かれていたかもわからなかった。
    佐神はガイアの台詞に反応せずに言う。
    「ガイア、ウェンティが探してたぞ」
    「だろうな。ついお前の可愛い「公子」を見つけて長居しちまった」
    「何の含みだそれは」
    佐神がガイアに向ける視線には親しさゆえの呆れが乗っている。
    「お前が態度を曖昧にするから、嫉妬されちまったぜ」
    ガイアのストレートな問いかけに、タルタリヤは佐神の反応を伺った。応援するという言葉通りに佐神を揺さぶってくれるのなら願ったり叶ったりだ。
    「ガイアが余計なことをいったんじゃないか?」
    佐神はタルタリヤと目を合わせる。青い瞳が理由を問うていたが、タルタリヤはわずかに首を傾けて返事をしない。
    「何を不安に思ったんだ?ガイアとはただの友人だ」
    タルタリヤは笑みを浮かべる、
    「恋人でもないのに俺に弁解してくれるんだ?」
    「お前の気持ちは知ってるからな。お前のコンディションを落としたくないし、俺がしても良いと思う程度の対応はする」
    その佐神にガイアは苦笑した。
    「お前そのうち刺されそうだな」
    「それはないだろうな。プライベートで誰かを抱いたのは社長とタルタリヤぐらいだ」
    「「え?」」
    ガイアとタルタリヤの声が重なる。ガイアも意外だったらしい。どっちの内容に突っ込むべきかタルタリヤは一瞬迷い、口を開く前に佐神は言った。
    「だから機嫌を直してくれ。遊びと思っていたのは事実だが、ないがしろにしているつもりはない」
    ガイアのからかいに乗っかっただけの会話だったが、佐神が思った以上にタルタリヤたちに向き合っているのを理解して、タルタリヤは自分が高揚するのが分かる。ドラマへの期待と相まって、くすくすと笑うと、佐神は溜息をついた。
    「からかったな」
    「そういうつもりじゃなかったんだけど、唯嘉がまじめに答えてくれるから嬉しいよ。あとで鍾離先生にも言っとく」
    「言わなくて良い」
    「フェアじゃないでしょ。他に聞きたいこともたくさんあるけど、今日は気分も良いからこの辺にしておこう」
    「それはありがとう」
    腕を組んだ佐神から不本意そうな気配を感じてタルタリヤは余計に楽しかった。
    そこでガイアが立ち上がるので、その顔を見上げる。
    「じゃ、引っ掻き回せたところで俺はお暇するぜ。二人とも、またな」
    「後で覚えてろよ」
    「楽しみにしてるぜ」
    「ガイア、また撮影でね」
    「ああ」
    カップをごみ箱に放り入れたガイアは、手を振って去っていたガイアを見送り、佐神はタルタリヤに視線を戻した。
    「待たせて悪かったな。退屈だったか?」
    「見ての通り楽しかったよ。彼と交えるのが楽しみだ」
    今ならバーラウンジでのガイアの煽りが、タルタリヤにわざと敵対感情を抱かせるものだと想像がつく。おかげでドラマでの役作りもより熱心に出来そうだった。タルタリヤはカフェオレを飲んでしまうと、同じくごみ箱に放り入れる。
    「行儀が悪いぞ」
    「だって負けてらんないだろ?ああ、撮影が楽しみだよ」
    その前に本読みやリハーサルがあるのだが、本番が待ちきれない。そこに佐神が加わってるならなおのことだ。
    「社長室寄ってっていいかな」
    「お好きにどうぞ。お前が主役なんだから」
    ドラマとボディガードの依頼を重ねた表現に笑い、タルタリヤはスマホを出して鍾離に電話をかける。生憎出ているようだったが、夜にでも電話で話すことにした。忙しいのはお互い様だ。企画が動き出したなら、プライベートで過ごす時間は減るだろうが、しばらくはタルタリヤの嫌いな退屈なんてしようがなさそうだった。

    制作会議や美術、ロケーションの打ち合わせ、さらに通常業務で普段以上に忙しくしていた鍾離が、最初の本読みに立ち会えたのは、鍾離がなんとしてでも立ち合いたいとスケジュールを調整したからだ。1話はタルタリヤと七七の関係と世界観みせのちょっとした事件を解決するストーリー構成になっているが、タルタリヤの俳優デビュー一歩といっても差し支えない日を自分で見たかった。贔屓だと言われればそうだと返すつもりもある。
    行秋とウェンティを信用しているため、それほど口を出す気もないが、初日に顔をだして起きたいのもあった。世界観など、行秋からの説明もあるため、可能な限りのキャストが参加するように伝えられている。
    「せーんせ。なんか会うのは久しぶりだね」
    声をかけられれば、白いシャツにパーカーというラフな恰好の衣装に身を包んだタルタリヤが居た。
    「ああ。練習と本番にはなるべく顔をだしたかったので、そのしわ寄せがな。今日来られて良かった。お前の演技も楽しみにしている」
    「アハハ、気が早いよ。まあ手を抜く気もないから、見てもらえるのは嬉しいかな」
    微笑んだ鍾離は、それから顔を上げるのにタルタリヤも振り返った。佐神がこちらに近寄ってくる。
    「鍾離、来られたんだな。まあ来るだろうと思っていたよ」
    「ああ。お前が色々と手伝ってくれたおかげだ」
    「なにそれ。俺聞いてないよ?」
    すかさず口をはさんだタルタリヤに、鍾離は柔らかく目を細める。
    「言っていないからな。お前も忙しいのに手伝うと言うだろう?お前には心身共に十分な休息を取ってほしい」
    「あのねえ、俺は子供じゃないんだよ。先生。唯嘉には手伝わせて俺には手伝わせてくれないわけ?」
    鍾離は腕を組みながらタルタリヤを見返した。
    「早朝にロケ地に実際に行って確認する仕事ばかりだ。写真では心許なくてな。唯嘉は運転と各役者の動きを簡単に演じてもらっただけだ」
    「余計に行きたかったけど!?」
    タルタリヤは拗ねたようだった。普段そんな子供っぽい反応はしないのだが、鍾離の前だとその傾向が強いので、甘えているのだろう。鍾離が困るのを面白く思っているという面もあるようだが、それが分かっていても困る。機嫌を損ねたくない。
    「拗ねないでくれ。公子殿」
    親しい者にしか分からない微妙な差異の困ったような声を出す鍾離に、佐神が肩をすくめた。
    「なんでも話すからだよ。社長」
    「公子殿に隠し事をする気はあまりないからな」
    「「あまり」なんだ?」
    鍾離は生真面目にうなずいた。
    「仕事では公子殿に言えないこともある」
    「それはそうだけどさ」
    誠実な対応に負けたのか、タルタリヤは溜息をついて仕方ない、と続けた。
    「許してあげるけど、食事に連れてってよね」
    食事に連れてけ、は、遠回しにセックスしたい、の要求でもある。
    生真面目にスケジュールを考えた鍾離に、やめとけと佐神が口を出す。
    「あまり寝てないだろう。お前が丈夫なのは知ってるが、倒れるぞ」
    「まあ、楽しくてな。倒れたらお前が面倒を見てくれ」
    「素直なことをいうと、本当に心配してるんだ。鍾離」
    人前ではあまり名前を呼ばない佐神にそう言われて鍾離は佐神の顔を見返した。
    「体調管理はタルタリヤの方がしっかりしている。仕事量が違うのは分かっているが、タルタリヤはセルフケアも熱心だ。お前も自分を大事にしてくれ」
    「……お前がそういうなら、気を付けよう」
    「俺一人ではタルタリヤの世話をしきれない」
    「ハハ、善処する」
    どちらが本音なのか、シリアスさを紛らわせるように言った佐神の台詞に、鍾離はありがたくその心配を受け入れることにした。佐神がプライベートに口をはさんでくることは珍しい。それだけ自分たちになじんでいるという証明でもあり、佐神が自覚しているのかしていないのか気になった。まだ確かめるには早いだろう。もう少し様子を見るべきだ。
    「俺だって体力に限りはあるんだけど?」
    不服そうなタルタリヤは、鍾離に抱かれるときにもっとしてくれとねだることもあるのだが、聞いてやるのは半々くらいだ。絶対に仕草に出すことはないが、腰がだるいとつい漏らしたのを一度聞いたことがあるせいもある。体力に余裕があるのと、負担がかかっていないのはまた別の話だ。タルタリヤもそれを分かっているせいか、回数に関して我儘はあまり言わない。と思ったところで、腕を引かれた。佐神も同時に引っ張られており、自分たちにだけ聞こえるようにタルタリヤは言う。
    「スケ合わせて二人で俺を潰してよ」
    囁くだけ囁いてにこりと、ファンが見れば黄色い声を上げるだろう微笑を浮かべたタルタリヤに、佐神が先に溜息をつく。
    「はいはい。スケジュールが合ったらな。ほら、そろそろ始まるぞ。行ってこい、主役」
    不服の声を上げる前に、そう口封じられたせいか、タルタリヤはじと、と佐神を見つめてから、鍾離と一緒に行秋とウェンティの方へと向かう。その後ろから佐神もついてくる気配がした。メインキャストなのは同じなのに、一歩引いている様子だ。
    「始めるよー!」
    ウェンティの声にぞろぞろとキャストが輪になる。企画の始動を実感する瞬間だった。


    探偵の性格や周囲の人間との関係性に細かいアドバイスを受けながら、本読みは順調に進んだ。休憩時間、ゼピュロスの人間たちと仲良く話している佐神の姿を鍾離は腕を組んで眺めていた。休憩時間、壁際には人はおらず、みんなそれぞれ親しい相手と会話を楽しんでいるようだった。
    「せーんせ」
    呼びかけられて振り向くと、予想した通りにタルタリヤが自分に近づいてくるところだった。
    「忙しいって聞いてはいるけど、今夜時間取れない?」
    「今夜は……」
    誘いだと察して鍾離は頭の中でスケジュールを組みなおそうと考え始める。
    「構わない。俺もお前と過ごす時間が欲しいと思っていたところだった」
    誰も聞いていないことを確認してから鍾離はそう口にした。声が知らず柔らかくなる。
    「企画始まってから毎日楽しいけど、先生と二人きりで全然会えないのが難点だよ」
    言いながらタルタリヤも佐神の姿を見つけたようだ。佐神は今はベネットにつかまっており、何かを熱心に語られているのを聞いている様子が見える。
    「俺がいない間は唯嘉に甘やかしてもらえば良い」
    「あのね、先生」
    言い聞かせるようにタルタリヤが口を開いたのに振り向く。
    「先生の代わりは誰にもできないよ。それとも、先生は俺がいない時間を唯嘉で埋めるつもりだった?」
    尋ねられて、単純な差し引きの計算のように考えていたが、指摘されて確かにその通りだと鍾離は思った。個性は唯一のものであることを理解しているが、鍾離の仕事において、一人欠けただけで回らなくなるような作り方をしない。
    「いや、そんなことはない。気を悪くさせたな。すまない」
    「良いよ。先生のそういうとこもかわいいなって思うしね。俺が先生に教えられることなんてほとんどないけど、こういうことだけは別かな」
    笑ってタルタリヤは壁に背を預ける。
    「本番を撮る前に先生とゆっくり過ごしたいんだ。俺のアイドルとしての未来を見てくれたのは先生だけだったからね。新たな道に一歩踏み出す俺を見ててほしいと思って」
    「見ている」
    返事をして鍾離は微笑んだ。
    「だからお前の撮影に合わせて俺のスケジュールをすべて調整した。かなり無理をしたが、その価値はあると思ったからな」
    そういう事情だったと知らなかったようで、タルタリヤは目を見張って鍾離の顔を見返した。
    「……さらりとそういうこと言うのやめてくれない?」
    うつむくようにしてタルタリヤは言う。
    「不覚……」
    ずるずると壁にもたれたまましゃがみこんで膝を抱えて頬を隠すようにしたタルタリヤが照れた様子なのに鍾離は、はは、と笑う。
    「輝いているものが放つ光は、一瞬ごとに違うものだ。そのすべてを見たいと望む欲ぐらい俺にもある。実をいえば俺より唯嘉の方がハードスケジュールだった。俺の公子殿に対する個人的な欲をかなえるために、お前と俺の間を行ったり来たりしていたからな」
    「……俺はアイドルだから、誰のものにもならないよ」
    呟くようなタルタリヤの言葉に、鍾離はうなずく。
    「分かっている」
    「なにそれ。俺が子供みたいだろ。……俺だって」
    続かない言葉に、それも分かっていると鍾離はその頭に手を置いて撫でると、すぐに手を離す。
    休憩がそろそろ終わる。
    「唯嘉に迎えに行かせる」
    立ち上がったタルタリヤはそう囁かれて鍾離を振り返り頷いた。
    こういう時に関係性を知っている人間が傍にいるのは楽だ。すべて都合よくやってくれるだろう。その代わり今夜は佐神にゆっくり休んでもらいたい。久々に彼は一晩きちんと眠れるだろうから。



    眠れない。佐神は煙草を口にくわえながら、パソコンの画面を眺めた。
    不眠じゃなく、仕事が終わらないので眠れないのだ。同時に3つの仕事を並行してこなすはめになってしまい、タフさには自信があるものの、ここ一週間は疲労を隠すのにも苦労していた。
    「まったく、割に合わないよ」
    どうして手を出してしまったのだろうか。何もかも失敗したと思うのに、後悔していない自分がいる。
    そもそも、鍾離を心配してしまったことが失敗だった。一人でも何とかできるあの男を手助けする意味なんてないような気がした。
    それなのに璃月まで来てしまった。それも問題のタルタリヤのボディガードをしに。
    鍾離を心配したのは、タルタリヤに黒い噂があったからだ。スネージナヤからのスパイである。という情報を聞いていた佐神は、鍾離からのメールをいぶかしんだ。実際電話をしてみれば、鍾離はまだ知らないようだったし、同時に恋人と来たものだ。心配でつい依頼を受けて、タルタリヤを探ってみれば、まったくの潔白なかわいい青年だった。これもまた頭が痛い話だった。そうなるとタルタリヤは何らかの陰謀に巻き込まれつつあるのだろう。そっちも心配で佐神は、どうにも現状から抜け出せなくなっていた。
    極めつけは、今回の合同企画に乗じて何かをするつもりらしい、という情報を聞いたことだ。その話はウェンティから聞いたもので、そういう「面白い」ことに関しては誰よりも耳ざといウェンティが手に入れた情報なら本当に何かあるだろう。
    紫煙を吐き出して佐神は画面を見つめる。楽し気に笑っているタルタリヤが映っていた。
    「濡れ衣を晴らす、なんて契約はしてないんだがな」
    普段なら手を引いている。こんなに身を削ってボランティアまがいの仕事なんてしない。分かっているのにタルタリヤと鍾離の顔が浮かぶ。それに佐神は溜息をついた。仕方がない。立ち上がると、窓際に立つ。佐神の住む高層マンションのカーテンは開けっぱなしだ。璃月の夜景を見下ろして佐神は夜に宣言した。
    「撮影が終わるまでに蹴りをつける。そうしたら──さよならだ」
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