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    rani_noab

    @rani_noab
    夢と腐混ざってます

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    rani_noab

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    どむさぶ。さぶの先生。セーフワードについて。どむさぶの独自の設定を含みます。ついったに乗せてた進捗にぷらすしたもの。

    次に琉嘉と会う時までに考えようと思っていたことがある。
    すぐに答えが出ずとも構わないものだ。そしてすぐに答えが出るとも思えない。
    それは自分が琉嘉という男に対して抱く興味についてだった。
    友かと問われたら否と答える。友のようだと思ったこともあったが、彼はそうではない。
    鍾離にとって友とは、その歩みを認める相手だ。助言を与え、過てば苦言を呈し、時には共に歩み、そしてその背を見送る者だ。行く末を見たいと思う相手でもある。この感覚が凡人のものとは差異があるのは自覚しているが、今のところ変えようとは思っていない。
    琉嘉に抱いている感情はそれとは異なっている。彼に対して抱いているのは、どちらかというと赦しの感情だ。平等と契約を物事の礎にしてきた鍾離にとって、赦す、という感情にはあまりなじみがない。契約を破った者に対して、鍾離は赦しではなく、対価を支払わせている。そこには私的な感情は含まれていない。では私(し)としての経験といえば、立場ゆえに、鍾離が友と呼ぶ相手が少なかったのもあるが、その中でも鍾離を怒らせることとなれば、数は少なくなる。友を赦す経験と照らし合わせたときに、赦す感情ではあると思えるが、やはり琉嘉を友だとは思っていない自分がいる。
    自分の正体を明かせるほどの繋がりもないからだとも思えるが、魔神とはいえ、心があるからにはすべて割り切ることなど出来ない。やはりしばらく答えは出なさそうだった。
    そんなここ10日ほどの思考を思い返して、鍾離は白駒逆旅に入った。
    Subについてもまだ経験が足りない。毎回毎回得られる感覚は新しく、鍾離はSubとしてプレイすることを気に入っていた。Domだったとしたら琉嘉とはすぐには出会えなかっただろう。琉嘉のようなDomの在り方に辿り着くまで少し時間を要したかもしれない。
    鍾離が扉をノックし、部屋へと入って室内の空気に足を止める。
    琉嘉はソファに座っていた。
    不遜に足を組み、にこりともせず背もたれに寄りかかっている。
    「早く扉を閉めなさい」
    その言葉に僅かに込められている命令のcommandに鍾離は、丁寧にドアを閉めると、琉嘉の前まで歩いて行った。視線の動きが重たくけだるそうに見えるが、相手を恐縮させるための演出だと察しがついた。察しがついているのに、琉嘉から目を離せない。危害を加えられると感じている訳ではないのに、大切なものを守る殻を躊躇なく叩き割られるような気がしてしまう。それは鍾離が鍾離でいるために大事なものだ。
    「何を黙ってるんだ?俺に言うことがあるだろう」
    問われて鍾離はいつも通りに、自分の体調について説明した。何の反応も見せず黙ってそれを聞いていた琉嘉は、それから淡々とした声音で言う。
    「今回、何をするか覚えてるか?」
    「ああ。ちゃんと覚えている」
    「セーフワードを確認する。口に出して」
    「玖耀だ」
    視線が重たげに持ち上げられる。そこでようやく琉嘉の口元に笑みが浮かんだ。それが普段の柔らかく甘やかすようなものと真逆に、人を虐げる意図を持ったものであることにぞわりと背筋を何かの感情が這い上がる。
    「いい子だ。忘れるなよ。それがあんたの、蜘蛛の糸だ」
    知らない言い回しだったが、それが鍾離を思うが故の警告だと、意味を問わずとも分かった。
    別に構わない。
    琉嘉は信頼に足る男だ。


    従えない命令を出し、背いたところでglareを使った仕置きをする。その最中に、セーフワードを言わせるのが琉嘉の目的だった。鍾離とてそれに気づいていないはずはない。ロールプレイめいた流れでも構わないのだ。セーフワードを口にすることが重要なのだから。SubはDomをより怒らせるのではないかと、セーフワードを我慢してしまうこともままあるが、セーフワードはDomのcommandと同じく、明確な拒絶をDomに与える。冷静と虚脱、無気力を罰としてDomに与えるのだ。琉嘉がいつもの甘やかす態度を殺しているのは、相手に危機感を覚えさせるためだった。琉嘉が鍾離に甘い分だけ、鍾離は琉嘉に甘いのを良くない傾向だと考えていた。
    仕事としての契約に情を持ち込むべきではない。琉嘉は過去に何度か警察の世話になったことがあった。今思い出しても憂鬱な記憶だ。庇護するべきSubをきちんと庇護できなかった。きちんと躾けられなかったということだ。何度か失敗し、よくあることだと慰められながらも、プロのDomとしての資格を取ったところだった。
    美しい男が目の前で服を脱いでいる。命令したからだ。そして彼は命令に従った。
    上着の釦がゆっくりと外され、脱いだ服は丁寧にたたまれてソファに置かれる。
    裾の長いベストもひとつひとつ落ち着いた素振りで釦が外されて、するりと肩から下ろされた。トパーズで作られたブローチをネクタイから外し、ことりとテーブルの上に置かれる。しゅるりという衣擦れの音と共にネクタイが引き抜かれ、畳まれたベストの上に落とされた。
    鍾離は指輪を外す。厚く、槍を握っても滑らない素材で作られ得た手袋を外すと、普段は隠されていた肌が覗く。綺麗な指先がシャツの釦にかけられた。外されていくと同時に胸元の素肌が露わになっていく。
    その様子を眺めながら、琉嘉は内心で深く溜息をついた。どうしてこうなってしまうんだろうなあ。
    でも予想はしていた。stripくらいでは、鍾離は動じないようだ。
    しっかりとひきしまった上半身が露わになったところで、琉嘉は口を開いた。
    「そこまでで良いよ。おいで、鍾離先生」
    ぽんぽんと膝の上を叩くと、ソファに膝を乗せるようにして素直に膝の上にまたがってくる。この距離感も平気なのも意外だった。人間とは一線を引いていると思っていたのに。
    人一人の重みが膝に加わる。身長が高い男が見下ろしてくる。
    俺が困ってもしょうがないんだがな、なんて思いながら見返す。
    「困った人だな。命令に背いて欲しいのは分かってると思うんだが」
    「そうは言われていないからな。commandに従ったまでだ」
    淡々と返す鍾離が本心だろうとは思ってはいるが、しれっとした態度にも感じてしまう。
    仕方ないか。と琉嘉は鍾離を見上げたまま諦める。stripで駄目ならもう少し踏み込むしかない。
    「先生はそんなに俺が好きか?」
    意識して冷たい微笑。見下ろす鍾離の表情に変化はない。その頬に手を伸ばして琉嘉は言った。
    「キスして。鍾離先生」
    目を見張った鍾離が、言葉に引かれるように身をかがめたのを自制するのが分かった。
    「早く」
    自分からその顔を引き寄せる。作り物みたいに綺麗な顔をしているが、その頬はあたたかい。意志の光が灯る金の瞳がその中でも一番綺麗だ。
    肩を掴んで身をかがめる鍾離が、唇が振れる直前で、その言葉を呟いた。


    一瞬で琉嘉の顔から血の気が引くのを鍾離は見つめていた。
    セーフワードを口にされたDomの反応を見るのは、もちろんこれが初めてだが、鍾離が危惧していた通りに、琉嘉にとってその負担は大きいようだった。
    「good《良く言えました》」
    先ほどの高圧的な態度から一変して琉嘉は微笑む。力なさそうなその表情に労おうとしたところを頬を撫でられる。手を持ち上げるのが億劫そうだったが、琉嘉は極めていつも通りの態度を取ろうとしていた。
    「今日はこれで終わりだ。嫌な思いをしたな。次回はまた十日後だが、気になることがあったら手紙を出してくれ」
    「琉嘉」
    腕を掴まれて膝の上から下ろされる。
    琉嘉の体調を問おうとした瞬間に、強いまなざしが鍾離を捕らえる。
    「良い子だから」
    一つ息を吸う。
    「《帰りなさい》」
    本能がこの場を今すぐに去れと囁く。勝手に琉嘉から二歩ほど体が距離を取った。
    「琉嘉。十日後に必ずだ。違えてくれるな」
    今日はこれ以上の会話は無理だろう。部屋を立ち去った鍾離は、受付で今日の滞在について確認する。
    「珍しくご一泊の予定ですね」
    セーフワードを言われることで体調を崩すことを見越していたらしい。
    確かに鍾離はプレイについて、これから先の人生で不都合がないように一通りを教えてくれと乞うたが、これほどまでに献身的な対応を取られるとは思っていなかった。
    そもそも、プレイの感覚がつかめなかったこともあり、流れをなぞるだけの、理想的なプレイをするのだろうと思っていた。それなのに、琉嘉は自分の体調を崩させてまでセーフワードを言わせることにこだわった。
    やはり、あの男の理不尽な暴力(command)を受けたせいだろうか。確かに、凡人ならセーフワードを使う時を見誤るかもしれない。相手に苦痛を与えると知っていて好んで使うものは少ないだろう。それに自分が我慢すれば良い事だと、Subは相手のcommandに従順になりがちなのも、文献で読んで知っている。
    琉嘉は入れ込まれることを警戒しているのには気づいている。過去に何かあったのかもしれない。
    だが、琉嘉の方こそ入れ込んでいるのではないかとも考えていた。だが今日の琉嘉の様子を見て確信した。あれは鍾離に与えられているものではなく、未熟なSub(圏点)に向けられている庇護だ。彼は必要以上の義務感を持って鍾離を導いている。
    それは少々、気にくわない。
    やはり入れ込んではいるのだろう。長い人生の中で通り過ぎるだけの相手に覚える感情で済ませるには大きくなっている。だが、この感情の分析がまだ出来ない。
    執着を恋と定義するのであれば、それでも構いはしなかった。情は移り行き、名を変えることもあると知っている。ひと時の感情に名を付けたとして、重要なのは、自分が何を望むかだ。
    琉嘉について知りたい。
    それが今のところの欲求だろう。あの男の本性を覗いてみたい。それは凡人となった今だからこそ許される、他人の心への踏み込みだ。
    この好奇心が、実験的であることも自覚している。神として律してきた心をどこまで一個人に砕くか、その境界を探っている。
    ああ、世話をしたかったな。とそれから思った。
    あの顔色の悪い琉嘉を甲斐甲斐しく、何から何までしてやって、元の状態に整えたかった。
    しばらくは琉嘉からの信頼を築くのが良いだろう。
    焦る必要はない。旅はいつか終わるものだ。そしてこの人生はまだ長いのだから。
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