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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    ブロマンス本進捗。どこまで出すか悩むな。
    ていくん(?)とタルの戦闘シーン楽しいです。

    「こんな風に行方不明になるのなら、あまり時間がないようにも思えるね」
    改めて事件についてお互いの情報を確認した後、タルタリヤは言った。
    「誘拐として考えるのであれば、そうだろうな」
    「まさか自発的に出て行ったってことはないと思うけど、確かに荒らされた痕跡はないね。可能性としては有り得るかな」
    タルタリヤは念のため鍾離と室内を調べ、今回の件に関係する情報が何も残されていないことを確認する。
    「犯人への糸が途切れたわけだけど、まとめるって言ってたってことは、口頭で伝えるにはまどろっこしい情報があったって話だ。他の稼業人に聞けば何かしらの情報が出てくるとは思うけど」
    とりあえず、この家から出て別のところで相談をしようとタルタリヤは家の外へと出る。
    周囲に聞き込みをしたために、何かあったのは覚えられているだろうが、皓然の失踪はすぐには気づかれないだろう。だが、面倒な疑いを持たれる前に、事件を解決するべきだった。
    扉の外に足を踏み出そうとした鍾離は、その前でぴたりと立ち止まる。
    「公子殿。元素視覚を」
    鍾離の声に、タルタリヤは意識を集中させた。すると入り口に元素の痕跡が残っている。だが、周囲を見回してみても、他の足跡はない。
    「少し時間が経ってるみたいだね。扉前にこれだけ痕跡が残っているなら、ここで何かしたってことだとは思うけど、それ以上は読み取れない。先生は?」
    「同じだ。元素を扱える何者かがここにやってきた、以上の情報は読み取れない」
    「相手にとって不足はないってことかな。楽しくなってきたよ」
    不謹慎さのある台詞だったが、鍾離は咎めることはしなかった。契約が絡まなければ、そして人と相対しているときに無礼でなければ、この男は人間に対しておおらかに感じる。
    「さて、俺は北国銀行に寄ってきたせいで、朝食を食べ損ねているんだけど、先生はどう?」
    「話を聞いた後、相談する時間があるだろうと考えて摂ってきていない。近くに璃月粥の美味い店がある。そこに寄って行こう」
    先に歩き出す鍾離に、勝手知ったる璃月か、と思いながらタルタリヤはそのあとに続いた。
    案内された店は朝から盛況だ。璃月では朝食のメインに粥が用意されることも多い。璃月の粥は出汁で炊かれており、特産の香料を使った食欲をそそる粥から、絶雲の唐辛子を使った刺激的な粥まで、様々な種類のものが用意されていた。付け合わせも自分で選べるようになっており、タルタリヤは鶏肉が使われた粥に、チ虎魚焼きと軽策荘風のサラダを選んだ。粥は香りよく、シンプルな塩と香料の使われたもので、鶏肉が柔らかく粥とともに溶けるようだ。鍾離も見かけに寄らずよく食べるため、朝食にしてはしっかりとした食事となった。
    「これからどうするかって話だけど、先生は他に心当たりがある稼業人いる?」
    「いないこともないが、彼が稼業人の中では情報に詳しく、また話しやすい相手だった」
    「確かに、稼業人らしくないからこそ先生が選んだのが分かったよ。それに大当たりだった」
    稼業人らしい稼業人に話を聞くのであれば、それなりの対価が必要になる。また礼儀にもうるさい者が多いだろう。モラなら余るほどあるから対価に問題はないが、新参の稼業人と聞けばタルタリヤは警戒されるはずだ。多少の変装では誤魔化せない相手もいるかもしれない。タルタリヤは少し考える。
    「ひとまず解散しよう。先生。俺も情報を探してみるよ」
    「分かった。俺も伝手を当たってみる」
    「よろしく」
    食後のお茶を飲んでしまうと、タルタリヤは先に立ち上がった。
    「じゃあ先生。また後で」
    「ああ」
    また後で、なんて挨拶をかける状況になるとは思ってもいなかったが、これはこれで面白いとタルタリヤは思った。


    着替えて北国銀行に戻ったタルタリヤは、ファデュイとつながりのある稼業人を何人か呼び出した。
    噂のことを尋ねては空振りし、口止めして帰すことが二度続き、タルタリヤはそう上手くはいかないか、と嘆息する。
    どうしたものかと考えながら、ひとまず急ぎの仕事を片付けてしまおうとタルタリヤは目を通し始める。良い案が浮かばないことには動きようもない。
    「公子様」
    ノックの後でタルタリヤの執務室に入ってきたのはエカテリーナだった。
    「公子様に会いたいと、李颯懍(リ・ソンリェン)様がお見えです」
    「李颯懍?」
    立ち上がって、一体何の用かとタルタリヤは相手を待たせすぎる前に応接室へと向かう。
    「ああ、公子殿」
    ソファに座って待っていたのは、老齢の男だった。颯懍は稼業人の中でも貿易商品に関わる仕事をしており、スネージナヤからの商品を扱うこともある。縄張り意識の強い男だ。
    「突然、約束もなく失礼をした」
    「いいよ。あんたには世話になってるしね」
    部下に紅茶を用意させながら、タルタリヤは颯懍と視線を合わせる。璃月茶で下手なもてなしをするよりも、慣れているものでもてなした方が相手の印象がましなことをタルタリヤは知っていた。
    「仲間に聞いたのですが、公子殿は何か調べていることがあるとか」
    話が回るのが早い、とタルタリヤは内心で感心した。口止めが意味をなさなかったというよりは、稼業人が自衛のために情報を集めた結果だろう。
    「ああ、あるよ。単刀直入に言うけど、稼業人の中で、奇妙な高額報酬依頼の噂を聞いたことはないかい?」
    タルタリヤの問いかけに颯懍は溜息をつく。
    「やはり、あの噂ですか。稼業人の間にしか出回ってないのによくご存じだ」
    ゆっくりとした颯懍の口調は重々しさを感じる。侮られていたり、見下されていたりするような分かりやすい表情はないが、若造とは思われているのは感じていた。だがそれもタルタリヤには好都合だ。その若造らしい無作法もタルタリヤの交渉に利用できる。
    「お友達がいるだけだよ。訳あってその噂の出元を探してる。稼業人の作法に疎いから不躾で申し訳ないけど、何か知っているのなら見合う対価を支払わせてもらうよ」
    璃月の人間と違い、スネージナヤの人間は直球な言い回しを好む。タルタリヤも腹の探り合いをするよりは、その方が性に合っていた。ファトゥスという立場上、あまりそのような明快な交渉をしたことはないが、今回は私用だ。
    そこそこ付き合いのある颯懍なら、腹を立てることもないだろうとの計算も合った。
    考え込む颯懍の前にポットとティーカップが用意され、紅茶が注がれる。タルタリヤは颯懍が先にカップを選んだ後に、カップを取ると、今度は先に口を付ける。
    「対価よりも、公子殿にはお願いしたいことがあります」
    そう口を開いた颯懍が意外で、タルタリヤはカップをテーブルに置く。
    「聞こう」
    「帰離原の東の方に、我らの拠点の一つがあります。最近、そこへ行く馬車が立て続けに襲われる事件がありました。犯人は長身の男で槍を使うということしか分かっていませんが、その男を捕まえていただきたいのです」
    「宝盗団ではないってことだよね」
    「ええ。単独で、その周辺をうろついているようだと言う話です。情報が少ないのは、男に出会って無事に帰ってきた者が居ないからです。我々では歯が立たない相手です。武芸に秀でた公子殿に、何とかしていただきたいとこうしてお訪ねした次第です」
    時間は惜しいが、颯懍がこれ以外の取引をするとは思えなかった。わざわざこうして尋ねてきたということは、他の選択肢はないということになるだろう。
    「良いよ。じゃあそれで情報交換といこう。襲われた現場の詳細な情報を教えてくれるかな」
    話を聞き終わって一度颯懍を帰す。道案内させて足手まといになられるよりは、一人で行動した方がタルタリヤには都合が良かった。荷運び人が襲われたのは夕暮れから夜ばかりだという話を聞いた。今から出かければ夜には到着するだろう。
    鍾離からの連絡がないことを確認し、タルタリヤは出かけた。
    颯懍の組織は道中の宝盗団に備えるため、荒事に慣れているはずだったが、歯が立たないとは、期待させてくれる。
    タルタリヤはエカテリーナに一言、出かけることを伝えると、颯爽と北国銀行を出た。

    帰離原は璃月への大きな道が通っているため商人の往来が多い。だが、教えられた拠点は道からかなり外れたところにあり、人目にもつきにくそうだ。こんなところに拠点を設けるのだから、後ろ暗いところがあるのだろう。それを話してまでタルタリヤに始末して欲しいとは、大きな被害が出たということだ。
    夕暮れ時に差し掛かり、夜が訪れてタルタリヤはやがて足を止めた。
    行く手、およそ20メートル先に、一人、誰かが立っているのが見えた。今夜は月が明るすぎる。
    身長からして男だろう。タルタリヤと同じくらいの長身に見える。白い袖のない服のフードを深くかぶり、伸びた腕は奇妙に黒いように見えた。抜き身の剣を手にしており、いつでも振り上げられる力が込められている。ただ黙って立っているその男は、タルタリヤの方を向いたまま静止していた。
    「君」
    タルタリヤはいっそ快活な調子で呼びかけた。
    「君がここ最近、このあたりを騒がせている襲撃者って君かな?」
    この距離なら弓のが早い。意識をして背に愛弓を現すと、タルタリヤは相手の反応を伺った。
    男は沈黙したままだ。身じろぎ一つしないことに、何を考えているのか読みにくい、とタルタリヤが思ったその瞬間だった。男は足を踏み出す。
    悠然とした印象のその動きにタルタリヤが背で弓を握り、その体勢のまま矢をつがえる。前に構えずに射る方法は、相手への間合いに牽制にもなる。胸を狙って放った瞬間、男は顔を上げた。
    「──っ!?」
    月よりも重い金の瞳がタルタリヤを捕らえる。
    男が剣を薙ぐと放った矢が折れて吹き飛び、タルタリヤは次の矢をつがえて男を狙う。間を詰めてくる男に一矢、二矢と男の側面に回りこみながら射かける。狙うのは頭だ。ぎりぎりを避けるように調整し、タルタリヤが放った三矢目の尾羽がフードを引っかけて男の相貌を露わにする。
    「やあ、こんばんは。良い月夜だね。……君は鍾離先生、ではなさそうだけど」
    月光に濃茶の髪が照らされて、その月光よりも鮮明な錯覚をしそうな金の瞳がタルタリヤを見据えている。良く見慣れた顔立ちはただ無感情にタルタリヤを見つめていた。
    黒い腕には岩元素が通る金に光る線があり、フードから出された長い毛先も岩元素を帯びて金に光っている。
    濃い元素の気配。
    人間じゃないな。とタルタリヤは笑みを浮かべた。人じゃないものと戦うのも慣れている。
    「だんまりかい?せっかくの手合わせなのに残念だよ。でもストイックな闘争も嫌いじゃな──」
    話している途中で急に刀を振りかざし、一気にタルタリヤの眼前まで出てきた男に、タルタリヤは笑う。横から振られた剣を側面を弓で迎え撃つと、鋭い金属音。
    「アハ。見れば見るほどそっくりだね。先生に双子がいる可能性なんてないし、となると妖魔の類かな?」
    話しながら、猛攻を弓で払い、いなしながらもタルタリヤは少しずつ後ろへと追いやられる。タルタリヤは一際強くたたきつけられた一撃を大きく弓で払い、相手の腹を足で蹴り飛ばす。
    「っ」
    息の音が聞こえた。呼吸はしているようだ。切れば血も出るのだろうか。疲れはどうだ。集中力の途切れは?
    そしてもう一つ、考えることは殺してしまっていいのだろうか、だった。
    颯懍は殺していいと言ってた。とはいえ、鍾離と瓜二つの人間ならば、生け捕りが良さそうだ。
    一瞬だけよろめいた男に、タルタリヤは弓を振り上げ、薙ぎ払うように男の頭を殴った。
    タルタリヤが愛用している冬極の白星は、殴るのにも都合が良いことに、尖った先端がいくつもついているデザインだ。
    上手く入ったな、と舌なめずりをするように男の反応を見やったタルタリヤに、男は顔を上げる。その表情に苦痛の色はない。
    結構痛かったはずだけど、すぐに体勢を整えて斬りかかってきた男を避け、矢をつがえようとしたタルタリヤは、はっとした。男の体の切り替えしがさっきより早い。今までの速さを上回っての反応に、ぎりぎりで合わせて剣を受け止めた弓がしなる。
    男の足が上げられたのに、よけきれずに蹴り飛ばされてタルタリヤは後方によろめく。
    「さっきのお返しとは気が利いてるね」
    軽口を叩きながらタルタリヤは月光の下の男を見据える。今まで違和感はなかったが、男の動きが妙に滑らかになったように感じた。動きも「覚えた」や「真似した」というよりは、「思い出した」ようなこなれがある。
    男が剣を構える。次の瞬間にはタルタリヤの間合いに入っている。予想済みのタルタリヤは武装を荒波へと変えていた。両手の剣を交差して刃を受け止める。押し負ける予感に従ったが、思った通り男の一撃はタルタリヤが歯を噛みしめるほど重い。だが弾けないほどじゃない。防ぎきって男の体制の隙を見つけると、タルタリヤは体をひねり、右手の剣を振り下ろす。上手く行けば胸元を切り裂くはずだった軌跡は空振りし、振り上げた左の剣は剣で受け止められる。刃が擦れる音。お互い距離を取り、タルタリヤは双剣の柄をぶつけるようにつなげると、両剣にする。
    見据えたままの男は黙ってタルタリヤを見据えていた。その表情に疲れも呼吸の乱れもない。
    「君、一体何者?」
    返事はない。男の腕の線にすっと岩元素の光が走っていったのが見えた。
    何かを呼ぶようにその手が上に掲げられ、それに応じたように月が陰った。愚策だとはわかっていながら、タルタリヤは敵から目を離し、本能が鳴らす警鐘に空を見上げる。
    岩王帝君は、岩槍を降らせたのです──。
    いつか聞いた講談のフレーズが頭を過ぎる。月を遮ってその頭上、鋭く尖った無数の岩の切っ先が自分を見下ろしていた。
    「────!」
    号令のように無機質に振り下ろされる手。
    降り注ぐ岩の槍に、タルタリヤは成す術もなく────。


    犯人の目的が見えてこない。
    鍾離は明るい日差しの注ぐ璃月の街中を散策していた。歩いているのは思考をするためだ。散策をすることは鍾離にとって様々な意味を持つが、大抵思案事をしていることが多い。今日も例に漏れず考え事をしている。
    今回の事件で鍾離は、この璃月に滞在している悪党の手伝いといったところだが、凡人へと転じたとはいえ、この璃月を脅かす者がいるのなら、補佐という形で手伝うつもりではいた。その補佐相手がファデュイの「公子」なのだから、浮世は分からないことばかりだと6000年の時を経た鍾離もいまだに思う。
    かの青年が気紛れに事件解決に身を乗り出さずとも、何らかの形で鍾離の元に事件の依頼は転がり込んできたようにも思えるが、実力のある人間に直接事件が預けられたことを幸いだとも思っていた。
    鍾離の知る限り、張偉は神の目を持つ男だ。属性は炎で、神の目を持っていることによる傍若無人さはあるものの、鍛錬を惜しまない男でもある。その男が行方不明になったというのだから、千岩軍が動いてもおかしくない大事だ。動かない理由は一重に彼が稼業人であるからだ。いわゆる裏社会を暗躍するような人間が七星からの守護を受けることは難しい。それで依頼主が選んだ相手が「公子」タルタリヤだということを、鍾離は面白く思っていた。人選は最適だった。そして度胸も運もある。解決した時分には会ってみたいものだと思い、鍾離は思考を事件へと引き戻す。
    腕の立つ稼業人を何人も攫う理由、それが今鍾離が考えていることだ。
    怨恨なら既に被害者の数が多すぎる。無差別な反抗というわけでもない。きちんと稼業人の、それも実力者を選んでいる。
    犯人も元素か、魔法やなんらかの術が使える人間ではあるはずだ。
    稼業人を狙っているのは、表沙汰にならないことを期待した可能性が高い。実際、璃月で行方不明人の噂は全く流れていない。耳ざとい商人もまだ口をつぐんでいる。稼業人達は噂を知りながら沈黙している。誰が敵か分からない現状では、正常な反応だった。
    不明点が多いが、相手は極秘裏に何かを行いたいと考えているはずだ。そして、実力のある人間がそれに必要だということ。
    既に鍾離が知る稼業人の何人かに手紙を送ってある。タルタリヤと別れてすぐに家に戻り、書いて届けさせたものだ。早ければ夕暮れに返事が届くだろう。一人にでも会って話がつくのなら上々だ。
    色よい返事がなくとも、一度手紙を送っておけば、不躾な訪問も許してもらいやすい。一刻も早く見つけ出したいところだが、時間をかけるべきところは急くべきではない。
    鍾離は港まで出たところで足を止め、それから家に引き返す。
    「あっれ~鍾離さん?」
    ところをそう呼びかけられてぴたりと足を止めた。
    振り返れば想像した通りに、往生堂の現堂主が立っている。その特徴的な瞳が自分を見上げているのを鍾離は見下ろした。
    「今日も散歩?」
    「ああ。堂主殿は」
    言いかけてなんだか楽しそうににんまりと笑っている胡桃に鍾離は珍しくも言い淀む。楽しそうだなと下手に言って何かの手伝いを頼まれたら困る。
    「元気そうで何よりだ」
    言葉は不自然な間を開ける前に無難なところに着地した。
    「鍾離さんはなんだか忙しそうだね~?仕事?」
    「ああ。そんなところだ」
    「じゃあ手伝っては貰えないか」
    残念そうな胡桃に、鍾離は声をかける。苦手ではあるが、困っていることがあるのなら程度には寄るが助けてやれるだろう。
    「何かあったのか?」
    「調査中の事件があって、なんでも、亡霊が出たとか」
    「亡霊か」
    「そ~なんだよね、亡霊なんて!往生堂の仕事かな~?って調査に乗り出したのは良いんだけど、何にも手掛かりが見つからなくて困ってるんだよ。手に入れた噂も、商人が夜に明かりも持たずにうろうろしている人間を見たって話ばかりで」
    「夜に明かりも持たず?璃月の近くか?」
    確かに奇妙な話だ。問われて胡桃はえーと、と思い返す仕草をする。
    「望舒旅館から璃月に向かう途中でって話は聞いたけど、それ以上のことはなーんにも。ちょ~っと広すぎるよね」
    「確かに範囲が広すぎるな。何か俺に手伝えることはあるか?」
    鍾離の問いかけに胡桃は笑う。何がおかしいのかは鍾離には分からないが、鍾離と話すときでも彼女は良く楽しそうな顔になる。胡桃は首を横に振った。
    「良いよ。鍾離さん、仕事中なんでしょ?噂の性質的に調査を始めたけど、被害が出ているわけでもないから急ぎじゃないし」
    「そうか」
    「でもその仕事が終わったら手伝って欲しいな」
    「ああ」
    気遣いはある(多分)が遠慮はない胡桃の台詞に鍾離は笑みを浮かべて快諾した。苦手な性質の相手だが、その仕事姿勢に好感を持っている。癖はあるが「分かっている」彼女の立ち振る舞いに助けられてもいる。
    「ありがとう、鍾離さん!じゃあ鍾離さんも何か分かったら教えてね~」
    手を振って立ち去っていく彼女を見送り、鍾離はふむ、と思案した。
    今調査している事件に関係があるかは分からないが、気にかかる。何かしらのつながりがあるかもしれない。今得た情報だけではいささか広範囲にすぎるので、もう少し情報を集めてみてから調査してみるのが良いだろう。
    鍾離は足の向きを変えて歩き出す。日が落ちてきた。もし先方がすぐに返事をしたためてくれたのなら、そろそろ手紙が届く頃合いだ。
    璃月の街中を歩き、鍾離は自宅へと戻る。
    夜になっても返事は一通も届かない。配達人が手紙を受け付けているぎりぎりの時刻まで待ったところで、戸を叩く音がした。
    「配達です」
    その声に戸を開けた鍾離は、玄関先に立っていた男と目が合う。その手に奇妙な球が握られているのが見えた。
    次の瞬間、
    「ぐっ!?」
    ふいに酷い眩暈に襲われて膝をつく。
    「ぅ、ぁ……!」
    思考を働かせる余裕がない。脳内や体内をかき回されているような気持ちの悪い感覚に床に爪を立てる。
    「あんた……」
    男の驚いた声がする。
    「岩王帝君に似てるな」
    その声を最後に、鍾離は意識を失った。
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