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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    さぶな先生夢。どむさぶ続き。

    体調が良い。
    琉嘉と初めてプレイをしてから、まるで体に流れていた澱みが洗い流されたかのようで、つられるように機嫌も上々だった。あの日は自宅に戻ってからぐっすりと眠り、起きて朝日が照らす璃月を眺めて晴れやかさに、一日散策することを決めた。
    こうして症状が改善されてみると、琉嘉が言った通り、プレイをしないことにより随分とストレスが掛かっていたようだ。戸惑うことの方が多かったが、その後の安堵感や充足感のことを考えるとそう悪いものではないのではないかとまで感じた。ただ、他人に命令される、という感覚に馴染みがなかったため、それに馴染むまで少し掛かりそうだとも感じている。相手が琉嘉でよかったとも思う。どのDomも職業だからだろうが、きちんと庇護の意思を持ってくれていた。ただ、琉嘉にはそこに理解が加わっている。だが、旅人が鍾離の根幹について何かを話したとは考えていない。最中はずっと琉嘉を観察していたが、鍾離の話を聞いて自分で結論を出したような印象だった。
    次の会う予約を取る際に琉嘉と話したことを思い返す。
    「プレイの周期は人に寄る。経済的に問題がないのであれば、次は1週間後にしよう。その後、少しずつ周期を伸ばして、あなたの周期を見極めるのが良さそうだ」
    財布を持ち歩くことを失念しがちで、それを旅人に指摘されたりもするが、往生堂の客卿としてそれなりの収入はある。また、講演などの依頼も受けているため、凡人となった身なれど、モラに不自由はしていない。琉嘉の契約料は確かに最初の二人に比べて高いものでは合ったが、不当とは思わなかった。
    「貴殿は多忙だと聞いているが、1週間後の予約が取れるのか?」
    「問題ない。その日は空いてる」
    その言葉の通りさらりとした声音だったが、今日を指定してきた性急さを考えると気にかかる。鍾離が考える素振りをすると、琉嘉は付け加えた。
    「その日は元々オフなんだ。でも新規の客の体調に合わせて、仕事を調整するのも仕事のうちだ。気にしないでくれ」
    「やはりそうか。貴殿の誠意ある対応には感謝をしないとならないな」
    鍾離の言葉を受け入れるように、琉嘉は微笑を浮かべる。その反応を見て上手な対応だと思った。人間は都合よく相手の反応を捉える。彼の柔らかな微笑は、契約者を安心させるだろう。頭の良い人間なのだろう。確かに調心者に向いている。そんなことを考えながら鍾離は1週間後の予約を取った。
    鍾離は、一週間の間に、自分の体調の変化を事細かに探ることにした。あの不調(ドロップ)の感覚と、現在の好調の感覚を記憶している。それなら、その間の自分の変化も照らし合わせやすいだろうと考えた。不調と好調の落差がありすぎるため、多少の振れ幅はあるだろうが、少しずつ修正していけばいい。
    ここ一週間の体調は良好だった。取り立てて自覚するものはない。脈拍などにも異常はなく、五感に影響が出ることもない。
    鍾離は白駒旅逆の前回と部屋を予約した。自宅に呼ぶことを考えたが、鍾離の部屋には高価な調度品がたくさん置かれている。琉嘉のことを信用しているかと聞かれると、今は見定めている最中だ。自宅に呼ぶには、もう少し時を要するだろう。
    琉嘉は先に待っていた。時間よりも少し早く到着した鍾離よりもずっと速く到着していたようだ。
    ソファに座り、少し離れたところで立ち止まった鍾離に、琉嘉は口を開く。
    「こんにちは。鍾離先生」
    琉嘉は手元の本に目を通していて、視線は合わないが、その声は優しい。挨拶を返すと琉嘉は持っていた本に何かを書き込み始める。記録書だったらしい。鍾離は丁寧にここ一週間の自分の状態を説明した。
    「じゃあ、体調は良いんだ?」
    「ああ。今のところ安定している」
    鍾離の返事に良かったと頷いて、琉嘉は考え込むようにする。
    「しばらくはあなたが、どういう性格を持ったSubなのか確認していこう」
    「Domに対してどのような欲求を持つか、という話だろうか」
    「正解だ。褒められたい。という欲求は大抵共通しているが、世話をしたい、信頼を与えたい、または支配されたいから、お仕置きをされたいまで。人により様々な欲求を持っている。その欲求を理解し、その人に合ったプレイをすることで、ダイナミクスをより安定させることが出来る」
    「それならば、貴殿の性格のことが聞きたい」
    琉嘉がどんなことをすれば喜ぶのか。この男の未だ知らない底を覗き込もうと鍾離はその顔を見つめる。
    「あなたがきちんと自分の欲求を理解出来たら、教えるよ」
    そんな返事をして、ぱたんと琉嘉は本を閉じる。
    「心の準備は?」
    「とうに整っている」
    「セーフワードは?」
    「玖耀のままで変わりない」
    「それじゃあ」
    琉嘉が顔を上げる。ようやく視線が合った。その黒い瞳に、どきりと心臓が重く打つ。
    「始めようか。come《おいで》、鍾離先生」
    ぞわりと背筋を何かがのぼっていった感覚があった。
    体がじんわりと熱くなり、思考がゆるやかになっていく。明確に記憶しておくために良く見ている視界が、琉嘉だけを映すようになる。自分にそんな状態を許したことが今までにない。それが良いものか吟味して、鍾離は制止をかけていた理性をそっと離してみた。ゆっくりを足を踏み出して、command《命令》に従う。。琉嘉はずっと鍾離を見つめ、鍾離のことをつぶさに観察しているようだった。command《命令》に抗ったら怒られるのだろうか?好奇心にも似た疑問と、怒られることに対する恐怖が同時に湧きあがる。何かを恐れたことなどそうない。琉嘉の前で立ち止まると、琉嘉は微笑んだ。
    「よく出来ました《good》。じゃあ向かいに座って、鍾離先生」
    ソファに腰を下ろすと、琉嘉は少し身を乗り出すようにして鍾離に問いかけてくる。
    「鍾離先生は命令されるのが嫌?」
    「嫌……ではないが、戸惑いがある」
    「そうか。話してくれてありがとう。先生は俺にして欲しいことは思い浮かぶ?」
    「いや……」
    鍾離は琉嘉を眺めた。よく整った男だ。身支度も整っているが、隙が無いわけじゃない。例えば、少し睡眠の質が悪そうな顔色をしているだとか、彼にはこの前見かけた、一点物の控えめに付けられた璃月結びが上品なあの服が似合うだとか。ふむ、と思案するように軽く握ったこぶしを口元に持っていく。
    「貴殿の世話を焼くのは楽しそうだ」
    それを聞くと琉嘉は少し考えると胸元のボタンを外す。
    「留めてみて。先生」
    立ち上がって鍾離は手を伸ばす。ボタンに触れ、それを一つ留めると湧き上がる感情に小さく笑みが浮かぶ。その表情を眺めていたのだろう。琉嘉が問いかけてくる。
    「楽しい?」
    「ああ。全部留めさせてくれないか。試したい」
    琉嘉は笑うと、良いよ。と目を細める。
    「思ったよりも積極的で安心したよ。慎重なんじゃないかなと思っていたから」
    「新しい知見を得るのは楽しい。この行為も同じだ」
    外されていくボタンを片端から留め、服に皴がないか確認し、靴の汚れをみてやって、それから顎に指をかけて顔をあげさせ、よく観察する。
    「仕事が忙しいのか?」
    「どうしてそう思うんだ?」
    琉嘉の瞳は、光の当たるところで見ればおそらく焦げ茶だろう。名前からも思っていたが、矢張り璃月の人間ではない。
    「目元にうっすらと隈がある。肌の調子や、前回会った時との些細な差異を元に尋ねてみた」
    「うん。ちょっと疲れてはいる。気づいてくれてありがとう」
    嬉しそうに微笑んだ琉嘉に、これも芝居なのだろうかと考える。おそらく本心ではあるのだろう。慣れた風ではあるが、喜んでいると感じるからこうもあたたかくなるような心地なのだ。
    「貴殿が心配だ。今日は俺のために休日を返上したと聞いている。Domにとって行為がどれほど負担になるかは分からないが、今日は俺のSubとして性格がつかめただけで十分だろう」
    「負担じゃない。あなたも知っての通り、プレイはDomにとっても大事なものだ。あなたとの行為は俺も満たされて心地良いよ」
    声がずっと優しい響きをしている。Domというよりは導き手のように思えた。
    宵の時間に琉璃百合が花開くちょうどその場に居合わせたように。
    軒先に霄灯が灯った璃月を見下ろしたその時のように。
    胸の奥に湧き上がる感情を、鍾離は歓びだと知っていた。
    琉嘉が本当にこれで満たされているのかは分からないが、少なくとも鍾離にとって琉嘉とのプレイは相性がいいように思えた。
    「でも、そういう話が出るってことは、鍾離先生は今もう満たされているって認識でいい?」
    「ああ」
    「分かった。じゃあ次の予約は10日先にしてみよう。その間も、今日報告してくれたみたいに、自分の調子を見ておいて。鍾離先生は客観的に物事を見るのが上手だ」
    さわっていいかと問いかけられて頷くと、裾を優しく引かれて身をかがめさせられ、頭を撫でられる。
    「good《よく出来ました》」
    その瞬間、今日の予約がこれで終わることに名残惜しさを感じた自分を少し意外に思った。素晴らしい芝居を見た時や講談を聞いた時、似たような気持ちになったことはあるが、まだ二回しか会ったことのない相手に抱く感情ではなかった。まるで友人に抱くような信頼感だ。
    「じゃあまた。鍾離先生」
    「ああ。また次回もよろしく頼む」
    見送る琉嘉に笑みを浮かべて、鍾離は部屋を後にした。

    琉嘉とのプレイが始まっても、鍾離の生活に変化はない。予定が一つ加わっただけだ。
    いつも通りに往生堂からの仕事をこなし、講演や研究会に呼ばれるなど、穏やかな日々を送っている。
    「しょーりー!」
    遠くから自分を呼ぶ聞きなれた声に顔をあげれば、旅人とパイモンがこちらへ向かっているところだった。待ち合わせの三杯酔は三時どきは人も少なく、会話を楽しむのにちょうど良い時間帯ともいえる。
    「顔色良さそうだな」
    飛んできたパイモンが一番にそう言ったのに、心配をされていたのだと鍾離は笑みを浮かべる。
    「世話になったな、二人とも」
    「ううん。俺たちは仲介しただけだから」
    返事をして向かいに座った空は、鍾離の顔色を確かめるようにすると頷く。
    「本当だ。体調良さそうで良かった」
    「ああ。ありがとう。お前たちのおかげで今は安定している」
    「その様子じゃ、琉嘉にいじめられてはないみたいでよかったぜ」
    「いじめられる?」
    思いがけない台詞にパイモンを見やった鍾離は、視界の端で旅人がああ……と頭を抱えたそうな表情をしたのを見た。
    「パイモン……」
    「ん?」
    テーブルに届けられたモラミートにかぶりつくパイモンは、不思議そうに首をかしげる。
    「言っちゃ駄目だったか?でも琉嘉は隠してなかったぞ」
    「それは確かにね。鍾離先生、琉嘉からなにか聞いてない?琉嘉自身の性格について」
    問われて鍾離はいや、と考えるまでもなく返事をする。
    「思い当たることはないな。そのようなことをお前たちに言ったのか?」
    「うーん……」
    悩んだ素振りをする空に、パイモンもうーん、と腕を組む。
    「琉嘉から聞いてないなら言っちゃダメだったかもな……」
    少ししょげたような表情を浮かべるパイモンに、空が口を開く。
    「琉嘉ならあらかじめ口止めしていたと思うし、知られても構わないと思っているんじゃないかな。でも俺は契約といっても、パートナーなら琉嘉に直接聞いた方が良いと思う。今までの会話でなんとなく察しはついていると思うけど、お互いの性格については知っておいた方が良いと思うから」
    琉嘉が機転の効く人間であることはもうわかっている。
    それに、信頼関係を築く相手なら空の言う通りだろう。
    「なるほどな。そうするとしよう。俺も彼の性格については知りたいと思っていた。モラでパートナーの契約をしている身だ。彼は一方的なケアをするつもりのようだが、俺も相手の世話を焼くのが好みのようだからな」
    「鍾離先生がダイナミクスに馴染んできているようで良かった」
    安心したように言った旅人に、本当に得難い友人を得たものだと鍾離は思った。このような会話が出来るのも、空たちを信頼しているからであり、また彼らも自分を信頼してくれているからだ。俗世に居ようと、悪意とは無縁の彼らと親しい会話を交わすことは、凡人としての人生で値のつけられないものだと思う。これはダイナミクスとはまた違う充足に満たされる。
    「お前たちは、ダイナミクスがないと聞いてはいるが、理解が深いな」
    「そりゃあ旅をしてきて、たくさん問題や依頼に出会ってきたからな。鍾離より知ってることもあると思うぞ」
    胸を張るように腰に手を当てたパイモンに、鍾離は笑みを浮かべる。
    「ああ。そのようだ。また困ったことが合ったら、お前たちに相談をしよう」
    「おう。任せろ」
    頼られて嬉しそうなパイモンに、旅人も任せてというように頷いた。
    それからお互いの近況の話など和やかな会話が続いたが、それと同時に鍾離は二人から聞いた話から推測できる琉嘉のダイナミクスの性格について考える。
    契約書には確かにDom側のケアについては記載されていない。だが、ケアをしないとも書いてはない。
    ダイナミクスについて書かれた文献で、DomとSubがお互いの性格に合ったプレイをすることで、さらにプレイの質が高まると書かれていることが多い。琉嘉を満足させることは、巡って鍾離の満足にもつながることだ。どういう影響が出るかは分からないが、もしより安定した精神状態を保てるのであれば、試してみる価値はあるだろう。
    知識を得る方法は万とあるが、実際に経験できる機会は少ない。そして経験からしか得られない知見もある。その点に置いて、鍾離は経験することに意欲がある。
    次回会うときに話す内容が増えたと、頭の中に一つ記載を多くして、鍾離は友人との会話に思考を傾けたのだった。


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