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    進捗。下書きクオリティ。

    #リヴァエレ
    liveried

    宣戦布告 Prologue



     こんなに退屈なことって、ないと思う。
     朝起きて学校に行って面白みのない授業を受けて。放課後だって、部活とか人付き合いとか、他のやつらには予定がたくさんあるんだろうけどさ。オレは残念ながらやりたいことには出会えなかったから、速攻で家に帰るしか選択肢がないんだよな。
     オレがなにかを見つけて成し遂げるまえに時間はあっという間に過ぎ去って、太陽が沈めばベッドに入って目をつむった。そのなかには眠れない夜もあったけれど、オレの日常なんてだいたいはそんな感じ。
     変化を強く望んでいようが──無駄な足掻きだとわかりきっているけれども──いまいが、現実はなにも変わらず、一日は終わってまたはじまるんだよな。
    『この世のなかの一切のものに永遠不変はない』
     なんていうけれど。どうやらオレにかんしては、当てはまらないみたいだ。
     おもしろいことなんて、ひとつも起こらない。おんなじことのくり返し。代わり映えしない毎日なんだ、オレの人生って。
     だけど、数少ない友人たちの会話に、てきとうに相槌を打ちながら流れに身を任せていたそのとき、オレの人生は一変することになった。
     オレは雷に打たれちまったんだ。
     まあそれは比喩なんだけどさ。たとえば……そうだな、何年も何年もしまい込まれていたものが──そんな自覚はまったくこれっぽっちもなかったんだけれど──蓋をはじき飛ばしてこぼれ出したような、大気を切り裂いて烈しい振動とともに落ちる稲妻の太い槍に打たれたような……思わず詩的な表現になっちまうほど、驚きの感覚だったんだ。
     その瞬間といったら! ビリビリっと指先がしびれたかと思ったら、それがものすごいスピードで腕を通って背中とケツのほう、ふたつに別れてさ。つま先やかかと、頭のてっぺんにまで、いっきに全身に走っていく感じって言えば、あんたにわかるか? ……わからなくたって、べつにいいや。説明するのはめんどくさいからな。……まあ、簡単に言うと、そんなものが突然オレを襲ったってはなし。
     そして、事の発端はこれだ。
    『今回ばかりは僕に付き合ってもらうからね』
     アルミンが今猛烈にはまっているっていう、漫画だかアニメだかの映画化が決まり、興奮のままに『きみも一緒に見てよ!』ってせっつかれたんだ。ふだんのオレだったら「いやだ」ってひと言で断っているはずなんだけどさ……。その日のアルミンは『なにか』が違っていたんだ。まるで別人のようだったよ。熱っていうか圧っていうか……そうだ、熱意だ! それがものすごく強かったんだ。オレが押し負けちまうくらいに。アルミンは大事な友達だし、我を通すことなんてそうそうないから、断りきれなかったんだよな。だから、その、渋々見に行った映画館でさ、前述の精神的な落雷が起きたんだよ。
     原因はちゃんと把握している。それは映画の中身なんかじゃなくて(それは心底どうでもよかった。内容もまったく覚えていないし)いちばん最後のやつ。エンドロールだ。
     戦いのクライマックス。満身創痍の主人公が、仲間達と涙を流しながら笑いあう色鮮やかなスクリーンに、突如覆い被さる激しいイントロ。ジャカジャカと叩くように弾く、ギターソロからはじまったロック・ナンバーは、感動的だと言われていたラスト・シーンにはぜんぜんまったく絶対に相応しくないと、初聴でオレは思った。……思ったのだが、けたたましいギターの旋律に乗っかったボーカルの声を、鼓膜が拾った瞬間のことだった。
     ビカッと稲光。追い討ちをかけるように、もうひとつビカッと光る。それから間をあけずに鋭い雷がオレの身体を貫いたのだ。
     出だしは消え入りそうなほど優しいハスキー・ボイス。とても低い男声だ。
     その声に、でたらめに弾いていると思ったギターやベース、ドラムが重なると、甘いメロディに変わった。同時にスクリーンも、美しいアニメーションが真っ黒に塗りつぶされて、白色の細かい文字がゆっくりと流れはじめた。
     転調の驚きも束の間で、ボーカルの歌声にオレは胸をわしづかみされた。スクリーンに一度だって彼らの姿は映されていないというのに。
     バスだと思われた低く掠れた声が、だんだんと強弱をつけながら高くなった。バリトンにテノールと変わりながら、満ちていく潮のように自由にゆるやかに空間を広がっていく。
     聞き入っていると、突然、歌声が一際高くなったような気がした。オレは眉間に力を入れて、耳を傾けてみる。……女性ソプラノのように妖艶な声だ。
     オレは両目をまんまるにして、身を乗り出した。瞬きは一切せず、暗闇で唯一の光を放つスクリーンを食い入るように見る。
     どれくらいの数の文字が、ここに映されているかなんてわからない。オレの目的の文字が、いつ映し出されるかなんて知らない。
    だけど、かまわずにオレは白い文字が続くなかで『彼ら』を探すことに集中した。
     ―あ。
     ぽかんと口を開けてしまった。声はかろうじて出さなかった。
     見つけた。オレは汗が浮かぶ手のひらで、こぶしを握る。これはすべて無意識でのことだった。
     エンディング・テーマの文字が流れると、身体が震えた。目を細め、絶対に見逃すまいと睨みつけた。

    『エンディング・テーマ』
    『No Name』

     胸が熱くなり目が涙にあふれる。もちろんそれは感動のためだ。だけどずっと瞬きをしていなかったから、そっちのほうが理由としては強いかも。
     大粒の涙がこぼれ、頬を濡らした。オレはそれを力任せに拭う。
     恋は稲妻のようだ。
     まさにその言葉がしっくりくるような状態だったんだ、オレは。
     恋に似た感情が、すごくむずがゆくて下唇を強く噛みしめたせいで、かさぶたができてしまった。

     ──そのとき、オレは人生でいちばん重大な選択肢を突きつけられていたのだ。そして、それに気づくこともなく、ものの見事に選択を間違えてしまった。

     出会わなければよかった。知らなければ、こんなに苦しい気持ちに気づかなかったのに。……まるで、だれかが歌ったラブ・ソングみたいな心境だ。
     だけど、すべてが終わった今だからそう思うんだよな、きっと。このときのオレは、退屈な日々が変わる予感と未知の時間への期待に胸が踊って、ぷるぷるって震えていたんだ。冷静ではいられなかったんだ。だれにでもそういう時期ってあるだろう?
     ほんと、馬鹿だよな。笑えねぇって、まじで。
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